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Nほか3名損害賠償請求控訴,同附帯控訴事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- Nほか3名損害賠償請求控訴,同附帯控訴事件
- 事件番号
- 高松高裁 − 令和2年(ネ)第34号、令和2年(ネ)第119号
- 当事者
- 被控訴人兼附帯控訴人 個人
控訴人兼被附帯控訴人 個人(CとD) - 業種
- 運輸業、郵便業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2020年09月25日
- 判決決定区分
- 控訴損害賠償等請求一部認容
- 事件の概要
- 本件は,X(1審原告、被控訴人兼附帯控訴人)が,C及びD(いずれも1審被告、控訴人兼被附帯控訴人。(以下,両名をまとめで「Cら」ということがある。)から,労働組合の歓送迎会において,容姿を揶揄されるなどのセクシャルハラスメント(以下「セクハラ」という。)行為を受け,その後,Cから,Xが上記セクハラ行為をフェイスブックに投稿したことについてパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)行為を受け,さらに,E(一審被告)から,Cらによるセクハラ行為を否定されたうえ,Xが上記セクハラ行為をフェイスブックに投稿したことに関して一方的に非難されるなどのパワハラ行為を受けたと主張して,Cらに対し,共同不法行為に基づき,慰謝料100万円と遅延損害金の連帯支払を,Cに対し,不法行為(同法709条)に基づき,慰謝料200万円及び遅延損害金の支払を,Eに対し,不法行為(同法709条)に基づき,慰謝料100万円及び遅延損害金の支払を,それぞれ求めるとともに,D,C及びEの使用者であるY社(一審被告)という。)に対し,使用者責任(同法715条1項本文)に基づき慰謝料を請求した事案である。
原審は,Xの請求を,Cらが共同で行った不法行為の部分に関し,Cらについて,慰謝料10万円と遅延損害金の連帯支払を求める限度で,Cの不法行為の部分に関し,慰謝料10万円及び遅延損害金,Dについて慰謝料20万円及びこれに対する上記遅延損害金の支払を求める限度で,それぞれ一部認容し,その余の請求をいずれも棄却したところ,Cらが敗訴部分を不服としてそれぞれ控訴し,XがCらに係る敗訴部分を不服として附帯控訴し、不法行為に基づく損害賠償請求額を増額した。
なお,Xは,E及びY社に対する請求について控訴しなかったので,原判決中XのE及びEに対する請求を棄却した部分は確定しており,当審における審理の対象は,XのCらに対する請求の当否である。 - 主文
- 1 控訴人Dの控訴に基づき,原判決主文2項を取り消す。
2 前項の取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。
3 控訴人Dのその余の控訴及び控訴人Cの控訴をいずれも棄却する。
4 被控訴人の附帯控訴を棄却する。
5 訴訟費用は,被控訴人と控訴人Dとの関係(控訴費用,附帯控訴費用を含む。)では,第1,2審を通じ,これを10分し,その1を控訴人Dの,その余を被控訴人の各負担とし,被控訴人と控訴人Cとの関係では,控訴費用は控訴人Cの,附帯控訴費用は被控訴人の各負担とする。 - 判決要旨
- (1)本件歓送迎会におけるCらのセクハラ行為の有無について
席を移動した後,Xは,Dから,Cが,Xの同僚のIやXからみて男性として魅力的に感じるかと尋ねられ,これに肯定的な返答をしたところ,Cから握手を求められたり,DからCとキスするように言われたりした。Xが,上記のキスの求めを断ると,Cは「うわあー,ショック。」などと言ったうえ,Dに対し,Xのことを指差して,「逆にどうです?」,「キスとか色々できます?」などと質問をした。これに対し,Dは,Xを指差して,「これはデブ過ぎる。」などと答えた。
その後,Cが携帯電話を取り出し,Dとともに画面を見て二人だけで笑いながら「これはあかん。失礼だ。」などと話し始めた。そこで,Xは,向かい側に座っていたFと会話するようになり,その会話の中で,Xは,以前に病院で勤めていたことや看護学校で学んでいたことなどを話した。Cは,Xの発言を聞き,相槌を打つ程度の発言をした。
Xが本件歓送迎会の直後に作成した本件記事には,Cらとの会話の中において,Xの容姿を指して「デブ」などと言われたことが記載され,また,Xが本件歓送迎会後に一審被告Eに送ったメールにも「デブ」と言われ,下ネタを言われたことなどが記載されていた。
また,Dは,Y社からの事情聴取において,本件歓送迎会での言動につき,XとCらが3人で会話する場面があり,その際の会話内容について記憶がないとしながらも,CとXにキスをするように言うなどのXがY社に申告した一連の言動について,自分であれば言いそうであり流れはおかしくないなどと述べている。以上の事情に鑑みれば,この点に係るXの供述は信用できる。
他方、Xは,本件歓送迎会におけるDの言動として,Xが病院で勤務し,看護学校で学んでいたことなどに関し,執拗に性的な質問を繰り返したことを主張し,これに沿った供述等をするが,Xの供述に変遷が見られる部分があることやDの発言を耳にするのが自然な者においてこれを見聞していないこと,その他Xの主張を裏付けるに足りる的確な証拠がないことに鑑み,同主張を採用することはできない。
Cが,Xに聞こえる状態で,Dに対してXが性的対象となるかを尋ねるなどの発言をしたこと,これを受けたDが,Xを指して「これはデブ過ぎる」などとその容姿を揶揄するような発言をしたり,Cとのキスを求める発言をしたりしたことは,いずれもXの人格権を侵害する違法な行為であるといえる。Cらの発言は,Cらが一体となって一連の流れの中でしたものであるから,共同不法行為に当たる。以上のとおり,本件歓送迎会において,CらによるXに対する違法なセクハラ行為があったと認められる。
(2)本件話合いにおけるCのパワハラ行為の有無について
本件話合いにおけるCの不法行為について,Cは,Y社からの事情聴取の際には,「『埋める』は言った」と述べ,別の日の事情聴取においても,Xに対して「埋めるぞ」と言ったかとの問いに対して「言った」と回答しており,その発言があったことを認めている(また,Y社からの事情聴取において,Cが意に反した回答をさせられたと認めるに足りる証拠はない。)こと,Cにおいて,Y社からの事情聴取において,たばことライターを強く机に置いたことを自認し,机を1回叩いたことも認めている。これらCの言動は,自らのセクハラ行為を記載した記事をフェイスブックに投稿されたことについて,謝罪を求めようとしたことを契機とするものであるが,Xをして身体への危害を加えられる危険を抱かせ,畏怖させるに足りる威圧的なものであったといわざるをえず,Xの人格権を侵害する違法な行為に当たるといえる。したがって,本件話合いにおいて,Cによる違法な行為があったと認められる。
(3)損害の発生の有無及びその額について
Xは,本件歓送迎会において,Xが性的対象となるかを話したり,Xの容姿を揶揄するなどしたCらの発言により,精神的苦痛を被ったものと認められる。そして,上記の共同不法行為の性質及び態様,本件の全証拠からうかがわれるXの心情,その他本件における一切の事情を考慮すると,Xの上記精神的苦痛に対する慰謝料を10万円と認めるのが相当である。
また、Xは,本件話合いにおいて,Xに身体的危害を加えられる恐れを抱かせ,畏怖させるCの一連の言動により,精神的苦痛を被ったものと認められる。そして,上記の不法行為の性質及び態様,本件の全証拠からうかがわれるXの心情,その他本件における一切の事情を考慮すると,Xの上記の精神的苦痛に対する慰謝料を20万円と認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 民法709条、同719条1項
- 収録文献(出典)
- 判例秘書L07520349
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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徳島地裁 − 平成29年(ワ)第397号 | 損害賠償等請求一部認容 | 2020年01月20日 |