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S社雇用関係確認等請求事件

事件の分類
退職・定年制(男女間格差)
事件名
S社雇用関係確認等請求事件
事件番号
東京地裁 − 昭和39年(ワ)第10401号
当事者
原告 個人1名
被告 S株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1966年12月20日
判決決定区分
認容(原告勝訴)
事件の概要
被告会社は昭和33年から女子の入社に際し「結婚又は満35歳に達した時は退職する」旨の念書を出させており、原告も昭和35年、この念書を提出し、採用された。

昭和38年原告は結婚したが退職を申出なかったので、解雇を申し渡された。
これに対し、原告は解雇の無効を主張し、提訴した。
主文
1.原告が被告に対し雇傭契約上の権利を有することを確認する。
2.被告は原告に対し、732,000円及び昭和41年12月以降毎月27日限り各22,875円を支払え。
3.訴訟費用は被告の負担とする。
4.第2項は仮に執行することができる。
判決要旨
結婚を理由に女子労働者を解雇する制度である結婚退職制によると、結婚は男子労働者の解雇事由でなく、女子労働者のみの解雇事由であるから、労働条件につき性別による差別待遇をしたことに帰着する。結婚退職制によれば、女子労働者は雇傭関係継続中結婚しない旨を約したことになり、結婚に際しなお雇傭関係の継続を望んでいる女子労働者に対し、結婚の自由を制限するもの、といえる。結婚を退職事由と定めることは、女子労働者に対し結婚するか、又は自己の才能を生かしつつ社会に貢献し生活の資を確保するために従前の職に止まるかの選択を迫る結果に帰着し、かかる精神的、経済的理由により配偶者の選択結婚の時期等につき結婚の自由を著しく制約するものと断ずべきである。両性の本質的平等を実現すべく、国家と国民との関係のみならず国民相互の関係においても、性別を理由とする合理性のない差別取扱いを禁止することは、憲法14条、民法1条の2において明示されている。労基法上性別を理由として賃金以外の労働条件の差別を禁止する規定はなく、同法19条、61条等は女子の保護のための男子と異なる労働条件を定めている。
したがって、労働基準法は性別を理由とする労働条件の合理的差別を許容する一方、性別を理由とする合理性を欠く差別を禁止するものと解され、この禁止は労働法の公の秩序を構成し、労働条件に関する性別を理由とする合理性を欠く差別待遇を定める労働協約、就業規則、労働契約は民法90条に違反し、その効力を生じない。また、結婚は人間の幸福の1つであり、憲法13条、24条、25条、27条の趣旨から、結婚の自由を合理的理由なく制限することは、法律上禁止されるものと解すべきである。この禁止は、公の秩序を構成し、これに反する労働協約、就業規則、労働契約は民法90条に違反し、効力を生じないというべきである。文書の発受信、コピーの作成等の補助的事務の内容に徴すると、これに従事する女子労働者が結婚したことによって労働能率が当然に低下するとは推認できず、既婚女子労働者の非能率を理由に、勤務成績の優劣を問わず一律にこれを企業から排除することは合理性がない。労働基準法3条の趣旨は女子労働者が一般的、平均的に低能率であること等過去の偏見によって不利益待遇を禁止するが、性別によらず、職務、技能、能率等の差に応じた賃金格差を否定するものではない。かかる措置をとらないで、年功賃金制の有する若干の短所を理由として女子労働者を結婚と同時に一律に企業から排除し、もって差別待遇を行い、結婚の自由を制限することはなんら合理性がない。本件補助的事務の内容自体に徴しても、特定宗教における聖職者、巫女等と異なり、独身者に限定すべき理由はなく、その他結婚退職制に合理性を認めるに足りる資料はない。以上のように、女子労働者のみにつき結婚を退職事由とすることは、性別を理由とする差別をなし、かつ、結婚の自由を制限するものであって、しかもその合理的根拠を見出し得ないから、労働協約、就業規則、労働契約中かかる部分は、公の秩序に違反し、効力が否定される。
適用法規・条文
02:民法90条
収録文献(出典)
労働関係民事裁判例集17巻6号63頁、
ジュリスト365号59頁川口実
その他特記事項
会社側控訴後、昭和43.7和解成立。