判例データベース
N自動車地位保全賃金支払い仮処分申請控訴事件
- 事件の分類
- 退職・定年制(男女間格差)
- 事件名
- N自動車地位保全賃金支払い仮処分申請控訴事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 昭和46年(ネ)第1114号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 N自動車株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1973年03月12日
- 判決決定区分
- 控訴棄却(控訴人敗訴)
- 事件の概要
- 被告会社は、就業規則により、男子の定年を55歳、女子の定年を50歳と定めており、これの適用を受けて、退職通告された女子職員が訴訟を提起した。
原審では、労働者である申請人(本件控訴人)が敗訴し、控訴した。本件はその控訴審である。 - 主文
- 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 定年年齢についても男子55歳、女子50歳のように女子のそれを男子のそれより低くする取扱は、それが専ら女子であることのみを理由とする以外に他に合理的理由が認められないときは憲法第14条の趣旨に反し公序良俗に反するものと解するのが相当であるところ、本件協約の目的、その締結経過から、被控訴会社の男女別定年制をそのまま本件合併時以後におけるP自工の事業場においても採用することに合理的根拠があるものと認められない限り、本件協約中女子の定年年齢に関する部分は専ら女子であることのみを理由とするものとして無効とすべきである。人間の生理的機能の年齢的変化という点においては男女間に特別の差はないが、一般的にみて生理的機能水準自体は女子は男性に劣り、女子の50歳のそれに匹敵する男子の年齢は52歳位、女子55歳のそれに匹敵する男子の年齢は70歳位とみられていること、P自工も被控訴会社も自動車製造を業とする企業であり、女子従業員は特に生産部門においては男子と同等の作業を要求し得ない分野があり、看護婦・電話交換手・タイピストなどの専門職種は別として庶務・人事・経理・設計等の部門でいわゆる一般事務に従事しているものが大部分であること、被控訴会社は年功序列型の賃金体系を採用している(P自工も同様である)こと、
以上の事実がそれぞれ認められるのであって、右事実からすれば、本件合併後におけるP自工の事業場の従業員についても、被控訴会社の従前の従業員についてと同様に、女子従業員は一般的にいって職場が男子のそれよりも狭く限定され、その職場での業務は入社後数年すれば習熟し、それ以上の勤続年数を重ねてもその企業への貢献度は男子従業員に比して向上せず、賃金と労働能率のアンバランスは男子従業員より早期に生ずるとみることができる。
してみれば、P自工の従業員の待遇に関する基準を本件合併時における被控訴会社の従業員の待遇に関する基準に統一させることとし、その結果定年年齢について男女の差別取扱をすることとする本件協約が専ら女子であることのみを経由とするものではないというべきである。どのような職種・職場にどのような従業員を雇用し、配置するかは使用者の事業経営方針によって定められるべきものであって、被控訴会社のような重工業を営む会社において使用者の経営方針に従った雇用配置をするときは(その巧拙はともかく)、生理的機能水準は女子が男子に劣り、現業では女子は男子と同等の作業を要求し得ない分野があるという女子従業員に対する評価が一般的になされ得る以上、これを理由とする男女の差別取扱が合理的根拠を欠く公序良俗に反するものということはできない。 - 適用法規・条文
- 99:なし
- 収録文献(出典)
- 労働関係民事裁判例集24巻1・2号84頁、
楢崎二郎ジュリスト578号212頁、
島田信義、労働法律旬報832号25頁、
水野勝、労働法律旬報834号43頁 - その他特記事項
- No.29参照。本訴(No.31)も参照。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 昭和44年(ヨ)第2210号 | 棄却(申請人敗訴) | 1971年04月08日 |
東京地裁 − 昭和46年(ネ)第1114号 | 控訴棄却(控訴人敗訴) | 1973年03月12日 |