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I公園男女差別定年制事件

事件の分類
退職・定年制(男女間格差)
事件名
I公園男女差別定年制事件
事件番号
静岡地裁 − 昭和47年(ヨ)第59号
当事者
申請人 個人5名
被申請人 株式会社I公園
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1973年12月11日
判決決定区分
認容(申請人勝訴)
事件の概要
被申請人は、シャボテンの展示等を主体とする観光レジャー事業を営む株式会社である。被申請人は、昭和46年6月1日に未定であった定年制について、就業規則に男子従業員57歳女子従業員47歳定年制及び経過措置として、50歳未満の女子は9ヶ月定年実施を猶予することを規定し、同月5日定年制を実施した。

これにより、申請人ら5名は、昭和47年3月4日定年に達したものとして扱われた。
これに対し、申請人らは、右差別定年制は女性差別であり、無効であると主張して、地位保全及び賃金の支払いを求めて、仮処分を申請した。
主文
申請人が被申請人との間にそれぞれ雇傭契約上の権利を有することを仮に定める。

被申請人は昭和47年3月4日以降本案判決確定にいたるまで、毎月25日限り1ヶ月当り申請人Aに金5万4,040円、同Bに金5万6,980円、同Cに金4万6,500円、同Dに金5万50円、同Eに金5万4,350円をそれぞれ仮に支払え。
訴訟費用は被申請人の負担とする。
判決要旨
企業が女子従業員の定年年齢を男子従業員より低く定めることを内容とする定年制を就業規則において定めることは労働条件について男女を差別するものであって、憲法第14条第1項が法の下における性別による差別取扱いを禁じ、憲法第14条をうけた労働基準法第3条が労働条件に関する均等待遇を規定した趣旨及び同法第4条が性別を理由とする賃金の差別を禁止した趣旨に鑑み、合理的理由のない限り労働条件に関する性別による差別は許されないとすることが、公の秩序として確立しており、これに反する就業規則は民法第90条により無効である。一般の契約に関し当事者間に合意が成立したからと云ってすべて当該合意が有効視され、その内容について法的価値判断が下され得ないものでないことは民法第90条その他の強行法規、契約の効力に関して適用される社会立法等を挙げるまでもなく当然のことであり、労働条件に関する事項についても仮に労働協約その他において労働者が一旦合意したとしても、これによって直ちに合理性が付与せられ後にその当否の判断を許さないものとは解し難い。

本件定年制について

イ 企業合理化の必要性から直に女性の定年制を男子より10年低く定めてよい理由とはならない。

ロ 組合の同意があってもそれをもって合理性があるというには疑問なしとしない。本件については組合の同意はない。

ハ 男女の職場を完全に区分し、女子には若い女性のもつ「若さ」「明るさ」「やさしさ」が必要な職種に就かせており、中高年女子には不適当であるとする主張は認められない。

ホ 女子は男子より早く老化するか否かについては個別的性差は認められるにしても、総体的な男女の性による遅速の差はない。

ヘ 女子の企業貢献度が低く、年功賃金の下で賃金と労働能力の不均衡があるとは認められず、もし不均衡が生ずるなら、労務管理の改善により事態を回避する余地はあると解される。

ト 女子労働者の増加からみて一般に男子は家計維持責任者、女子は家計補助と断ずることはできない。

チ 他企業において同様の定年制を採用しているからといって、本件定年制に合理性があることにはならない。
よって本件定年制は、合理的理由がなく民法90条により無効である。
適用法規・条文
02:民法90条
収録文献(出典)
判例時報756号111頁、
労働判例835号7頁、
労働法律旬報854号76頁、
労働判例193号51頁
その他特記事項
会社側が控訴した。(No.36)