判例データベース
T社女性技術者(うつ病・解雇・差戻審)事件
- 事件の分類
- うつ病・自殺解雇
- 事件名
- T社女性技術者(うつ病・解雇・差戻審)事件
- 事件番号
- 東京高裁・差戻審 − 平成26年(ネ)2150号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2016年08月31日
- 判決決定区分
- 一審原告控訴:一部認容(原判決一部変更)一部棄却、一審被告控訴:棄却[確定]
- 事件の概要
- T社(控訴人兼被控訴人)は、電気機械器具製造等を目的とする株式会社であり、X(被控訴人兼控訴人)は、1990(平成2)年4月にT社に雇用された労働者である。
Xは2001(平成13)年頃からうつ病に罹患して休職し、休職期間満了後にT社から解雇された。これを受けXは、本件うつ病は過重な業務に起因するものであって、解雇は労働基準法19条1項等に違反する無効なものであると主張して、T社に対し、安全配慮義務違反等による債務不履行または不法行為に基づく休業損害や慰謝料等の損害賠償、見舞金の支払い等を求めて提訴した。
差戻前控訴審(東京高判2011年2月23日労判1022号5頁)は、一審(東京地判2008年4月22日労判965号5頁)と同様、本件解雇は無効であるとし、過重な業務によって発病した本件うつ病につきT社はXに対し安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償責任を負うとした上で、その損害賠償額を定めるにあたり、X自らの精神的健康に関する情報のT社への不申告等を理由に、過失相殺に関する民法418条または722条2項の規定の適用ないし類推適用により損害額の2割を減額した。この過失相殺などの判断を不服としてXは上告受理申立てをし、上告審判決(最判2014年3月24日労判1094号22頁)は、Xが自らの精神的健康に関する情報をT社に申告しなかったことをもって、過失相殺することはできず、差戻前の二審判断には法令の解釈適用を誤った違法があるとし、二審判決を破棄して東京高裁に差し戻した。これを受けてXは、安全配慮義務違反等による損害賠償の請求、見舞金の支払いを主張した。また、Xはこれらの請求の附帯請求の利率について、いずれも年5分としていたものの、商法514条の適用を主張して、これを年6分に拡張した。 - 主文
- 1 一審原告の控訴に基づき、一審判決中損害賠償請求に関する部分を次の通り変更する(当審における新たな請求に関する判断を含む)。
(1)(損害賠償・休業損害を除いた慰謝料等)
一審被告は、一審原告に対し、603万4000円及びこれに対する平成16年12月10日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)(損害賠償・休業損害)
一審被告は、一審原告に対し、5186万0526円及びうち3528万5995円に対する平成28年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)(同上)
一審被告は、一審原告に対し、平成28年6月25日から本判決確定の日まで、毎月25日限り月額47万3831円及びこれらに対する各月26日から支払済みまでいずれも年5分の割合による金員を支払え。
(4)(見舞金)
一審被告は、一審原告に対し、160万円及びこれに対する平成22年7月22日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)一審被告のその余の請求をいずれも棄却する。 - 判決要旨
- 年6分の割合による遅延損害金の請求につき、XとT社の雇用契約が商行為に当たるとしても、同契約付随義務である安全配慮義務違反による損害賠償請求権に係わる債務が商法514条の「商行為によって生じた債務」に該当すると解することはできず、したがって安全配慮義務違反による損害賠償請求権の遅延損害金の利率について、同法514条の適用はなく、この点に関するXの主張は採用することができない。
損害賠償額については、治療費、診断書作成料及び交通費を合計した額と、これに慰謝料を加えて443万4000円となる。そして、この金額のほか、後述の通り休業損害も認められるべきものであること、本件事案の内容や訴訟の経緯に照らすと、T社の債務不履行と相当因果関係のある損害としての弁護士費用総額は160万円と認められるのが相当である。そうすると、休業損害を除いた慰謝料等の合計は603万4000円となる。したがって、債務不履行による 損害賠償(休業損害を除いた慰謝料等)請求について、上記損害賠償金及びこれに対する遅延損害請求を認容すべきこととなる。
損害賠償(休業損害)請求について、口頭弁論終結日である2016(平成28)年6月20日の時点での休業損害は3528万5995円であり、これに対して確定遅延損害金1657万4531円が発生しているから、これらの合計額は5186万0526円となる。したがって、債務不履行による損害賠償(休業損害)請求として、まず、この合計額5186万0526円及び損害賠償金3528万5995円に対する同月21日から支払済みまでの遅延損害金請求を認容すべきことになる。
見舞金については、160万円とこれに対する遅延損害金請求を容認すべきことになる。
なお、いずれの請求についても、上記の通り遅延損害金の利率は、年5分となる。 - 適用法規・条文
- 労働基準法19条1項、商法514条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1147号62頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 平成16年(ワ)第24332号 | 一部認容・一部棄却 | 2008年04月23日 |
東京高裁 - 平成20年(ネ)第2954号 | 原判決変更(一部認容・一部棄却) | 2011年02月23日 |
最高裁二小 − 平成23年(受)1259号 | 原判決一部破棄差戻し 一部棄却 | 2014年03月24日 |
東京高裁・差戻審 − 平成26年(ネ)2150号 | 一審原告控訴:一部認容(原判決一部変更) 一部棄却 | 2016年08月31日 |