判例データベース
S市男女昇格差別事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- S市男女昇格差別事件
- 事件番号
- 津地裁 − 昭和47年(ワ)第83号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 S市 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1980年02月21日
- 判決決定区分
- 一部認容(原告一部勝訴)
- 事件の概要
- 原告は、昭和23年12月被告市事務員として採用された。
被告市は、男子のみを5等級16号俸から4等級8号俸へ昇格させる一方、5等級19号俸で要件を満たしている原告は昇格させなかった。(45年4月実施の昇格)。なお、46年4月にも要件に該当する男子のほとんどは昇格したのに対し、原告は昇格しなかった。これに対し、女性であることを理由とする差別的取扱いに当たり、憲法14条、労基法4条、ILO100号条約、地方公務員法13条に違反しているとして、45年からの平均的男子との賃金差額相当額(38万3,730円)、精神的苦痛に対する慰謝料(100万円)、及び弁護士費用(40万円)の合計178万3,730円の損害賠償を求めて訴えを提起した。 - 主文
- 一被告は、原告に対し、金142万6,150円及び内金102万6,150円に対する昭和47年7月14日から、内金440万円に対する本判決確定の日の翌日から各支払済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
二原告のその余の請求を棄却する。
三訴訟費用はこれを10分し、その8を被告の、その余を原告の負担とする。 - 判決要旨
- 地方公務員法13条は憲法が明示する法の下の平等の原則を地方公務員制度の中に具体化し平等取扱いの原則を明確に規定しているが、このことは、とりもなおさず女子職員は同一の条件で同等の職務に服する限り、使用者(被告市)から男子職員に比し、不当に不利益な差別待遇を受けない法律上の利益を有することを意味するから、原告に対し4等級への昇格発令をしなかったことが、原告の主張するような被告市の不当差別によるものであるならば、女子職員たる原告の有する右法律上の利益を違法に侵害するものとして、慰謝料はもとより本来なさるべき適正な昇格を実施された場合に受けたであろう給与と、現に受けたそれとの差額を不法行為による損害賠償として被告市に請求しうるものと解するのが相当である。被告市において、男子職員については、基準該当者のうち客観的に昇格不適当と認められる事由を有する者以外の全員につき昇格が実施されているところからみて、「5等級16号俸以上の吏員のうち任命権者の認める者」との昇格基準は、男子職員に限って同号俸以上の者で基準に関する所定の在級年数・経験年数の要件を充足している者は、昇格不適当と認める特段の事由のない限り一律に昇格を認める形で運用されたものと推認できるから、右昇格基準が地方公務員法13条の趣旨にしたがい女子職員に対しても男子職員に対してなされたのと同様の形に平等に運用されていたならば、原告は当然昇格対象者とされ、昇格されてしかるべきものであったと推認できる。
しかるに、それにもかかわらず、原告に対し昇格を実施しなかったのは女性であることにより不当に不利益な取扱いをしたものといわざるをえず、地方公務員法13条に違反し違法に原告の有する前記法律上の利益を侵害したこととなる。これら諸事情を総合すると、S市長及びS市消防長において昭和46年度の昇格につき合理性を欠く性別による差別があったことについて、少なくともこれを認識しうるべきものであったと推認されるから、被告市は国家賠償法1条により、原告が蒙った後記損害の賠償義務がある。 - 適用法規・条文
- 05:地方公務員法13条,04:国家賠償法1条
- 収録文献(出典)
- 労働関係民事裁判例集31巻1号22頁、判例時報961号41頁、判例タイムズ417号130頁、労働判例336号20頁、林弘子・ジュリスト719号90頁、中嶋士元也・ジュリスト743号238頁
- その他特記事項
- 被告側控訴(No.3参照)。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
津地裁 − 昭和47年(ワ)第83号 | 一部認容(原告一部勝訴) | 1980年02月21日 |
名古屋高裁 − 昭和55年(ネ)第112号、名古屋高裁 − 昭和55年(ネ)第336号 | 原判決一部取消し、被控訴人の請求・附帯控訴の棄却(控訴人勝訴) | 1983年04月28日 |