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Y電機事件(控訴)

事件の分類
雇止め
事件名
Y電機事件(控訴)
事件番号
広島高裁松江支部平成27年(ネ)第83号
当事者
原告…個人、被告…株式会社
業種
製造・販売業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2016年04月13日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 Y(一審被告、二審被控訴人)は、電気・通信・電子及び照明機械器具の販売・製造等を目的とする株式会社であり、2012(平成24)年4月、三洋電機コンシューマエレクトロニクス株式会社(以下、「鳥取三洋」という。)を吸収合併し、鳥取三洋における事業をYの一部門とした(以下、上記吸収合併前の鳥取三洋を「Y」ということがある。)
 X(一審原告、二審控訴人)は、1984(昭和59)年6月20日頃、鳥取三洋との間で、契約期間を1年間とする雇用契約(終期は6月20日)を締結した労働者である。Xは雇用契約(以下、「本件雇用契約」という。)の更新を重ね、前記の吸収合併により、鳥取三洋との雇用契約はYに承継された。なお、本件雇用契約当時Xは準社員として雇用されたが、1992(平成4)年12月、新準社員となった。
 YはXに対し、2006(平成18)年6月20日より前に、雇用期間を同月21日から2007(平成19)年6月20日までと定めた契約書を提示し、Xは、これに署名・捺印したうえ、Yに提出した。
 YはXに対し、2006年7月11日付で、契約期間を同月21日から2007年6月20日まで、業務内容をF社に出向し、出向先における清掃業務とする労働契約を提示したが、Xは、これに署名・捺印しなかったのにもかかわらず、Yの事業施設の清掃業に従事し、給与の支払いを受けた。
 YはXに対し、2007年6月20日よりも前に、雇用期間を同月21日から2008(平成20)年6月20日までと定めた契約書を提示したが、Xは、弁護士を通じて出向先の清掃業務とされた業務内容、及び基本給について不服を述べ、労働の意思を示しつつもこれに署名・捺印しなかった。
 Xは2007年6月21日にYから雇止めを受けるも、同年7月5日から、清掃業務を再開した。
 YはXに対し、時期は不詳であるが、雇用期間を2009(平成21)年6月21日から2010(平成22)年6月20日までと定めた契約書を提示したが、Xは、署名・捺印をせず、この間、清掃業務に従事した。
 Yは、Yの一部門を2013(平成25)年1月1日付けでテガ三洋工業株式会社(以下、「テガ三洋」という。)に事業譲渡し、原則として鳥取から撤退することとし、2012年10月15日頃、従業員説明会を開いた(以下、「本件従業員説明会」という。)。Yは、本件従業員説明会において、鳥取地区における事業部門で雇用されることを望む者はテガ三洋の転籍に応募する必要があり、転籍ができない場合等には、早期退職優遇制度を利用するか、再配置・他部門への異動をすることとなる旨を説明した。これに対し、Xは、テガ三洋の転籍の公募に応募せず、早期退職優遇制度を利用しなかった。
 Xの出向先であったF社は、Yに対し、2012年12月5日付けで、同月末日付けでXの出向解除を依頼し、これを受け、Yは同出向を解除し、Xに対し、2013年1月より自宅待機を命じた。Xは、同年1月8日付けで、Yからの連絡に応じて、応募書類を作成し、Yほかの合弁会社であるH社と数回面談した。H社は、合計62件の出向先調査をしたが、Xの受入先を確保できなかった。
 Yは、Xに対し、2013年2月28日付けで雇用契約終了通知と題する書面を、同年3月
22日付けで雇用契約終了の件と題する書面をそれぞれ交付し、2013年3月31日をもって雇用契約が満了すること及び次回の契約更新をしないことを通知した(以下、同年3月22日付けのものを「本件雇用契約終了通知」という。)。
 これに対しXは、YのXに対する解雇ないし雇止め(以下、「本件雇止め」という。)は無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、ならびに2013年4月から判決確定日までの賃金等の支払いを求めて提訴したが、いずれも棄却されたため、Xが控訴した。
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用はXの負担とする。
判決要旨
 Xは、本件雇用契約が有期雇用契約であるとしても、Xの業務内容が正社員と比較して何ら遜色あるものではないこと、X・Y間の雇用契約が約30年間にもわたって反復継続して更新されてきたこと等から労働契約法19条1号に該当するとして、本件雇止めは、Yにおいて期間定めのない契約における解雇と同程度の主張・立証が必要である旨主張する。しかし、2006年以前は、毎年Xと鳥取三洋は労働契約書を作成し、Xが更新手続きを履践していたと認められること、Xが2006年7月にF社に出向扱いとなった際にも労働契約書が交付されていたこと等を鑑みれば、Xの労働契約は長期反復継続されていたものの、その雇用管理は厳格に行われており、更新が自動的・形式的なもので、期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態で存在したものと認めるに足りない。本件雇用契約が約30年にわたり更新されてきたことは、雇用関係が継続されるものと期待することへの合理的期待を基礎づける一事情として、もっぱら労働契約法19条2号の適用が問題となるにすぎないというべきである。
 本件雇止めが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」といえるか(労働契約法19条柱書)が問題となるところ、(1)人員削減の必要性、(2)解雇(雇止め)回避努力、(3)人選の合理性、(4)手続きの妥当性の見地から、雇止めの適法性を検討すべきである。
 (1)につき、近年は家電業界全体が、厳しい国際競争の中で、不採算部門のリストラが必要とされる状況が続いてきたこと、テガ三洋がどの程度の規模で譲受事業を行うのかは同社の経営判断に属するものであって、譲渡会社であるYが自由に決められることではないこと等に鑑みれば、人員削減の必要性があったことは優に認められる。
(2)及び(3)についても、Yはテガ三洋への転籍公募や早期退職者への特別キャリア支援を実施した上、Xの鳥取県内における出向先開拓をリクルートに依頼し、財団法人産業雇用安定センター鳥取事務所に調査するなどし、これらの経過を受け、労働組合もXの雇止めをやむを得ないものと受け入れていることを併せ考慮すれば、Yが解雇回避努力を尽くしたことは優に認められる。また、Xは40年近くYに勤務し、他の従業員や派遣社員と比較して適格であるため、自らがレガシー業務に就けなかったことに合理的な理由はないと主張するが、Xは40年近く鳥取三洋に勤務していたものの、2006年以前はいすれも製造過程における部分管理に従事しており、2007年7月からは清掃業務に従事していたにすぎず、レガシー業務の経験がなかったことはもとより、必要な電話回線の知識もなかったと認められること等に鑑みれば、Yにおいて、Xをこれに充てなかったYの判断は十分合理的理由があったというべきである。
(4)につき、Yは、本件雇用契約終了通知の4カ月以上前である2012年10月に本件従業員説明会を開き、Xを含めた従業員に今後の雇用の方向性等について説明をし、Xの希望を受けて鳥取地区内の出向開拓を検討し、その過程について、労働組合と協議している等が認められ、本件雇止めまでの手続きに不合理な点があるとはいえない。
その他、Xが縷々主張する点を考慮しても、本件雇止めが合理的理由を欠き、社会通念上相当性を欠いているものとは認められない。
以上によれば、Xの請求はいずれも理由がないことから、これらを棄却した原判決は相当であり、本件控訴を棄却することとする。
適用法規・条文
労働契約法19条1号、2号
収録文献(出典)
D1-Law.com判例体系
その他特記事項