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I県経済農協連地位保全等仮処分申請事件
- 事件の分類
- 退職・定年制(男女間格差)
- 事件名
- I県経済農協連地位保全等仮処分申請事件
- 事件番号
- 盛岡地裁 − 昭和45年(ヨ)第122号
- 当事者
- 申請人 個人1名
被申請人 I県経済農業共同組合連合会 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1971年03月18日
- 判決決定区分
- 認容(申請人勝訴)
- 事件の概要
- 申請人はI県内の農業共同組合をその会員とし、会員およびその組合員の経済的利益の追求を目的として事業を行う連合会の従業員である。被申請人連合会は、従前、一般職員と臨時職員の2種の従業員を配置してきたが、昭和40年4月1日に準職員制度を採用し、従前からあった「従業員就業規則」のほかに新たに「準職員就業規則」を設けて、従来の臨時職員を「事務雇員」「タイピスト」「専務オペレーター」等に区分し準職員とした。
申請人は、昭和36年以来臨時職員として被申請人に勤務していたが、設置された際、準職員の事務雇人となりその職務に従事してきた。
被申請人は、昭和45年4月30日、申請人に対し、31歳に達したとして準職員就業規則に基づき、退職辞令を交付し、以降申請人を従業員として扱わず、かつ5月分以降の賃金を支払わない。
そこで、申請人は、準職員就業規則の31歳定年制の規定は、実質的に女子の若年定年制であると主張し、雇庸契約上の地位保金、賃金及び許容費用を求めて、仮処分申請した。 - 主文
- 1 申請人が被申請人に対し雇庸契約上の権利を有する地位を仮に定める。
2 被申請人は申請人に対し、金333,000円ならびに昭和46年3月以降本案判決確定にいたるまで毎月21日限り金32,900円を仮に支払え。
3 訴訟費用は被申請人の負担とする。 - 判決要旨
- 一部の事務雇員は事務職員と同一内容もしくは同種の業務を担当しており、またそれまで事務職員が担当してきた業務を事務雇員が引き継いで担当する例と、逆にそれまで事務雇員が担当していた業務を事務職員が担当する例とがあり、事務職員と事務雇員の職務は明確に区分されている旨の被申請人の主張はとることができない。
したがって、前記準職員就業規則15条1号の「事務雇員は31歳をもって停年とする」旨の規定は職種別停年制を定めたものであるとの被申請人の主張もまたとることができない。男子の事務雇員が準職員就業規則15条1号の適用を受けることはなく、結局右条項の適用を受ける事務雇員は女子に限られることになり、その運用の実態によってみれば、右条項は実質的には女子の事務雇員等に限り31歳をもって停年とする旨のいわゆる女子の若年停年制を定めたものであると認めざるをえない。労働基準法119条は同法3条、4条違反の使用者に対する罰則を定めているのであるから、罰刑法定主義の建前からして右条項を拡張して解釈することは許されないものというべきである。してみると労働基準法3条、4条は性別を理由に賃金以外の労働条件について差別することを直接禁止の対象とはしていないものと解するのが相当である。労働基準法3条、4条は性別を理由に賃金以外の労働条件について差別することを直接禁止しておらず、却って同法19条、61条ないし68条等は女子の保護のため、男子と異なる労働条件を定めていることが認められる。しかし、右のような労働基準法上の諸規定を斟酌すると、同法は性別を理由とする労働条件の合理的差別を許容し、その反面、性別を理由とする合理性を欠く差別を禁止しているものと解される。そしてこの禁止は労働法上公の秩序を構成するものと解されるから、労働条件について性別を理由とする合理性を欠く差別を定める就業規則は民法90条に違反し無効となるというべきである。これを本件についてみるに、本件の停年制の内容は一般職員(事務職員を含む)の停年が55歳であるのに対して、女子の事務職員の停年は31歳と著しく低いものであり、かつ31歳以上の女子であるということから当然に企業に対する貢献度が低くなるとは言えないから、他にこの差別を正当つける特段の事情のない限り著しく不合理なものとして民法90条違反として無効となると解すべきである。女子事務雇員の停年を31歳とし、一般職員(事務職員を含む)55歳停年と差別する準職員就業規則15条1号の規定は著しく不合理なものであり、民法90条に違反して無効であるといわなければならない。なお、事務雇員等の停年を31歳と定めた昭和44年3月25日の被申請人と労働組合との間の協定も同様に無効である。 - 適用法規・条文
- 02:民法90条
- 収録文献(出典)
- 労働関係民事裁判例集22巻2号291頁
- その他特記事項
- なし。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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