判例データベース
S社賃金請求事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- S社賃金請求事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成3年第75511号、東京地裁 − 平成4年第714509号
- 当事者
- 原告 個人3名
被告 S株式会社 - 業種
- 卸売・小売業・飲食店
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1994年06月16日
- 判決決定区分
- 一部認容(原告の一部勝訴)
- 事件の概要
- 被告会社においては、
(1)最低生計量の保障を目的に、原則として社員の年齢に応じ別表に定める額を支給する。
(2)適用年齢は実年齢26歳まではみなし年齢とし、それ以降は実年齢をもって支給する。
(3)適用年数は毎年4月1日をもって定める。
(4)非世帯主及び独身の世帯主には所定の本人給を支給しないことがある。
との規定(本件給与規程定)によって本人給(基本給の一部で最低生活費の保証を目的とするもの)が支給されていた。
その後被告会社において、勤務地域限定・無限定の付与が付加された結果、
(1)家族を有する世帯主の従業員には、実年齢に応じた本人給を支給する。
(2)非世帯主又は独身の世帯主であっても、勤務地域を限定しない従業員については、同じく実年齢に応じた本人給を支給する。
(3)非世帯主及び独身の世帯主で、かつ、勤務地域を限定して勤務している従業員については、実年齢が26歳を超えても、26歳相当の本人給を支給する。との基準によって支給するという運用をしてきた。
この基準に基づき、男子従業員には全員に対し、実年齢に応じた本人給が支給されていたのに対し、原告女子従業員3名(いずれも、非世帯主)には、26歳相当の本人給が支給されていたため、原告らは、実年齢に応じた賃金の支払を求めた。 - 主文
- 一 被告は、原告Aに対し、金442万3,574円及び内金173万6,909円に対する平成3年5月14日から、内金263万3165円に対する平成6年2月25日から、内金5万3,500円に対する同月26日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告Bに対し、金214万1243円及び内金74万5,530円に対する平成4年8月29日から、内金134万円4,313円に対する平成6年2月25日から、内金5万1,400円に対する同月26日から各支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告Cに対し、金222万2,081円及び内金77万2,998円に対する平成4年8月29日から内金139万5,583円に対する平成6年2月25日から、内金5万3,500円に対する同月26日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
四 原告らが毎年4月1日時点での実年齢に応じた本人給を受ける労働契約上の権利を有することの確認を求める訴えを却下する。
五 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用は、原告Aと被告との間においては、これを2分し、その一を同原告の負担とし、その余を被告の負担とし、また、原告B及び同Cとの間においては、これを4分し、その1を同原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
七 この判決は、第1項ないし第3項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 世帯主・非世帯主の基準は、形式的にみる限りは、男女の別によって本人給に差を設けるものではなく、男子・女子にかかわらず、右基準の該当の有無に応じて、実年齢に応じた本人給の支給を受けるか、26歳相当の本人給の支払を受けるかが決定されることになる。
しかしながら、被告は、世帯主・非世帯主の基準を絞りながら、実際には、男子従業員については、非世帯主又は独身の世帯主であっても、女子従業員とは扱いを異にし、一環して実年齢に応じた本人給を支給してきており、また、右基準を判定した際、当時除し従業員のほとんど全員が非世帯主又は独身の世帯主であること、将来においても大多数において非世帯主又は独身の世帯主のいずれかであろうことを認識していたものと認められる。以上によれば、被告は、住民票上、女性の大多数が非世帯主又は独身の世帯主に該当する社会的現実及び被告の従業員構成を認識しながら、右基準の適用の結果、生じる効果が女子従業員に一方的に著しい不利益となることを容認して右基準を制定したものと推測することができ、本人給が26歳相当の本人給に据え置かれる女子従業員に対し、女子であることを理由に、賃金を差別したものというべきである。よって、非世帯主及び独身の世帯主の被告従業員に対して、26歳相当の本人給で据え置くという世帯主、非世帯主の基準は、労働基準法4条の男女同一賃金の原則に反し無効であるというべきである。被告が主張するところの、本人の意思で勤務地域を限定して勤務についている従業員に対して、26歳相当の本人給で据え置くという勤務地域限定・無限定の基準については、真に広域配転の可能性があるが故に実年齢による本人給を支給する趣旨で設けられたものではなく、女子従業員の本人給が男子従業員のそれより一方的に低く抑えられる結果となることを容認して制定され運用されてきたものであることから、労働基準法4条に違反し無効である。
そして、本件給与規定【1】ないし【3】によれば、本人給額は従業員の実年齢に対応して使用者である被告が毎年四月一日に決定すべきものとされ、現に毎年具体的に決定してきたことは被告の自認するところであって、各従業員に適用するに当たってこの上さらに被告の具体的な意思表示又は裁量が介在するものではないから、原告らの賃金請求権は、労働基準法四条、十三条の趣旨に照らし、本件給与規定【1】ないし【3】によって発生するものと解するのが相当である。 - 適用法規・条文
- 07:労働基準法4条,07:労働基準法13条
- 収録文献(出典)
- ジュリスト134号28頁浅倉むつ子
- その他特記事項
- 原告らが控訴し、東京高裁にて和解成立(平成7年7月27日)。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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