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I公園男女別定年制事件

事件の分類
退職・定年制(男女間格差)
事件名
I公園男女別定年制事件
事件番号
東京高裁 − 昭和48年(ネ)第2679号
当事者
控訴人 株式会社I公園
被控訴人 個人5名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1975年02月26日
判決決定区分
棄却(控訴人敗訴)
事件の概要
控訴人(被申請人)株式会社I公園では就業規則の変更によって新たに定められた定年制で男子の定年を57歳、女子の定年を47歳と定めたため、これに該当して退職させられた女子労働者5人が本件定年制の無効を主張し、地位保全仮処分を申請した。原審の静岡地裁沼津支部では、本件男女別定年制は合理的理由がなく性別による差別であり、公序に違反し無効と判断したのに対し、これを不服として会社側が控訴したものである。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
判決要旨
労働基準法3条、4条は罰刑法定主義の原則から、性別を理由とする賃金以外の労働条件について直接禁止の対象とはしておらず、また、憲法14条等の基本的人権の保障に関する規定は、私人間の行為の効力を直接左右するものではなく、性別を理由とする差別的取扱いの禁止も、男女の自然的・肉体的条件の相違に応じた合理的な差別をも否定するものではない。

しかし、憲法14条が国又は公共団体と私人間との関係において保障する男女平等の原理は、元来同法24条とあいまって、社会構造のうちに一般的に実現せられることを基調としているので、合理的理由のない差別の禁止は、一つの社会的公の秩序の内容を構成していると解されるから、専ら女子であることのみを理由とし、他に合理的理由がない労働条件についての差別は民法90条により無効である。控訴会社が本件定年退職規程が、その定年を女子47歳、男子57歳と定めたことの合理的理由として挙げるところを要約すると、
1.控訴会社の企業合理化の必要性、2.本件定年制の採用について組合の同意を得ていること、3.控訴会社では女子向きの職場と男子向きの職場とが完全に区分され、女子向きの職種における労働の態様が観光サービス業である控訴会社の企業の性質上、若い女性のもつ「若さ」「明るさ」「やさしさ」「清潔感」「機敏性」を要求し、中高年層の女子に不向きであること、4.女子従業員は、能力も低く、管理的能力や各種の専門的業務を修得する能力を欠き、他の職種への配置転換が不可能であること、5.女子は、40代後半に肉体的更年期を迎え、労働能力が低下し、賃金と労働能力との不均衡が男子よりも早く生ずる、6.女子は男子に比して企業貢献度が低く、年功序列型賃金体系のもとでは賃金と労働能力との不均衡が男子より早く生ずる、7.男子は、一家の大黒柱として永く労働に従事して家族を扶養するのに対し、女子は、家計補助的労働に過ぎず40代後半まで労働する者が少ないのが実情である、8.他の企業においても一般的に男女別の定年制を定めていること、を挙げるがすべて理由がなく、女子従業員の定年を47歳、男子従業員の定年を57歳と、男子より10年低く定める本件定年制は、女子従業員に対する不合理な性別による差別というべきであるから、控訴会社の右就業規則の規定は民法90条により無効であるといわざるを得ない。
適用法規・条文
02:民法90条
収録文献(出典)
労働関係民事裁判例集26巻1号57頁、判例タイムズ318号207頁、労働経済判例速報875号13頁、判例時報770号18頁、労働判例219号40頁、労働法律旬報882号89頁
その他特記事項
会社側は上告した。(No.37)