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O市農協雇用関係存在確認請求事件

事件の分類
退職・定年制(男女間格差)
事件名
O市農協雇用関係存在確認請求事件
事件番号
秋田地裁 − 昭和51年(ワ)第147号
当事者
原告 個人1名
被告 O市農業共同組合
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1977年09月29日
判決決定区分
一部認容(原告一部勝訴)
事件の概要
被告は秋田県O市内の農業協同組合(以下、「農協」という。)が合併して設立された農協である。原告は、昭和21年3月に五里合村農業会(後の農協)に事務職員として雇用され、昭和44年4月から被告の職員となり、以後生活指導員として勤務してきた。原告は、昭和5年4月生まれの女子で、昭和51年4月中に46歳に達するとして、被告は、就業規則に基き、同月30日限り雇用契約は終了したとした。

これに対し、原告は、就業規則の男子職員56歳女子職員46歳とする規定は憲法14条の趣旨に照らして民法90条に違反して無効として、同年5月1日以降の雇用関係の存在を確認し、昭和51年5月以降同52年7月6日までの賃金(月給及び手当)の支払等を求めて、訴えを提起した。
主文
一 原告と被告との間に雇用契約関係が存在することを確認する。
二 被告は原告に対し、金2,377,900円及び昭和52年7月21日限り金24,116円を支払え。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は第2項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
憲法第14条は法の基本理念である法の下の平等について規定し、これを受けて労働基準法第3条は国籍、信条または社会的身分を理由とする労働条件の差別を禁止し、同法第4条は性別を理由とする賃金の差別を禁止している。もっとも、同法第3条および第4条は、その規定の仕方においては、性別を理由とする賃金以外の労働条件の差別を直接禁止の対象とはしていない。しかし、同法第3条および第4条は、性別を理由として賃金以外の労働条件について合理的理由もなしに差別することを許容する趣旨のものとは解されない。同法第3条が性別を理由とする労働条件の差別を直接禁止の対象としなかったのは、男女の労働条件を機械的に同一に取り扱うことによって生ずる不合理を除去するために、同法第19条、第61条ないし第68条等の女子保護の規定が置かれていることによるものと解されるし、また、同法第4条が性別を理由とする賃金の差別から生ずる弊害が従来特に顕著であったという歴史的事情から、同法第119条第1号に罰則規定を設けて特にこれを禁止しようとしたためであると解されるからである。憲法第14条第1項の趣旨に照らせば、労働条件について性別のみを理由として合理的理由もなく男女を差別してはならないことは、公の秩序を構成するものと解すべきである。したがって、労働条件について合理的理由を欠く男女の差別的取扱いを定める就業規則の規定は、民法第90条に違反し無効であるというべきである。被告が差別定年制を設けた理由として、(1)男女の肉体的生理的差異(2)職種等の制約(3)賃金と労働能力の不均衡(4)就職の門戸解放(5)生活指導員に対する農家側の希望、など主張したが、いずれも合理性がない。企業が就業規則において男女差別定年制の規定を設けている場合には、その差別の合理性の立証責任は、右規定が有効であることを主張する側にあるものと解すべきところ、以上のとおり、被告の就業規則第16条が男子職員と女子職員との定年年齢に10歳の差を設けていることにつき、その合理的理由を見出すことはできない。したがって、同条のうち女子職員の定年年齢を定めた部分は、合理的理由もなしに女子職員を不利益に差別するものとして、民法第90条に違反し無効といわざるを得ない。原告には定年により退職の効力が生じていないから、原告と被告との間には依然として雇用契約が継続していることになる。それなのに被告はこれを争っているから、原告は雇用契約関係存続確認を求める利益がある。
適用法規・条文
02:民法90条
収録文献(出典)
労働判例287号47頁、労働法律旬報952号71頁、労働経済判例速報968号16頁
その他特記事項
なし。