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N自動車雇用関係存続確認等請求事件(控訴)

事件の分類
退職・定年制(男女間格差)
事件名
N自動車雇用関係存続確認等請求事件(控訴)
事件番号
東京高裁 − 昭和48年(ネ)第675号、東京高裁 − 昭和48年(ネ)第702号、東京高裁 − 昭和48年(ネ)第1886号
当事者
控訴人(702号事件控訴人)個人4名
被控訴人(675号事件被控訴人、1886号事件附帯控訴人)個人1名
(675号事件控訴人、702号事件被控訴人、1886号事件附帯被控訴人)N自動車株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1979年03月12日
判決決定区分
控訴棄却、附帯控訴一部認容(会社側敗訴)
事件の概要
N自動車は、昭和48年4月1日に定年年齢を男子60歳女子55歳に変更した。会社の前身F産業は、昭和24年A外8名(A~I)を整理解雇した。

原審東京地判(昭和48年3月23日)では、雇用関係確認の訴が、A・Iについて認容され、Bの損害賠償請求が一部認容され、C~Hの請求は棄却された。

これに対し、C・D・F・Hの4名が控訴し、Aが附帯控訴し、また、N自動車がAに対し控訴したのが本件である。
主文
一 控訴人C、同F及び同Hの各控訴を棄却する。
二 控訴人Dの当審における新請求を棄却する。
三 控訴人N自動車株式会社の被控訴人Aに対する控訴を棄却する。
四 1 附帯控訴に基づき附帯被控訴人N自動車株式会社は、附帯控訴人Aに対し、金1,119万9,989円及び昭和53年7月以降昭和54年1月まで毎月25日限り金10万1,988円を支払え。
2 附帯控訴人Aのその余の附帯控訴を棄却する。
五 控訴費用は、控訴人C、同D、同F及び同Hと被控訴人N自動車株式会社との間においては右控訴人らの、控訴人N自動車株式会社と被控訴人Aとの間においては同控訴人の負担とする。
判決要旨
憲法14条(法の下における平等)の趣旨を設けた民法1条の2により、性による不合理な差別を禁止するという男女平等の原理は、国家と国民、国民相互の関係の別なく、全ての法律関係を通じた基本原理とされており、この原理が民法90条の公序良俗の内容をなすことは明らかである。夫婦の役割分担とこれに関連する女性の職業活動の是非は、直接的には当該夫婦を中心とする家庭の問題であり、また社会の基礎単位をなす家庭生活の安定と次代の社会の構成員の健全な育成に関心をもつ社会全体の問題であるが、提供される労働力を利用するだめの立場にある企業としては、右の問題につきいずれかの見解に立って規制する立場にはなく、この問題については社会の実情にそった国民一般の良識に従うべきものと考えられる。婦人労働の実情、社会一般の認識からみると、婦人は家庭に帰るべきものとする考え方の下にその職業活動につき社会的規制を加えることは、わが国の実情に適さず、基本的には、男女とも同じ職業人として合理的な競争条件の下に平等に取り扱うことが要請されており、企業経営の本来のあり方としても、そのような取扱を否定することはできないものと考えられる。男女平等は基本的な社会秩序をなしていること、定年制は労働者に職業生活の中断を強いるものであること等から考えると、定年制における男女差別は、企業経営上の観点から合理性が認められない場合、あるいは合理性がないとはいえないが社会的見地において到底許容しうるものでないときは、公序良俗に反し無効であると解するのが相当である。被告会社は、厚生年金保険法が定年年齢の男女差別を公序良俗に反しないものとして肯認していると主張するが、そのように解すべき根拠は認められない。
労働基準法の女子保護規定のうち例えば産前産後休業などの母性保護規定は、健全な次代の社会の構成員を産み出すという社会の要請に基づくものであって、このような規定を理由に女子を差別することは法の趣旨に反する。男女間に生理的機能の差異があるにかかわらず、少なくとも60歳前後までは、男女とも通常の職務であれば、今日の企業経営上要求される職務遂行能力に欠けることはないと認められる。定年制の一般的実情をみると男女別定年制は少数である。男子は一家の大黒柱であるのに女子は夫の生活扶助者で家庭内で就業する地位にあるというのは社会の実情に合致せず、国民一般の認識とも相異する。被告の企業経営上の観点から定年年齢において女子を差別しなければならない合理的理由は認められず、わずかに、女子を定年年齢において差別しても女子従業員を雇うのに困らないという事情があるにすぎない。これは労働力の需給の不均衡から企業側の買手市場になっていることの反映であり、この経済的優位に乗じて女子を差別することは、企業経営の本来の筋道からはずれており、合理性があるとはいえないものである。本件の定年制は、労働力の需給の不均衡に乗じて女子労働者の生活に深刻な影響のある定年年齢について理由もなく差別するもので、企業経営上の観点からの合理性は認められず、また社会的な妥当性を著しく欠くものであるから、法秩序の基本である男女の平等に背反するものであり、公序良俗に違反するものといわなければならない。
適用法規・条文
02:民法90条、02:民法1条2
収録文献(出典)
労働関係民事裁判例集30巻2号283号、判例時報918号24頁、判例タイムズ378号68頁、労働判例315号18頁、大脇雅子ジュリスト695号77頁、奥山明良ジュリスト717号138頁
その他特記事項
本件については本訴と同時に申請した仮処分(46.4.8東京地裁、48.3.12東京高裁)では労働者が敗訴しているが、本訴においては、昭和48年3月23日の東京地裁判決(No.31)及び今回の東京高裁判決のいずれにおいても労働者が勝訴した。上告審(No.33)参照。