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Uエアーラインズ(地位確認等請求)事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- Uエアーラインズ(地位確認等請求)事件
- 事件番号
- 甲事件…東京地裁 平成28年(ワ)第13290号 乙事件…東京地裁 平成28年(ワ)第39766号
- 当事者
- 甲事件原告…個人(X1~X4)
甲事件被告…企業
乙事件原告…組合(全国一般・全労働者組合、労働組合)
甲事件訴訟承継人兼乙事件被告…企業 - 業種
- 運輸業、郵便業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2019年03月28日
- 判決決定区分
- 請求棄却
- 事件の概要
- 本件は、グアム島に本社を置き国際旅客事業を業とする甲事件被告CMIに客室乗務員(以下、「FA」)又は機内通訳として勤務し、平成28年(2016年)5月31日付けで解雇された、甲事件原告X1~X4が、CMIを平成29年(2017年)4月1日に吸収合併した訴訟承継人兼乙事件被告Y社に対し、同解雇が無効であるとして、主位的に、労働契約に基づき労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、賃金、賞与、未払のプロフィット・シェア(利益の一部を還元する制度に基づいて支給される金員)と遅延損害金の支払、予備的に、上記解雇が不法行為に当たるとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、X1~X4につき4年間分の年収相当額及び各原告につき慰謝料各300万円の合計額と遅延損害金の支払を求め、さらに、Xらが加入する労働組合であるX5組合が、Y社に対し、上記解雇が差別的な動機に基づく解雇であって違法であるとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、300万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
CMIは、日本-グアム便の旅客数が減少し、CMI成田ベース所属FAの担当すべき業務自体が大きく減少する中で、業務量に応じた効率的な人員体制とするため、CMIが成田ベースを閉鎖すると決断し、平成28年(2016年)2月4日、X5組合との団体交渉において、成田ベースの閉鎖を発表した。CMIは、同年4月末頃、X1~X4らに対し、同年5月31日付けで解雇する(以下、「本件解雇」という。)旨の通知をした。なお、同日付けで、成田ベース所属の8名も解雇されており、同ベースの閉鎖に伴って解雇された同ベース所属FAは合計12名である。
なお、甲事件の被告は、当初はCMIであったが、Y社が、訴訟係属中にCMIを吸収合併し、訴訟承継をした。 - 主文
- 1 原告らの請求をいずれも棄却する
2 訴訟費用は原告らの負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件解雇の有効性について
(1)判断の枠組み(CMI単体か、Y社グループ全体か。)
CMIと、本件合併前の旧UAは別個の会社であるから、本件解雇の効力を判断するに当たっては、CMIのFAであるXらの使用者がCMIであることを前提として、CMI単体で、人員削減の必要性、解雇回避努力、被解雇者選定の合理性及び解雇手続の相当性の存否及びその程度等の諸事情を総合考慮して、本件解雇が客観的に合理的な理由があるか否か、社会通念上相当として是認できるか否か(労働契約法16条)を検討するのが相当である。
(2)人員削減の必要性
CMIのグアム-成田路線の旅客数も減少の一途をたどり、それによって同路線の使用機材3便合計の乗客座席数が減少し、同路線に乗務するCMIのFAの業務量が大きく減少したものであり、上記の事実経過に照らせば、本件解雇の時点において、同FAの業務量の回復を見込むことはできなかったというべきである。
成田ベース所属FAは、実際の乗務時間が最低保証基本給で前提とされている搭乗時間よりも相当短時間となっており、しかも搭乗時間の増加が見込まれなかったことは前判示のとおりであるから、CMIとしては、FAとしての基本給を支払うこと自体が成田ベース所属FAの労務提供の量と比較して見合っておらず、その意味で同FAの存在が高コスト要因となっていたところ、成田空港をベースとするFAという勤務形態を廃止し、グアムベース所属FAに機内サービス業務を全て担当させることにより、結果的に約10万ドルを超えるコスト削減が可能となることからすれば、当該勤務形態の従業員である成田ベース所属FAについて、成田ベースを閉鎖してFA業務の担当から外すという意味で人員を削減する高度の必要性があったと認められる。
(3)解雇回避措置の相当性
CMIは、平成28年(2016年)2月4日、X5組合との団体交渉において成田ベースの閉鎖を表明した後、本件解雇までの約4か月の間に、退職金に加えて特別退職金を最終的に20か月分加算して支払うという条件での早期退職の提案や、FAとしての年収水準を維持した上での地上職への配置転換を提案しており、これらは、CMIが、本件解雇に先立って、相当に手厚い解雇回避努力を尽くしたものと評価することができる。
(4)被解雇者選定の合理性
被解雇者の選定については、成田ベースが廃止され、CMIの他の唯一のベースであるグアムベースへの配転可能性がなく、CMI成田ベース所属FA全員がFAとして職種限定の合意をしていた以上、成田ベース所属FAのうち希望退職や地上職への転換に応じない者の全員が解雇の対象となるところ、本件解雇は上記の全員についてされたものであるから、選定に不合理な点は見当たらない。
(5)解雇手続の相当性
CMIは、平成28年(2016年)2月4日の団体交渉において、Xらに対して成田ベースの閉鎖を通知し、その後の団体交渉を通じて、成田ベースの廃止に至る諸事情の説明や、早期退職又は同一年収水準での雇用維持につき提案及び説明を行ったこと、Xらは、上記団体交渉において、成田ベースを維持することができ、仮に成田ベースがなくとも同ベース所属FAはFAとして業務に従事することができるから、早期退職や地上職転換の選択肢はあり得ないとの見解から譲歩しなかったため、CMIは団体交渉を打ち切った経緯が認められる。このようなCMIとX5組合との交渉経過やX1~X4らに対する説明等を踏まえても、CMIの交渉態度等に不誠実な点は見当たらず、CMIが交渉を打ち切った時期を含めて、Xらに対する説明等が不相当であったことをうかがわせるに足りる証拠はない。
(6)国籍差別、組合差別の有無
本件解雇の効力発生後、統一労働協約の締結直前までの間、UA及びCMIとAFAとの間で、統一労働協約を巡り対立していたことが認められる。CMIが、X5組合に成田ベースの閉鎖を通告した平成28年(2016年)2月4日までにAFA労働協約にフォーリンナショナル条項が含まれることを知っていたとするXらの主張事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。そうすると、AFA労働協約締結前に日本人であるX1~X4らのFAの地位を剥脱する必要があったため、X1~X4らを解雇したとするXらの主張は失当である。
同様に、近い将来、統一労働協約が締結されCMIとUAが合併して、CMIの成田ベース所属FAがUAの全ての路線に乗務出来るようになることを十分認識していたことから、先行的に本件解雇をしたとするXらの主張も、UA及びCMIが本件解雇の時点でXら主張に係る内容の統一労働協約が締結されると認識していたとする点で前提を欠き、失当である。
また、団体交渉の経緯等の諸事実をつぶさにみても、X5組合とCMIは、不当労働行為の救済命令を申し立てるような対立関係にはあったことは認められるものの、一般に見られる労使の対立関係を超えて、不当労働行為意思に基づいてX5組合に対する支配介入等が断続的にされていたなどということはできず、他に本件解雇がX5組合に対する嫌悪に基づくことを認めるに足りる証拠はない。成田ベースの閉鎖は、同ベースの業務量減少によりコスト要因となったことから、コスト削減という企業経営的観点からされたことは既に判示したところであって、これを偽装閉鎖ということはできず、他にこの閉鎖がX5組合に対する嫌悪に基づいてされたことを認めるに足りる証拠もないから、Xらの主張は、採用することができない。
(7)本件解雇の効力について
日本-グアム便の旅客数が減少し、旧UAによる機材変更が影響して、日本-グアム便を運行する旧UAからCMIに委託される業務量が減少し、CMI成田ベース所属FAの担当すべき業務自体が大きく減少する中で、業務量に応じた効率的な人員体制とするため、CMIが成田ベースを閉鎖すると決断したことは、企業経営の観点から合理的な判断ということができ、その必要性も高度なものであったといえる。解雇回避努力義務という点でも、早期退職に伴う特別退職金の支払やFAの年収水準を維持した上での地上職への転換など、解雇によりX1~X4らに与える不利益を相当程度緩和する措置が執られ、可能な限りの解雇回避措置を講じているとみることができる。被解雇者選定の点では、成田ベースの閉鎖が前提となっているものであり、同ベース所属FA全員が該当するところ、早期退職又は地上職への転換に応じた者以外の全員が解雇されているから、選定の合理性も認められる。そして、CMIは、複数回にわたる団体交渉を通じて、X5組合に対し、成田ベース閉鎖の経緯及び必要性を説明するとともに、早期退職又は地上職への転換とその条件提示を行ってきたものであるから、手続面において問題は認められない。
以上に判示したところを総合すると、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上も相当であって有効である。
(8)不法行為の成否について
X5組合は、本件解雇はX1~X4らが組合員であることを理由として行われたものであって、労働組合法7条1号の不利益取扱い及び3号の支配介入に該当する違法な行為であると主張するが、本件解雇がX5組合の組合員であることを理由に行われたことや、組合差別や組合嫌悪によるものとは認められないから、X5組合に対する不法行為は成立しない。
(9)結論
以上によれば、本件解雇は有効であるから、それが無効であることを前提とするX1~X4らの主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がなく、X5組合の請求も理由がない。 - 適用法規・条文
- 労働契約法16条 労働組合法7条1号、同3号、民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1213号31頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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