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(財)H研究所地位確認等請求事件

事件の分類
退職・定年制(男女間格差)
事件名
(財)H研究所地位確認等請求事件
事件番号
広島地裁 − 昭和58年(ワ)第238号
当事者
原告個人1名
被告財団法人H研究所
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1984年01月31日
判決決定区分
一部認容(原告一部勝訴)
事件の概要
原告は、大正14年8月15日生まれの女子であり、昭和23年8月12日国立予防衛生研究所支所広島原子爆弾影響研究所に厚生事務官として勤務し、右研究所が昭和50年4月1日被告(財団法人H研究所)に組織変更されてからは被告職員となった。

被告の就業規則に、職員の定年は男子満62歳、女子満57歳とし、退職日は、満年齢に達した直後の6月末又は12月末、とあり、被告は原告を昭和57年12月31日をもって定年退職になる旨通知した。

これに対し、原告は、右就業規則は性別によって差別するものであって、憲法14条、民法90条違反であり、原告の定年は男子と同じく62歳が正当と主張して、原告が被告に対し雇用契約上の権利を有することの確認及び昭和58年1月以降の給与及び期末手当の支払を求めて、提訴した。
主文
1.原告が被告との雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2.被告は原告に対し昭和58年1月から毎月25日限り金28万8,263円及び昭和58年から毎年7月末日限り金56万0,526年、12月末日限り金81万2,762円を支払え。
3.原告のその余の請求を棄却する。
4.訴訟費用は被告の負担とする。
5.この判決の第2項は仮に執行することができる。
判決要旨
本件定年制は定年年齢を男子62歳、女子57歳とし、比較的高年齢で男子と女子との間に5歳の年齢差を設けたものであるが、被告の事業の遂行上、差を設ける必要性を欠き、差別をしなければならない合理的理由が認められないときは、被告の就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効であると解するのが相当である(最高裁判所昭和56年3月24日第3小法廷判決・民集35巻2号300頁参照)。厚生年金保険法42条によれば、老齢年金の受給昇格年齢は男子60歳、女子55歳とされており、本件定年制は右各年齢を上回るが、右老齢年金は労働者が老齢により労働能力を喪失した老後の生活を保障するためのものであるから、労働者が働く意思と能力を有し、企業がそれを受け入れることが可能であるとき、右老齢年金が支給されることを理由に労働者を定年退職させることは右法律の目的にそわないうえ、たとえ右年金が支給されるとしても、その金額は企業に雇用され支給されていた給与よりも大幅に減額されたものとなり、退職は本人に多大の不利益を与えることは明らかであるから、現行の厚生年金保険法上老齢年金の女子の受給資格年齢が55歳になっていることは本件男女別定年制の合理的理由とはなりえない。組合が同意し、原告も本件定年差別を知りながら被告に採用されたとしても、雇用契約の内容が公序良俗に反すれば無効となるのであるから、右同意等は本件男女別定年制の合理的理由とはならない。被告は、原爆障害調査委員会が改組され、財団法人として設立されたものであるが、本件定年制は、原爆障害調査委員会とその組合が協定して定めたものを被告が引継ぎ、そのまま就業規則に規定したものであるが、右委員会の事業の遂行上男女間に右差を設ける必要性があったものではなかったこと、被告は本件男女別定年制を是正するため現在組合に対し男女とも60歳の定年制を提案していることが認められるのであり、被告の事業の遂行上定年年齢において女子を差別しなければならない必要性はないといえる。
以上によれば、本件男女差別定年制に合理的理由は認められない。
適用法規・条文
02:民法90条
収録文献(出典)
労働判例425号27頁、
労働経済判例速報1179号7頁
その他特記事項
本件は控訴された。(No.41)