判例データベース
S県水産振興協会(配転命令無効確認等・損害賠償請求)控訴事件 同附帯控訴事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- S県水産振興協会(配転命令無効確認等・損害賠償請求)控訴事件 同附帯控訴事件
- 事件番号
- 広島高裁 松江支部 平成30年(ネ)第43号、広島高裁 松江支部 平成30年(ネ)第47号
- 当事者
- 控訴人・控訴人兼附帯被控訴人…個人、被控訴人・附帯控訴人…公益社団法人
- 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2019年09月04日
- 判決決定区分
- 原判決を変更。控訴人の確認請求及び損害賠償請求を一部認容、一部棄却
- 事件の概要
- 本件は、同じ事業所に勤務する内縁の夫婦である控訴人X1とX2(以下まとめていうときは「Xら」)が、雇用主である被控訴人Yに対して提起した2件の訴訟(第1・第2事件)の控訴審判決である。第1事件では、X1が、島根県松江市の事業所から同県隠岐郡の離島の栽培漁業センターへの配置転換を命ぜられたこと(本件配転命令)について、業務上の必要性を欠き、内縁関係にあるXらを同じ職場に勤務させないという不当な動機、目的に基づくものであるから無効であると主張して、栽培漁業センターの事業所に勤務する義務がないことの確認を求め、併せて、本件配転命令に従わないことなどを理由としてYの役職員から威嚇等を受け、休職を余儀なくされるなどして精神的苦痛や経済的損害(休職中の給与相当額の逸失利益)を被ったと主張して、不法行為に基づき、弁護士費用を含む損害賠償金688万8573円及び不法行為後の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
第2事件では、X2が、X1が本件配転命令に従わないことなどを理由として、内縁関係にあるX2もYの役職員から嫌がらせ等を受けて精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、弁護士費用を含む損害賠償金330万円及び不法行為後の日から支払済みまで上記割合による遅延損害金の支払を求めている。
原審は、第1・第2事件を併合して審理し、第1事件については、本件配転命令は業務上の必要性を踏まえた合理的な判断によるものであることなどから有効と認められるとし、X1の主張する不法行為の成立も認められないとして、X1の請求をいずれも棄却し、第2事件については、X2の主張する不法行為の一部の成立が認められるなどとして、その請求を精神的苦痛に係る損害賠償金(慰謝料及び弁護士費用)55万円及びこれに対する平成28年7月28日から支払済みまで上記割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容した。
これに対し、Xらがいずれも控訴し、Yが第2事件について附帯控訴した。なお、当審において、X2は、附帯請求の起算日を変更した。 - 主文
- 1 控訴人X1の控訴に基づき、原判決主文第1項を次のとおり変更する。
(1)控訴人X1が、被控訴人に対し、被控訴人の栽培漁業センターに勤務する労働契約上の義務のないことを確認する。
(2)被控訴人は、控訴人X1に対し、488万8573円及びうち110万円に対する平成28年6月16日から、うち378万8573円に対する平成29年3月8日から、いずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)控訴人X1のその余の請求を棄却する。
2 控訴人X2の控訴及び附帯控訴人の附帯控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、控訴人X1と被控訴人との間に生じた分は、第1、2審を通じてこれを6分し、その1を同控訴人の、その余を被控訴人の各負担とし、控訴人兼附帯被控訴人と被控訴人兼附帯控訴人との間に当審で生じた分は、控訴費用は控訴人兼附帯被控訴人の、附帯控訴費用は被控訴人兼附帯控訴人の各負担とする。
4 この判決は、第1項(2)に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件配転命令の違法性
Yの事務局におけるX1の担当業務は、栽培漁業センターの業務とも関連性があったということができ、また、同センターは、栽培漁業の推進等を主たる目的とするYの業務の中で重要な役割を担っていたところ、平成27年当時、開設以来続いてきた県職員の派遣が終了し、いずれも採用5年未満の職員らが自力で安定的な生産を目指さなければならなくなっており、いわば節目の時期にあったということができる。しかし、Yの栽培漁業センターでは、平成27年3月には、所属の職員らは、個人差はあるものの、概ね生産技術を習得していて、同センターにおける生産技術、疾病対策、安定生産、施設管理の各技術等の移転は完了したとされ、県職員派遣終了後の同センター内の業務態勢は整えられていた。
他方、Yの代表理事は、Xらが内縁関係にあると噂され、Yへの会費の支払を遅滞している漁協の代表者Aがこれを問題視している事態を憂慮し、Xらのうちどちらかが栽培漁業センターに異動すればよいとの考えから、平成26年10月頃、X1に対し、X2の子がX1の実子であることを確認した上、同センターへの異動の意向打診をしたもので、その後、この異動の動きは一旦立ち消えたものの、翌年3月になって、当時の専務理事が、内縁関係にあるXらが一緒に執務することは好ましくないとして、異動の意向打診をするようになった。さらに、同年5月の理事会の議事終了後にも、漁協代表者から会費不納付に関して事実婚のXらが同じ職場で仕事をしていることを問題視されているとして、理事らがX1の異動を話題とする話合いをするようになり、その録音反訳書によれば、Xらが内縁関係にあることに起因して、不適切な業務がなされたとか、職場環境が悪化したというような指摘はなく、しかも、Xらが実際には指揮監督関係になかったにもかかわらず、この話合いの席では、Xらが同じ職場における上司と部下の関係にあるという認識を前提として、これを好ましくないとする意見が有力で、さらに、X1を異動させるとしても、上記の会費不納付の問題を理由にすると裁判を起こされたら負けることになるので、内縁関係にあるXらが同じ職場にいることが職場秩序上好ましくない等を理由として対応していくことに意見が集約された。その後、Yは、同年8月、X1に対し、栽培漁業センターの技術指導や組織活性化を理由に同センターへの異動を内示し、同年10月、本件配転命令を発令するに至ったものである。
以上のような本件配転命令前後の諸事情を併せ考えると、Yが本件配転命令の理由として掲げる栽培漁業センターの技術指導や組織活性化の必要性は、名目上の理由にすぎず、本件配転命令の実質は、Xらが内縁関係にあることが明らかになり、Yに会費を支払う立場にある漁協の代表者から、そのような関係にあるXらが同じ職場で執務に当たることを問題視され、これを理由に会費不納付に出る関係者も現れている状況にあって、状況の打開を図る目的で発せられたものと判断せざるを得ない。
本件配転命令は、専ら、Xらが内縁関係にあることのみを理由として発令されたものと認められ、また、Xらが内縁関係にあるために本件配転命令を発すべき業務上の必要性があるとは認められない。そうであれば、本件配転命令は、業務上の必要性を欠き、むしろ不当な動機、目的に基づいてされたものであって、権利の濫用に当たり、無効である。
2 X1に対する代表理事の言動の違法性と不法行為の成否
本件配転命令自体、不当な動機、目的に基づくもので、権利の濫用に当たり、無効であるところ、 Yは、本件配転命令が有効であることを前提として、X1の所属する事務局の執務室からX1の机やパソコンを片付けるなどの措置をとっている。これら一連の行為は、YのX1に対する不法行為を構成する。また、代表理事らが、X1に対し、専らXらが内縁関係にあることを理由に両者が同じ場所でYの業務に当たることを問題視する発言をしたことは争いがないところ、こうした言動も、社会通念上許容される業務上の指導ないし職務行為を超えるものといわざるを得ず、X1に対する不法行為を構成する。
X1は、本件配転命令を受けた後、不眠、抑うつ状態に陥り、自宅療養を要する旨、その後も抑うつ状態が継続し、引き続き自宅療養を要する旨の診断を受け、Yから平成28年1月以降は休職を命ぜられたというのであり、上記の一連の不法行為の時期、態様等に照らすと、X1は、上記不法行為によって心身の不調を来し、休職を余儀なくされたと認めるのが相当である。
3 X1の損害について
Yは、X1に対し、上記の不法行為による精神的苦痛による損害(100万円)、休職による給与相当額の逸失利益(358万8573円)及び以上に係る弁護士費用(20万円)について、不法行為による賠償責任を負う。
第1事件については、X1の義務不存在確認請求は認容すべきであり、その損害賠償請求も、損害賠償金総額488万8573円及びうち精神的損害に係る部分(慰謝料及びこれに係る弁護士費用)110万円に対する平成28年6月16日から、うち経済的損害に係る部分(休職中の給与相当額の逸失利益及びこれに係る弁護士費用)378万8573円に対する平成29年3月8日から、いずれも支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は棄却すべきであって、これと一部異なる原判決は一部失当で、X1の控訴はその限度で理由があるから、その控訴に基づいて原判決を上記のように変更することとし、第2事件については、X2の請求は、原審の認容した限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当で、同控訴人の控訴及びYの附帯控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 - 適用法規・条文
- 民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例ジャーナル93号1頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
第1事件…松江地裁 平成28年(ワ)第3号、第2事件…松江地裁 平成28年(ワ)第58号 | 一部認容、一部棄却 | 2018年06月25日 |