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(財)H研究所地位確認等請求控訴事件

事件の分類
退職・定年制(男女間格差)
事件名
(財)H研究所地位確認等請求控訴事件
事件番号
広島高裁 − 昭和59年(ネ)第19号、広島高裁 − 昭和59年(ネ)第197号
当事者
控訴人財団法人 H研究所
附帯被控訴人 財団法人H研究所
被控訴人 個人1名
附帯控訴人 個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1987年06月15日
判決決定区分
原判決一部変更(被控訴人兼附帯控訴人一部勝訴)
事件の概要
定年を男子62歳、女子57歳と定めた就業規則の適用をうけ退職を言い渡された女子労働者が、女子職員の定年を男子より低く定めた部分は無効であると主張し、提訴した。原審は、女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は性別のみによる不合理な差別であり、民法90条により無効とする判決を出した(昭和59年1月31日広島地裁判決)。

(財)H研究所はこれを不服として広島高裁に控訴したが、その後59年3月、労組との間で、定年年齢は男女とも経過措置を設けて満60歳とする旨の定年並びに退職金に関する労使協定を締結し、就業規則において、満60歳の定年と規定すると同時に、経過措置として「定年を、男子については最初の6年間は満62歳とし、以後3年毎に6ヶ月ずつ段階的に引下げ、昭和72年1月から満60歳とする。女子については、当初現行定年年齢満57歳を満59歳とし、以後1年毎に6ヶ月ずつ延長し、昭和63年1月から満60歳とする。」旨、規定した。被控訴人である女子労働者に対しては、新規定の経過措置を準用し、58年1月1日以降59年12月31日まで、職員としての身分を有するものとして処遇した。これに対し被控訴人は、新規定は経過措置を含めて、男女の定年に差別があり、女子に不利である部分は憲法、男女雇用機会均等法及び民法90条に違反し無効であると主張したものである。
主文
一.本件控訴及び被控訴人の付帯控訴に基づき原判決主文第一ないし第三項を次のとおり変更する。
1.被控訴人が控訴人に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2.控訴人は被控訴人に対し、
(1)昭和60年1月から同年3月まで毎月25日限り金30万3,198円宛を、同年4月から同年6月まで毎月25日限り金31万2,056円宛を、同年7月から同61年3月まで毎月25日限り金31万7,000円宛を、同年4月から同年9月まで毎月25日限り金32万6,270円宛を、同年10月から同62年3月まで毎月25日限り金33万1,420円宛を、同年4月から同年12月まで毎月25日限り金34万1,102円宛を、

(2)昭和60年7月末日限り金63万3,000円を、同年12月末日限り金91万1,100円を、同61年7月末日限り金65万1,540円を、同年12月末日限り金95万2,918円を、同62年7月末日限り金68万1,204円を、同年12月末日限り金98万996円をそれぞれ支払え。
3.控訴人は、被控訴人に対し、金10万円及びこれに対する昭和58年1月1日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。
4.被控訴人のその余の請求を棄却する。
二.訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを五分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
三.この判決第1項2,3は仮に執行することができる。
判決要旨
旧規定中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、性別による不合理な差別を定めたものとして民法90条により無効である。新規定は、控訴人における男女職員の定年をいずれも60歳とするものであり、従前の差別定年制を解消し、定年年齢について完全な男女の平等を実現しているものであるから、定年年齢の定め方そのものに違法の点はない。経過措置について、男子に対して60歳定年を段階的に実施しようとしたのは、男子の既得権の保護を目的としたものであるから、それ自体は十分合理性を有するものと評価することができるものの、女子に関して60歳定年の実施時期を遷延する規定を設けたことは、何ら合理性を認め難いばかりか、1により旧規定下の女子の定年年齢が結果的に男子と同じ62歳となるものとすれば、その既得権が保護されるべきことは男子の場合と異なるところはないので、女子に関する部分は女子についての不合理な差別であり、民法90条により無効である。女子に対しても男子に関する経過措置が適用されることとなり、被控訴人は62年12月末日まで従業員たる身分を有することから、控訴人に対し、昭和60年1月1日以降62年12月31日までの間の給与、期末手当相当分の支払を命じる。また、不法行為による損害賠償として、慰謝料10万円を認める。
適用法規・条文
02:民法90条
収録文献(出典)
判例時報1236号52頁、
労働判例498号6頁、
労働経済判例速報1294号5頁、
古川陽二・季刊労働法145号185頁
その他特記事項
Np.40,42参照。