判例データベース
Y証券地位保全等仮処分申請事件
- 事件の分類
- 退職・定年制(男女間格差)
- 事件名
- Y証券地位保全等仮処分申請事件
- 事件番号
- 名古屋地裁 − 昭和42年(ヨ)第1821号
- 当事者
- 申請人 個人1名
被申請人 Y証券株式会社 - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1970年08月26日
- 判決決定区分
- 認容(申請人勝訴)
- 事件の概要
- 申請人は昭和34年8月にY証券株式会社に入社し、以来名古屋支店に勤務していたが、昭和42年3月14日に申請外Oと結婚した。同年3月22日、申請人は退職届を提出し、同年5月15日退職金を受領し、同年5月1日から9月30日まで臨時勤務者として稼動した。
これに対し、申請人は、右退職届提出は、会社による結婚退職の慣行を理由とする強要によってなされたものである、として、従業員の地位確認等を求めて、仮処分を申請した。 - 主文
- 1.申請人は被申請人の従業員の地位にあることを仮に定める。
2.被申請人は申請人に対し、昭和45年8月4日から毎月15日かぎり、1ヶ月金34,211円の割合による金員を仮に支払え。
3.申請人のその余の申請を却下する。
4.訴訟費用は被申請人の負担とする。 - 判決要旨
- 申請人は結婚後も正社員として継続して勤務することを希望しその旨会社に懇請したものの会社は結婚退職の慣行の存することを理由として申請人に任意退職すべきことを強く要求し、申請人はやむなく会社主張の慣行に従い、本件退職願を提出したものであると認めるものが相当である。女子労働者が結婚したときは継続勤務の意思の有無にかかわりなく一律に退職することを要する旨の前記慣行は労働条件につき性別による合理性のない差別待遇をしたことになり、又女子労働者の結婚の自由を合理的な理由もなく制約するものである。
従ってこのような慣行は憲法14条、13条、24条の精神に違反するから、結局民法第90条に違反し無効である。
申請人が本件退職願を提出するについて動機となった結婚退職の慣行の有効性につき、申請人において錯誤があったことになる。
そして、会社は右慣行の存在を理由に申請人に対し、これに従うべきことを要求し、申請人はこの要求に応じて退職願を提出したのであるから、右動機は表示されたものというべきであり、申請人が右慣行は無効であるからこれに従う義務はなく、結婚後も継続して勤務する権利のあることを知っておれば本件退職願を提出しなかったことは余りに明白であるから、結局申請人の退職願の提出による本件合意解除の意思表示には民法第95条の法律行為の要素の錯誤があったことになり、無効といわざるを得ない。また、申請人は、会社に対し正社員としての継続勤務を要求したが、結局会社主張の慣行に従わざるを得ないと思うに至ったのであるから、申請人の錯誤につき重大な過失があったとはいえない。よって、本件合意解除は無効である。 - 適用法規・条文
- 01:憲法14条,01:憲法13条,01:憲法24条,02:民法90条,02:民法95条
- 収録文献(出典)
- 労働関係民事裁判例集21巻4号1205号、
後藤清労働判例111号85頁、
手塚和彰ジュリスト487号143頁 - その他特記事項
- なし。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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