判例データベース
介護サービス事業所ほか事件
- 事件の分類
- 妊娠・出産・育児休業・介護休業等
- 事件名
- 介護サービス事業所ほか事件
- 事件番号
- 福岡地裁小倉支部 - 平成26年(ワ)823号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 個人・株式会社 - 業種
- 医療、福祉
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2016年04月19日
- 判決決定区分
- 一部認容、一部棄却
- 事件の概要
- Y1社(被告)は、介護サービスを営む株式会社であり、X(原告)は、2009(平成21)年4月頃、期間を定めてY1社に採用され、その後も雇用継続されて、A営業所(以下、「本件営業所」とする。)において、介護職員として就労していた。
2013(平成25)年8月1日、XはY1社の従業員であり、2012(平成24)年6月1日以降本件営業所の所長を務めていたY2(被告。以下、Y1社と併せて「Yら」とする。)に対し、妊娠したことを報告した(当時、妊娠4か月。)。これを受けてY2は、担当業務のうち何ができて何ができないかを確認するようXに指示した。そしてそれから1か月以上経過した同年9月13日になって初めて、業務軽減に向けた面談が行われた(以下、「本件9月面談」という。)。
Xは、本件9月面談の中で、可能な業務を挙げて業務軽減を求めたが、Y2は、Xが可能とした歩行介助の危険性を指摘するとともに、妊娠以前から、言葉遣いや仕草など、Xの勤務態度に問題があったため、改善を求める旨を述べると同時に、「妊婦として扱うつもりないんですよ」、「万が一何かあっても自分は働きますちゅう覚悟があるのか、最悪ね。だって働くちゅう以上、そのリスクが伴うんやけえ」などの発言をした。
Y2は、本件9月面談終了時に、できる業務とできない業務について、再度医師に確認して申告するようにXに指示したのみであり、Xの業務内容変更などの措置を講じることはなかった。そのためXは、体調が悪い時は負担の大きい業務を他の職員に代わってもらうなど、自主的に対応していた。
2013年12月3日、Xが夫とともに、Y1社のB圏本部長及び同Dエリア統括と面談をし、再度業務の軽減を求めたところ(以下、「本件12月面談」という。)、それ以降、ようやく具体的に業務軽減が図られることになった。また、Xの業務時間は、同月までは1日8~10時間であったが、2014(平成26)年1月からはXの体調に配慮して、4時間程度とされた。その後、Xは2014年1月20日から有給休暇を取得し、同年2月17日に出産、同年8月まで出産及び育児休暇を取得した。
Xは、Y2が、妊婦であったXの健康に配慮し良好な職場環境を整備する義務を怠ったと主張し、Y2に対しては不法行為に基づき、Y1社に対しては使用者責任と、労働契約上の就業環境整備義務に反したとして、債務不履行に基づき、損害賠償を請求して提訴した。 - 主文
- 1 被告らは、原告に対し、連帯して35万円及びこれに対する被告Y2については平成26年9月7日から、被告Y1社については同月8日から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを14分し、その13を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- (1)Y2の配慮義務違反について。本件9月面談におけるY2の言動(以下、「本件言動」という。)についてみてみると、その趣旨は、Xの勤務態度につき、真摯な姿勢とはいえず、妊娠によりできない業務があることはやむを得ないにしても、できる範囲で創意工夫する必要があるのではないかという指導をすることにあったのであり、また、従前のXの執務態度から見てその必要性が認められることからすれば、その目的に違法があるということはできない。
しかしながら、本件言動は、必ずしも肯定的でないXに対する評価を前提としても、やや感情的な態度と相まって、妊娠した者(X)に対する業務軽減の内容を定めようとする機会において、業務態度等における問題点を指摘し、これを改める意識があるかを強く問う姿勢に終始しており、受け手(X)に対し、妊娠していることを理由にすることなく、従前以上に勤務に精励するよう求めているとの印象、ひいては、妊娠していることについての業務軽減等の要望をすることは許されないとの認識を与えかねないもので相当性を欠き、また、速やかにXのできる業務とできない業務を区分して、その業務の軽減を図るとの目的からしても、配慮不足の点を否定することはできず、全体として社会通念上許容される範囲を超えているものであって、使用者側の立場にある者として妊産婦労働者(X)の人格権を害するものといわざるを得ない。
Yらは、本件発言を含む本件9月面談の内容は業務指導に関するもので、マタハラやパワハラではない旨を主張するが、Y2において、嫌がらせの目的は認められないにしても、上記の通り業務指導としては不当なものである。
次に、Y2の執った業務軽減措置についてみると、Y2はXから妊娠の報告を受け、上司から妊婦の健康に配慮した業務内容の変更を指示されたにもかかわらず、1か月以上経過して初めてXの話を聞いた(本件9月面談)ものの、これを受けて具体的な措置を講じることなく、さらに本件12月面談までは、Xや他の職員の自主的な配慮に委ねるのみで、Xと再度の面談を行うこともなかった。Y2が再度医師に対しできる業務とできない業務を確認して申告するようにXに指示し、Xの申告を待つこと自体に問題があるとはいえない。しかし、Xに対する言動には違法なものがあり、これによりXが委縮していることも勘案すると、指示をしてから1か月を経過してもXから何ら申告がないような場合には、Y2においてXに再度状況を確認する等、Xの職場環境を整える義務を負っていたというべきである。そして、Y2は何らの対応もしていないところ、Xに対して負う職場環境を整え、妊婦であったXの健康に配慮する義務に違反したものといえる。
(2)Y1社の責任について。Y2の言動は、Y2がY1社の事業執行として行ったものであるから、これによりXに生じた損害につきY1社は賠償する責任(使用者責任)を負う。
Y1社は、Xの使用者として、雇用契約に付随する義務として妊娠したXの健康に配慮する義務を負っていたが、Y2から本件営業所の従業員が妊娠したとの報告を受けながら、その後、Y2から具体的な措置を講じたか否かについて報告を受けるなどして、さらにY2を指導することや他の者をして具体的な業務の軽減を指示することなくいたことからすれば、Xから妊娠の報告があった以降適切な対応をすることのないまま、再度Xからの申出を受けた本件12月面談になってようやく業務軽減等の措置を執ったことからすれば、それ以降、Y1社において、関係部署に事情を周知させて対応を求める等、Xの状況に配慮した対応をしたことを考慮しても、その従前の対応は、就業環境整備義務に違反したものということができる。
以上によれば、Y2に対する不法行為責任、Y1社に対する使用者責任及び債務不履行責任に基づき、Xへの損害賠償の支払いが認められる。 - 適用法規・条文
- 民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1140号39頁
- その他特記事項
- Xは、Xの業務別時給につきすべて介護職員時給で計算されるべきと主張し、未払賃金の支払いも併せて請求したが、本件は棄却された。なお、本事件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|