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N放送会社女子若年定年制事件(本訴)

事件の分類
退職・定年制(男女間格差)
事件名
N放送会社女子若年定年制事件(本訴)
事件番号
名古屋地裁 − 昭和47年(ワ)第1452号、名古屋地裁 − 昭和47年(ワ)第2064号
当事者
原告 個人2名
被告 N放送株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1973年04月27日
判決決定区分
一部認容(原告一部勝訴)
事件の概要
被告は、テレビ放送等を目的とする会社であり、原告Aは、昭和37年3月26日、被告に入社従業員として勤務していた。被告は、就業規則25条に女子従業員の定年を30歳とする旨の規定をもち、原告は昭和44年4月3日の経過をもって30歳となり、同日、被告は原告が退職したとして、以来、原告の従業員としての地位を認めていない。なお、男子従業員の定年は55歳と就業規則に規定されている。

これに対し、原告は、男女別定年制は、性別による差別待遇にほかならず、憲法14条、労働基準法3条、4条の精神に反し、同時に女子従業員の労働権、生存権を侵害し、憲法25条、27条の精神にも反し、民法90条により公序良俗違反として無効と主張し、従業員たる地位確認及び昭和44年4月から昭和46年9月30日までの賃金及び昭和46年10月以降の賃金及び訴訟費用、を求めて、仮処分の申請をした。名古屋地判昭和47年4月28日申請は認容され、原告は仮処分で勝訴した。
本件は、その本案であり、仮処分申請人の原告Aと、昭和47年3月27日に30歳となった原告B(ともに女性)の2名が提訴したものである。
主文
1.原告らが被告に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2.被告は原告Aに対し、金5,731,480円および昭和48年2月1日以降毎月25日限り金92,400円の割合による金員を支払え。

3.被告は原告Bに対し、金1,606,980円および昭和48年2月1日以降毎月25日限り金87,040円の割合による金員を支払え。

4.原告らのその余の請求を棄却する。

5.訴訟費用は被告の負担とする。
6.この判決の第二・第三項は仮に執行することができる。
判決要旨
憲法14条は、基本的人権として法のもとにおける平等を宣言し、性別を理由とする合理性のない差別待遇を禁止している。同条を受けた労働基準法4条もまた性別を理由とする賃金の差別を禁止し、同法3条は労働条件について国籍、信条または社会的身分を理由とする差別を禁止している。ところが、労基法は賃金以外の労働条件については、性別を理由とする差別を禁止する規定を設けず、かえって、同法19条、61条ないし68条は女子労働者を保護するため、男子労働者と異なる労働条件を定めている。従って労働基準法は、性別を理由に賃金以外の労働条件について差別することを直接禁止の対象としていないと考えられる。本件のように就業規則による定年退職制は、退職に属する労働条件であることが明らかであり、本件女子定年制が男子の55歳に対し女子について30歳と著しく低いものであり、かつ30歳以上の女子であるということから当然に労働者としての適格性を失うとは即断できないから、もとよりそれは性別を理由とする差別待遇にほかならない。そして、性別による差別待遇が退職という労働契約終了の効果をきたすものであってみれば、労務の提供によって生活を維持している労働者の生存権、労働権をも侵害するものであるから、憲法14条、25条、27条の精神にもとることは明らかである。従って他にこの差別を合理的に理由づけるにたる特段の事情がない限り、著しく不合理な性別による差別待遇であり、民法90条による公序良俗違反として無効というべきである。女子労働者が一般的に短期勤続の傾向にあるということは、本件女子定年制の合理性を理由づけるに足りるものとは認めがたい。また、被告における女子従業員の退職事由、平均勤続年数ないし退職年齢は、本件女子定年制のもとにおけるものでもあり、なんら結論を左右するものではなく、かつ、被告と同じく他の民間放送会社において30歳の女子定年制の定めがあることをもって、本件女子定年制の合理的理由があるといえないことはもちろんである。企業の合理化に基づき、人事の停滞防止ないし新陳代謝を図ることを理由として、女子について男子と差別した定年制を敷くことは、一方的に女子にのみ犠牲を強いるものであって、一般的傾向として女子労働者が短期勤続であることを考慮しても、到底合理的な理由ということができない。また、一定時期に退職する制度は、将来の生活設計に役立つとする被告の主張は、定年制一般の問題であって、本件女子定年制の合理性を理由づけるものといえないことはいうまでもない。仮に被告において、女子従業員すべてが単純な定型的、補助的業務を担当しているとしても、原告ら女子従業員が入社時にこのような業務のみに従事する旨の労働契約を結んだと認めるに足りる証拠は何ら存在しないから、被告が女子労働者は結婚ないし出産までの一時的就職にすぎないことを前提として、その能力の有無を問わず、一律にこれを担当させている結果によるものと認める外はないが、このような労務管理はそれ自体として甚だしく合理性に欠けるというべきである。思うに、女子若年定年制に合理的理由ありと認められる場合とは、特定の業種または業務に必須の年齢的制約が伴い、かつ非適格者に他業種または他業務への配転の可能性のない特殊の場合であろうが、本件においては被告の全立証によるも本件女子定年制がかかる場合にあたるとは認められない。
従って本件女子定年制は、女子従業員を男子従業員の55歳定年制と著しく不利益に差別するもので、公序良俗に反し無効といわなければならない。
適用法規・条文
02:民法90条
収録文献(出典)
判例タイムズ298号327頁、

労働法律旬報836号64頁、
小西國友ジュリスト577号151頁
その他特記事項
No.27に控訴審