判例データベース
Y航空会社客室乗務員解雇事件(地裁)
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- Y航空会社客室乗務員解雇事件(地裁)
- 事件番号
- 東京地裁 平成23年(ワ)第1429号
- 当事者
- 原告…従業員76名、被告…航空会社
- 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2012年03月30日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- Y(被告)は国際旅客事業、国内旅客事業等を営む株式会社であり、X(原告)はYに期間の定めなく雇用され、2010(平成22)年12月31日付で解雇されるまで勤務していた客室乗務員である。Yは経営不振を理由として、2010年1月19日、更生裁判所に対して会社更生手続きの開始を申し立てた(当該手続きの開始が同日決定された)。更生手続きにおいて選出された更生管財人Cらは、事業規模を大幅に縮小するなどの更生計画案を策定し、2010年8月31日に更生裁判所に対してこれを提出した。同計画案では人件費を含むコストの削減が計画され、人員削減に関してはグループ社員数を2009(平成21)年度末現在の48,714人から、2010年度末までに約32,600人にするものとされた。同計画案は債権者96%以上の賛成を得て、2010年11月30日に認可された。
2010年3月以降、合計6回にわたる希望退職措置を実施したが、必要な人員削減に達しなかったことから、Cは整理解雇を実施することとした。その基準として①2010年8月31日時点の休職者、②病気欠勤日数や乗務離脱期間、休職期間が特定の期間に長い者、③人事考課の結果が3年間に毎年2以下であった者、④職種・職位ごとに年齢の高い者とし、84名が解雇対象となった。2010年12月9日にYは解雇の予告をし、同月31日付でXらを解雇した(以下、「本件解雇」とする。)。
解雇されたXらは、Yとの雇用契約上の地位の確認等を請求し、提訴した。 - 主文
- 1 Xらの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用はXらの負担とする。 - 判決要旨
- 会社更生手続きは、直ちに労働者の就労が拒否されるわけではないこと、清算型の倒産処理手続き下においても、労働基準法上の解雇制限の適用があると解される上、再建型の倒産手続処理においては、更生管財人が労働協約を解除することができない旨の特則(会社更生法61条3項、民事再生法49条3項)が置かれていること、労働契約は、反対給付不履行の場合の履行拒絶禁止規則が適用されない旨の特則(会社更生法62条3項、民事再生法50条3項)が置かれていることに鑑みると、会社更生手続下でされた整理解雇については、労働契約法16条(解雇権濫用法理)の派生法理と位置付けるべき整理解雇法理の適用があると解するのが相当である。
したがって、上記の権利濫用法理の適用に当たっては、①人員削減の必要性の有無、程度、②解雇回避努力の有無、程度、③人選の合理性の有無、④解雇手続きの相当性を具体的に検討し、これらを総合考慮するのが相当である。
①につき、本件更生計画は、Yを二度と沈むことのない船にするために立案・実行されたものであり、本件会社更生手続の究極の目的は、こうした、公共交通機関として航空機の運搬業務を担うYの事業の持続と安定を図る点にあったというべきである。
以上を踏まえると、有効配置数のうち必要稼働数を超える人員の削減を行うことは、真にやむを得ないものであったと評価することができる。本件事業更生計画に示された人員削減施策を希望退職のみによってまかなうことは相当の困難を伴うものである、本件更生計画案及びその前提となり本件新事業再生計画の実現時期を遅くとも2010年12月31日と設定した管財人の判断には、合理性を認めることができる。
以上によれば、本件において、人員削減の必要性は相当に高いものであった。営業実績が好調であるからといって、直ちに、人員削減の必要性を相殺する理由にはならない。リスク耐性が強化されたから人員削減の必要性がないというのは、本末転倒の議論である。
②につき、Yは、希望退職募集の回数や条件、新規採用の抑制等、可能な限り本件解雇を回避しようとした姿勢がうかがわれる。Yが本件解雇に先立ち行った解雇回避措置は、いずれも合理的なものであり、総合して、破格の内容のものであるということができるから、Yは、本件解雇に当たって十分な解雇回避努力を尽くしたものと認めるのが相当である。
③につき、基準設定の経緯、基準の性質から、本件人選基準は、本件解雇に当たっての人選基準として合理的な内容のものであるということができる。
④につき、本件解雇に当たっての手続的相当性は、十分に備えているものと評価するのが相当である。
よって、Xらの本訴請求は、いずれも理由がないことから棄却することとし、主文の通り判決する。 - 適用法規・条文
- 労働契約法16条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1055号60頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 平成23年(ワ)第1429号 | 棄却 | 2012年03月30日 |
東京高裁 平成24年(ネ)第3458号 | 棄却 | 2014年06月03日 |