判例データベース
元従業員ほかセクハラ行為事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 元従業員ほかセクハラ行為事件
- 事件番号
- 最高裁-小-平成28(受)第2076号
- 当事者
- 控訴人…個人、被控訴人…個人、企業
- 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2018年02月15日
- 判決決定区分
- 破棄自判
- 事件の概要
- X(一審・原告、二審・控訴人)は、2008(平成20)年11月頃、Y4(I株式会社、一審・被告、二審・被控訴人)社の子会社である株式会社Iキャリア・テクノ(一審・被告、二審・被控訴人-以下、「勤務先会社」という。)の契約社員として採用され、Y4社の事業場にある工場(以下、「本件工場」という。)において、勤務先会社がI建設株式会社(以下、「発注会社」という。)から請け負っている業務に従事していた労働者である。Y1(個人、一審・被告、二審・被控訴人)は、発注会社の正社員であり、2009(平成21)年から2010(平成22)年当時、課長の職にあった。
Y1、Xらは、本件工場内の休憩室において雑談をするグループメンバーであった。XとY1は2009年9月頃までにメールアドレスを交換し、職場外でも親しくなり、遅くとも2009年11月頃から肉体関係を伴う交際を始めたが、2010年2月頃以降、次第に関係が疎遠になり、同年7月末頃までに、Xは、Y1に対し、関係を解消したい旨の手紙を手渡した。
しかしながら、Y1は、Xとの交際を諦めきれず、2010年8月以降、本件工場で就労中のXに近付いて自己との交際を求める旨の発言を繰り返し、Xの自宅に押し掛けるなどした(以下、Xが勤務先会社を退職するまでに行われたY1の上記各行為を、「本件行為1」という。)。Xは、Y1の本件行為1に困惑し、次第に体調を崩すようになった。
このため、Xは、同年9月、配属された課の係長に対し、Y1に本件行為1をやめるよう注意して欲しい旨を相談した。係長は、朝礼の際に「ストーカーや付きまといをしているやつがいるようだが、やめるように。」などと発言したが、それ以上の対応はしなかった。
同年10月4日、Xは、その後も本件行為1が続いたため、係長と、同月12日に課長及び係長とそれぞれ面談をし、本件行為1について相談した。しかし、依然として対応をしてもらえなかったため、Xは、同日、勤務先会社を退職した。そして、Xは、同月18日以降、派遣会社を介してY4社の別の事業場内における勤務に従事した。
しかし、Y1は、Xが勤務先会社を退職した2010年10月12日から同月下旬頃までの間や、2011(平成23)年1月頃にも、Xの自宅付近において、数回自らの自動車を停止させるなどした(以下、Y1の上記行為を「本件行為2」といい、本件行為1と併せて単に「本件行為」という。)。
Xが本件工場で就労していた当時の同僚であった勤務先会社の契約社員Dは、Xから、自宅付近でY1の自動車を見掛ける旨を聞いた。そして、Dは、2011年10月、Xのために、Y4社とその子会社である発注会社及び勤務先会社等から成るグループ会社(以下、「本件グループ会社」とする。)が設置するコンプライアンス相談窓口(以下、「本件相談窓口」という。)に対し、Y1がXの自宅付近に来ているようなので、X及びY1に対する事実確認等の対応をしてほしい旨の申出(以下、「本件申出」という。)をした。なお、本件相談窓口は、Y4社の取締役及び使用人の職務執行の適正並びに本件グループ会社から成る企業集団の業務の適正等を確保することを目的とした体制(以下、「本件法令遵守体制」という。)整備の一環であり、本件グループ会社の事業場内で就労する者が法令等の遵守に関する事項を相談することのできる窓口であった。
Y4社は、本件申出を受け、発注会社及び勤務先会社に依頼してY1その他の関係者の聞き取り調査を行わせるなどしたが、勤務先会社から本件申出に係る事実は存在しない旨の報告があったこと等を踏まえ、Xに対する事実確認は行わず、2011年11月、Dに対し、本件申出に係る事実は確認できなかった旨を伝えた。
Xが、Y1に対しては不法行為に基づく、勤務先会社に対しては雇用契約上の安産配慮義務違反又は雇用機会均等法11条1項所定の措置義務違反を内容とする債務不履行に基づく、Y4社に対しては安全配慮義務違反ないし不法行為に基づく損害賠償などを求めた控訴審判決においては、これら損害賠償請求が一部容認された。これに対し、Y4社が上告した。 - 主文
- 1 原判決中上告人敗訴部分を棄却する。
2 前項の部分につき、被上告人の控訴を棄却する。
3 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。 - 判決要旨
- Xは、勤務先会社に雇用され、本件工場における業務に従事するに当たり、勤務先会社の指揮監督下で労務を提供していたというのであり、Y4社は、本件当時、法令等の遵守に関する社員行動規準を定め、本件法令遵守体制を整備していたものの、Xに対しその指揮監督権を行使する立場にあったとか、Xから実質的に労務の提供を受ける関係にあったとみるべき事情はない。また、Y4社において整備した本件法令遵守体制の仕組みの具体的内容が、勤務先会社が使用者として負うべき雇用契約上の付随義務をY4社自らが履行し又はY4社の直接間接の指揮監督の下で勤務先会社に履行させるものであったとみるべき事情はうかがわれない。
以上により、勤務先会社が本件付随義務に基づく対応を怠ったことのみをもって、Y4社のXに対する信義則上の義務違反があったものとすることはできない。
もっとも、Y4社が本件法令遵守体制を整備した趣旨は、本件グループ会社から成る企業集団の業務の適正の確保等を目的として、本件グループ会社の業務に関して生じる可能性がある法令等の違反する行為(以下、「法令等違反行為」という。)を予防し、又は現に生じた法令等違反に対処することにあると解される。これに照らすと、本件窓口相談に対し、法令等違反行為によって被害を受けた従業員がその旨の相談の申出をすれば、Y4社は、当該申出に係る相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合がある。
これについて本件をみると、Xが本件行為1に対して本件相談窓口に対する相談の申出をしたなどの事情がうかがわれないことに照らすと、Y4社は、本件行為1につき、Xとの関係において、上記義務を負うものではない。
また、Y4社は、本件相談窓口において、DからXのためとして本件行為2に関する相談の申出を受け、発注会社及び勤務先会社に依頼してY1その他の関係者の聞き取り調査を行わせるなどをした。本件申出は、Y4社に対し、Xに対する事実関係等の対応を求めるものであったが、本件法令遵守体制の仕組みの具体的内容が、Y4社において本件相談窓口に対する相談の申出をした者の求める対応をすべきとするものであったとはうかがわれない。本件申出に係る相談内容も、Xが退職した後に本件グループ会社の事業場外で行われた行為に関するものであり、Y1の職務執行に直接関係するものではない。
したがって、Y4社において本件申出の際に求められていたXに対する事実確認等の対応をしなかったことをもって、Y4社のXに対する損害賠償を生じさせることとなる上記義務違反があったものとすることはできない。
以上により、Y4社は、Xに対し、本件行為につき、債務不履行に基づく損害賠償責任を負わない。 - 適用法規・条文
- 民法709条、710条、715条。雇用機会均等法11条1項
- 収録文献(出典)
- 労働判例1181号5頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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岐阜地裁大垣支部 − 平成27年(ネ)第812号 | 一部認容、一部棄却 | 2016年07月20日 |
東京地裁立川支部 − 平成27年(ワ)2386号 | 一部認容、一部棄却 | 2016年10月11日 |