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Nほか3名損害賠償請求事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- Nほか3名損害賠償請求事件
- 事件番号
- 徳島地裁 − 平成29年(ワ)第397号
- 当事者
- 原告 個人
被告 株式会社、C〜E(個人) - 業種
- 運輸業、郵便業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2020年01月20日
- 判決決定区分
- 損害賠償等請求一部認容
- 事件の概要
- X(原告)は,平26年7月1日から,Y社(被告)の従業員(雇用期間社員)として本件郵便局の窓口営業部の郵便窓口業務を担当していた。D(被告)は,平成28年6月当時,Y会社の従業員(正社員)として本件郵便局の金融渉外部において勤務し,主任を務めていた。C(被告)は,平成28年6月当時,Y会社の従業員(雇用期間社員)として本件郵便局の窓口営業部において勤務していた。E(被告)は,平成28年6月当時,Y会社の従業員(正社員)として本件郵便局の窓口営業部において勤務し,課長代理を務めていた。
X,C,D及びEは,平成28年6月当時,Y社グループの従業員で構成される労働組合である(以下「本件労組」という。)に所属していた。Eは,本件労組において執行委員を務めていた。X及びCらは,本件労組に所属するY会社の従業員によって平成28年6月24日午後7時30分頃に開催された歓送迎会(以下「本件歓送迎会」という。)に参加した。
本件は,XがC、D(まとめて「Cら」ということがある。)」から,労働組合の歓送迎会において,容姿を揶揄されるなどのセクシャルハラスメント(以下「セクハラ」という。)行為を受け,その後,Cから,Xが上記セクハラをフェイスブックに投稿したことについてパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)行為を受け,さらに,Eから,CらによるXに対するセクハラ行為を否定されたうえ,Xがセクハラ行為をソーシャルネットワークサービスに投稿したことに関して一方的に非難されるなどのパワハラ行為を受けたと主張して,Cらに対し,共同不法行為(民法719条1項)に基づき,慰謝料100万円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を,Cについて,不法行為(同法709条)に基づき,慰謝料200万円及び遅延損害金の支払を,Eについて,不法行為(同法709条)に基づき,慰謝料100万円及び遅延損害金の支払を,それぞれ求めるとともに,C、D、Eの使用者であるY社に対し,各不法行為に対する使用者責任(同法715条1項本文)に基づき,上記の各請求と同額の支払を求める事案である。 - 主文
- 1 被告C及び被告Dは,原告に対し,連帯して10万円及びこれに対する平成28年6月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Dは,原告に対し,10万円及びこれに対する平成28年6月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告Cは,原告に対し,20万円及びこれに対する平成28年6月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,原告と被告Cとの間に生じたものはこれを10分し,その1を被告Cの,その余を原告の各負担とし,原告と被告Dとの間に生じたものはこれを5分し,その1を被告Dの,その余を原告の各負担とし,原告と被告株式会社及び被告Eとの間に生じた費用は,全部原告の負担とする。
6 この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行することができる。 - 判決要旨
- (1)本件歓送迎会におけるY、Cらのセクハラ行為の有無について
平成28年6月24日午後8時頃,Xは,遅れて本件歓送迎会に参加した。当初,Xは,会場である座敷の一番奥の長机に座っていたが,Dに呼ばれて,同人とCに近い席に移った。
席を移動した後,Xは,Dから,Cが,Xの同僚のJやXからみて男性として魅力的に感じるかと尋ねられ,これに肯定的な返答をしたところ,Cから握手を求められたり,DからCとキスするように言われたりした。Xが,上記のキスの求めを断ると,Cは「うわあー,ショック」などと言ったうえ,Dに対し,Xのことを指差して,「逆にどうです?」,「キスとか色々できます?」などと質問をした。これに対し,Dは,Xを指差して,「これはデブ過ぎる」などと答えた。
その後、Xは,Cらとは別の者と会話していたが、その会話の中で,Xが以前に病院で勤めていたことや看護学校で学んでいたことなどを話していたところ,これを聞きつけたDが会話に参加してきて,Xに対し,「下の世話は得意?」,「看護職・介護職の人はいやらしい」などと執拗に性的な発言を繰り返した。
Cが,Xに聞こえる状態で,Dに対してXが性的対象となるかを尋ねるなどの発言をしたこと,これを受けたDが,Xを指して「これはデブ過ぎる」などとその容姿を揶揄するような発言をしたり,Cとのキスを求める発言をしたりしたこと,Dが,Xに対してその意に反する性的な発言を繰り返したことは,いずれもXの人格権を侵害する違法な行為であるといえる。そして,Cらの発言は,同人らが一体となって一連の流れの中でしたものであるから,共同不法行為に当たる。以上のとおり,本件歓送迎会において,CらによるXに対する違法なセクハラ行為があったと認められる。
(2)本件話合いにおけるCのパワハラ行為の有無について
XがフェイスブックにCらを非難する本件記事を掲載していることを知ったEは,平成28年6月25日,Xに連絡し,翌日,喫茶店で,Xと会い,本件歓送迎会で何があったかを尋ねた。その際,Eは,Cに聞いたがそんな事実はないと言っている,Cはそんなことをする人ではない,Xの勘違いではないかと言い,Xが第三者に伝わるように本件記事をフェイスブックに投稿したことは良くないと言った。
これを聞いたXは,Cに謝るとして,同人に電話を掛けてフェイスブックに本件記事を投稿したことを謝罪したが,同人から直接会って謝罪するように求められ,一度はこれを断ったものの,Eから説得されて同人とともにCと会うことになった。
Cが本件喫茶店に来たが,同人は,先の電話でのXの応答に不満を感じていたことから,席に着くと,持っていたたばことライターをテーブルの上に叩きつけるように置き,Xをにらむようにして座った。そして,Xがフェイスブックに本件記事を投稿したことについて,会社を辞める覚悟で投稿したのかなどと言って非難し始めたところ,Xが会社を辞めればいいんでしょうなどと応答したことから,Cは怒り,本件喫茶店のテーブルを強く叩き,Xに対して「ええかげんにせえ」,「埋める」と発言した。また,このやり取りの最中には,興奮したCの足がテーブルにぶつかり,テーブルが揺れることがあった。Cの言動は,自らは記憶にないセクハラ行為を記載した記事をフェイスブックに投稿されたことについて,謝罪を求めようとしたことを契機とするものであったとはいえ,Xをして身体への危害を加えられる危険を抱かせ,畏怖させるに足りる威圧的なものであったといわざるをえず,Xの人格権を侵害する違法な行為に当たるといえる。したがって,本件話合いにおいて,Cによる違法な行為があったと認められる。
(3)Y会社の事業執行性の有無について
本件歓送迎会は,本件労組の組合員が本件労組の組合員のみを対象として,当該組合員の業務時間外に開催した歓送迎会であり,Y社が当該開催の事実を把握していたなど,Y社の関与があったといいうる事情は認められない。また,本件歓送迎会の内容を見ても,専ら本件労組の組合員同士の懇親を図ることを目的としたものと窺われ,これと異なる事情は認められない。以上の事情に照らせば,本件歓送迎会が,Y会社の事業の執行行為としてなされたものではないことは明らかであり,当該執行行為と密接な関連を有するものともいえない。したがって,本件歓送迎会の中でのCらのXに対する発言は,Y社の「事業の執行について」(民法715条1項本文)なされたものとはいえない。
(2)の本件話合いは,X,C,E及びH(Xのフェイスブック投稿を通報した者)の業務時間外である日時に,Y社の事業執行とは関係がないと認められる本件喫茶店においてなされたものである。そして,本件話合いがなされるに至った経緯を見ても,Xが,本件労組の組合員同士の懇親を目的とした本件歓送迎会での出来事について,フェイスブック上に投稿した本件記事の内容に端を発してXとCが話し合う場を設けたというものにすぎない。さらに,本件話合いがなされた時点において,Y会社が本件記事の内容やX及びCの各言い分を把握していたとも認められない。
以上の事情に照らせば,本件話合いが,Y会社の事業の執行行為としてなされたものではないことは明らかであり,当該執行行為と密接な関連を有するものともいえない。したがって,本件話合いの中でのYcのXに対する言動は,Y会社の「事業の執行について」(民法715条1項本文)なされたものとはいえない。
(4)慰謝料について
Xは,本件歓送迎会においてXが性的対象となるか尋ねるなどしたCの発言及びXの容姿を揶揄したDの発言により,精神的苦痛を被ったものと認められる。そして,上記の共同不法行為の性質及び態様,本件の全証拠から窺われるXの心情,その他本件における一切の事情を考慮すると,Xの上記精神的苦痛に対する慰謝料を10万円と認めるのが相当である。
Xは,本件歓送迎会においてDがしたXの意に反する性的な発言により,精神的苦痛を被ったものと認められる。そして,上記の不法行為の性質及び態様,本件の全証拠から窺われるXの心情,その他本件における一切の事情を考慮すると,Xの上記精神的苦痛に対する慰謝料を10万円と認めるのが相当である。
Xは,本件話合いにおいてXに身体的危害を加えられる恐れを抱かせ,畏怖させるCの一連の言動により,精神的苦痛を被ったものと認められる。そして,上記の不法行為の性質及び態様,本件の全証拠から窺われるXの心情,その他本件における一切の事情を考慮すると,Xの上記の精神的苦痛に対する慰謝料を20万円と認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 民法709条、同715条1項、同719条1項
- 収録文献(出典)
- 労働判例ジャーナル96号54頁903号68頁、判例秘書L07550119
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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高松高裁 − 令和2年(ネ)第34号、令和2年(ネ)第119号 | 控訴損害賠償等請求一部認容 | 2020年09月25日 |