判例データベース
協同組合Tほか事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 協同組合Tほか事件
- 事件番号
- 水戸地方裁判所 平成27年(ワ)第390号
- 当事者
- 原告:個人(X1、X2。いずれも外国人の技能実習生)
被告:協同組合Y1(監理団体)、被告Y2(実習実施機関。大葉の栽培を行う)、被告Y3 - 業種
- 監理団体・実習先は農業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2018年11月09日
- 判決決定区分
- 請求一部認容、一部棄却
- 事件の概要
- X1とX2(以下、まとめて「Xら」ということがある)とは、中華人民共和国の国籍を有する女性の技能実習生であり、監理団体である協同組合Y1を介して,実習実施機関であり大葉の栽培を営む被告Y2との間で雇用契約を締結していた。Xらの請求は以下の通りである。
X1は、所定労働時間外に大葉を束ねる作業(以下「大葉巻き作業」)を1束2円で行っていたが、大葉巻き作業は労働契約の対象となっている実習計画として定められた作業ではなかった。Xは,大葉巻き作業を雇用契約に基づきを行ったとして,Y2に対し,同作業に係る未払の残業代165万3915円及び遅延損害金を請求している。
また、X1は、Y2に対し,主位的に,Y2の責めに帰すべき事由によりX1の労務提供が不能になったとして,雇用契約に基づき,雇用期間の満了日までの各月の賃金(合計259万0137円)及び遅延損害金の支払を求め、予備的に,不法行為に基づき,上記の期間の賃金相当額及び遅延損害金を請求するものである。
さらに、Y3(Y2の父、76歳)からX1がセクシュアル・ハラスメント(以下、セクハラ)を受け,同セクハラについてY1に対応を求めたにもかかわらず何らの措置もとらなかったなどとして,Y3に対しては不法行為に基づき,Y3の使用者であるY2に対しては被用者に対する安全配慮義務違反の債務不履行,Y3との共同不法行為又は使用者責任に基づき,Y1に対してはY2及びY3との共同不法行為に基づき,連帯して慰謝料及び弁護士費用合計330万円を請求するものである。
X2の請求に係る部分は,X2はY1との間で雇用契約を締結していたところ,Y1が平成26年12月15日付けでしたX2の解雇が無効であるとして,Y1に対し,雇用契約上の地位の確認を求めるとともに,雇用契約に基づき,解雇日以後の賃金及び賞与88万円(各年12月31日締め同日払い)とそれぞれについての遅延損害金の支払を求めている。 - 主文
- 1 被告Y2は,原告X1に対し,99万8380円及びこれに対する平成27年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Y2は,原告X1に対し,99万4805円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告X1のその余の請求をいずれも棄却する。
4 原告X2の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,被告Y1に生じた費用の10分の7と原告X2に生じた費用を同原告の,原告X1に生じた費用と被告Y2に生じた費用の各8分の1を同被告の,その余を原告X1の負担とする。
6 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 大葉巻き作業について
X1の大葉巻き作業は,形式的には,1束2円の請負契約として合意されたものであるが,作業内容が雇用契約において作業内容とされていた大葉の摘み取りと密接に関連しており,X1が大葉巻き作業をするに当たり諾否の自由が事実上制限された状態にあったものであって,作業時間についての裁量性も乏しいものであるなどの事情を考慮すれば,Y2の指揮監督下で行われた作業であるというべきである。
2 割増賃金について
X1の大葉巻き作業の時間は,その日に巻いた大葉の束数を基に,1時間当たり200個の束を巻くことを前提に算定することが相当である。そして,X1の大葉巻き作業に係る残業代は,同原告の労働条件等についての前記認定に照らして,日中の作業が終了した1時間後(平日は午後5時,土曜日・日曜日は午後4時とする。)から上記のとおり算定した時間大葉巻き作業を行ったものとして算定することが相当である。なお,Y3がX1に対し大葉巻きの作業について1束2円で算定した額を支払っていたことから,これが残業代に係る既払い金であると認める。
よって,X1の未払残業代請求については,99万8380円及びこれに対する平成27年8月26日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
X1は未払賃金について付加金の支払を求めているところ,大葉巻き作業の残業代に関する前記認定の事実に照らして,Y3に付加金を課すことが相当でない特段の事情は認められないから,別紙未払賃金計算書記載のとおり99万4805円の付加金の支払を命じることとする。
3 X1の就労不能についてのY3の帰責について
X1が,平成26年11月26日に,Y1に対し,Y4のセクハラによる被害を訴え,また,Y3がX1らを技能実習外の大葉巻き作業に従事させていることが発覚したことから,被告組合は,X1がY3の下で技能実習を継続させることが適当でないと判断し,X1を別の技能実習先に移籍させることとしたこと,X1は,同年12月1日以降被告Y3に労務の提供をしておらず,その後,Tとの間で雇用契約を締結して,同月11日から技能実習を開始したこと,以上の事実が認められる。
X1が雇用契約に基づく労務の提供ができなくなったのは,X1がセクハラ被害を訴えたことがきっかけであるとしても,Y3と同原告の合意の下に雇用契約を終了させたことによるものと認められるから,X1が和解に応じなかったことを理由としてY3がX1から労務を提供する機会を奪ったことを前提とするX1の請求は理由がない。
4 不法行為の成否について
X1は,Y4のセクハラ行為や,Y3が技能実習外の大葉巻き作業を行わせるという不正行為により,X1がY3に労務の提供をすることが不能になり,これはY3の不法行為に該当すると主張する。
しかし,X1が労務の提供ができなくなった理由は,上記3で認定したとおりであり,X1の主張事実のうち,Y4によるセクハラ行為については,これを認めることはできない。
5 Y4によるセクハラ行為について
Y4がX1にセクハラ行為をしたことについては,X1の供述に疑問を差し挟む事情が少なからずあり,Xらが作成した本件セクハラ証明書の信用性に疑問があり,X2の供述にも疑問が残るところである。そのことに,Y4がセクハラ行為を否定する供述をしていることを併せ考慮すれば,Y4がX1にセクハラ行為をしたことを認めることはできないというべきである。
Y4によるX1に対するセクハラ行為があったと認めることはできないから,これがあったことを前提とするY3の安全配慮義務違反,共同不法行為責任及び使用者責任はいずれも認めることができず,Y1の共同不法行為責任もまた認めることができない。
6 X2に対する解雇の効力
X2の警察への通報は,Y1の信用を毀損し,又はその業務を妨害するもので,X2が監査結果報告書を持ち出したことはY1の業務を妨害するものであり,さらに,X2は無断外出をして職務命令に反した上,Y1に敵対的な感情を明らかにし,Y1の職場の秩序を乱したものであるから,解雇をするについての客観的に合理的な理由があると認められる。
X2の前記の言動,特に,Y1の業務を妨害し,その信用を毀損するような警察への通報を繰り返したこと,監査結果報告書を持ち出してY1の業務を妨害したこと,無断外出をして職務命令違反をし,Y1に敵対的な感情を明らかにし,Y1の職場の秩序を乱したことによれば,これらの言動によってY1とX2との信頼関係は失われていたといわざるを得ず,個別的な指導等によってもX2がY1の職務に戻ることは現実的に期待できなかったというべきであるから,解雇をしたことについては社会的通念上相当なものと認められる。 - 適用法規・条文
- 民法623条・632条・709条、労働基準法32条・37条・41条1号・114条、労働契約法16条、労働基準法37条、114条、民法709条、715条、719条1項
- 収録文献(出典)
- 労働判例1216号61頁
- その他特記事項
- なし。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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