判例データベース
M市役所身分確認等請求事件
- 事件の分類
- 退職・定年制(男女間格差)
- 事件名
- M市役所身分確認等請求事件
- 事件番号
- 千葉地裁 − 昭和41年(行ワ)第4号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 M市 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1968年05月20日
- 判決決定区分
- 認容(原告勝訴)
- 事件の概要
- 原告は、昭和37年6月1日、市長からM市雇として採用された。被告は、昭和37年度以降新規採用の職員に対し、職場内結婚をした場合、夫婦が共に勤務するのを禁止する趣旨で市長宛に、夫婦のどちらか一方が退職する旨の誓約書を提出させることにした。
原告も右誓約書を提出し、昭和39年4月28日被告職員訴外Kと結婚した。そして、市長は、同年6月27日、原告に対し退職の発令をした。
原告は、右退職は、前記誓約書をたてにとり、原告及び夫を威嚇し、原告を免職処分に付したものである。右免職処分は重大かつ明確な暇疵があるからその効力を生じないと主張した。さらに、仮に右退職が依願退職であるとしても、効力は生じず、原告に対してなされた退職処分は、憲法24条、14条、地方公務員法13条に違反して無効であるとして、市職員の地位の確認を求めた。 - 主文
- 原告が被告の職員であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。 - 判決要旨
- 依願免職は当該公務員の同意に基づく行政行為であり、かつ公務員がその意により退職する場合であるから、その同意は、免職処分が有効に成立するための絶対的要件というべきである。被告の実施した結婚退職制は、庁内の秩序維持、能率低下防止のため、夫婦のいずれか一方を退職させるというものであるから、性別を理由とする差別待遇とはいえないが、昭和37年、原告ら女子の新規採用のみから誓約書を徴したことは、明らかに不公平な処置であって、地方公務員法第13条の平等取扱の原則に違反する。前記の如き、誓約書を徴された職員にとっては、それは職場内結婚即退職の重圧となり、事実上配偶者の選択、結婚の時期等に関する自由の制約となる。結婚の自由は憲法により国が国民に対して保障した基本的人権の1つであり、地方公共団体である被告は、憲法の保障した人権を尊重する義務があり、合理的な理由なく制限することは法律上禁止されているものと解すべく、この理は特別権力関係にある公務員に対する関係においても異ならないことは、地方公務員法第13条の規定からも言い得るところである。
被告は、人事管理の必要上結婚退職制を実施したのである、と主張し、共稼ぎ夫婦が同じ部屋で勤務することにより、執務上若干好ましからざる影響を及ぼしたことは、推測し得られるが、それは職場環境の整備、管理者の指導監督の強化によって改善し得る程度のものであって、夫婦の一方をやめさせなければ是正し得ないものではなく、被告が、かかる改善の手段方法を講じたことを認めるべき証拠はなく、他に被告の結婚退職制を是認し得る合理的理由は発見できず、被告の原告に対する退職勧告は、原告が前記誓約書を提出したことを唯一の理由としてなされたものであることが明らかであり、本件免職処分は結婚の自由を侵すものというべきである。原告が退職を承諾したのは、誓約書を提出した以上、退職要求に応じなければならないものと考えたからであって、右錯誤は右意思表示の内容をなすものをいうべく、その態様からみて、それは要素の錯誤に当たると解するを相当とし、被告は誓約書が有効なものでないことを知りながら、退職勧告をしたことが認められるので、右承諾は無効であるといわざるをえない。一般に相手方の同意を要件とする行政処分が、無効な同意に基づいてなされた故をもって、直ちに無効となるものではないとしても、依願免職処分の法律上の性質は、辞職の申出に対する承認であること、被告は原告が採用に際してなした誓約が無効であることを知りながら、誓約書を提出したことを理由に原告ら夫婦に対し退職を迫り、原告がやむなくこれを承諾するや直ちに退職の発令をし、後日原告の夫Kから原告名義の退職承諾書を、発令前の日付で作成させて形式を整えたこと、原告ら夫婦は右誓約により拘束されるものと信じて退職を承諾したものであること、被告は昭和37年には、原告ら女子採用者だけから誓約書を提出させ、原告ら夫婦に対し、それを理由に退職を勧告しながら、原告と同時に採用した男子職員からは誓約書を徴さず、職場内結婚をしても退職勧告をしていないこと、および被告の結婚退職制には合理的な理由がなく、職員が職場内結婚をしたことの故をもって退職を要求し、辞職させることは、国が国民に対して保障し、被告が地方公共団体として尊重しなければならない結婚の自由を制限することになり、地方公務員法の規定する平等取扱の原則にも違背するものであることなどを合せ考えれば、右瑕疵は重大かつ明白であるというべく、本件依願免職処分は無効である。原告が本訴を提起したのは、退職発令から2年余りを経過した後であるが、それは原告ら夫婦の、お役所は間違ったことをしないものであるとの素朴な潜在意識と、誓約書を提出した以上、約束は守らなければいけないものとの考えから、他県で起きた女子職員の解雇問題が差別待遇として取り上げられ、新聞に報道されたのを知り、訴訟の提起に及んだもので、右事実は本件処分の瑕疵の明白性を認定する妨げとなるに足りない。 - 適用法規・条文
- 05:地方公務員法13条
- 収録文献(出典)
- 行政事件裁判例集19巻5号860頁、
判例時報518号24頁、
判例タイムズ221号109頁、
労働経済判例速報642号3頁 - その他特記事項
- なし。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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