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T社労働契約関係存在確認等請求事件

事件の分類
雇止め
事件名
T社労働契約関係存在確認等請求事件
事件番号
横浜地裁川崎支部 − 昭和42年(ワ)第320号
当事者
原告 個人1名
被告 T株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1970年09月22日
判決決定区分
請求一部認容(原告一部勝訴)
事件の概要
被告会社は、電気機械器具製造等を目的とする資本金719億660万1,650円の会社である。
原告は中卒後の昭和36年3月28日被告のトランジスター工場の臨時従業員となった。原告は、雇用期間を2ヶ月とする臨時従業員として採用され、以後2ヶ月ごとに契約を更新してきた。昭和41年11月24日、被告会社の登用制度改訂により登用試験が1回となり不合格の者は退職して貰うことになったところ原告は不合格であったとして、被告会社より原告に対し昭和42年6月末日限りで退職して貰いたい旨の申入れを受けた。昭和41年11月28日、原・被告間で労働契約を締結した。右契約により、被告は、原告に対し昭和41年7月1日以降は就労を拒否し、賃金の支払いをしていない。
これに対し、原告は、本件労働契約は期間の定めのない雇用契約であった等と主張して、従業員の地位を有すること等を求めて、訴えを提起した。
主文
原告が、被告との労働契約に基き、被告会社の従業員としての地位を有することを確認する。
被告は原告に対し、昭和42年7月1日以降被告が原告の就労を認めるまで、毎月25日限り、1ヶ月金22,329円の割合による金員を支払え。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は、第二、第四項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
原告は希望して臨時従業員となったものではなく、被告会社に来て最初の雇用契約を締結する際、初めて臨時従業員であることを知らされたこと、その際、被告会社の係員より、「一応臨時従業員として採用するが、一年後に本工への登用試験がある。これは必ず受かるから心配しなくてもよい。臨時工は2ヶ月の契約になっているが、次々と契約を繰返すから心配はいらない。」旨の説明を受けたこと、以来、2ヶ月ごとに契約の更新を繰り返して昭和41年11月27日まで引継ぎ5年8ヶ月の間正規従業員に互してこれと同じ職場で同じ基幹作業に従事してきたこと、原告は昭和37年6月10日、昭和38年9月15日、昭和39年4月15日の三回右登用試験を受けたがいずれも不合格であったこと、一方、被告会社のトランジスター工場は、正規従業員の他に相当数の有期の臨時作業員を不定期に採用して正規従業員と同様基幹作業に従事させてきたが、昭和36年当時は正規従業員約1,700名に対し、臨時従業員は約900名であったこと、その後正規従業員数をふやし、臨時従業員を減らして生産体制を恒常化する方向をたどり、当然臨時従業員を正規従業員に登用する数も増加したこと、臨時従業員は雇用期間を2ヶ月とし、2ヶ月ごとに契約を更新する方法をとり、筆記試験と面接とによる登用選考を受ける資格を与え、合格者を正規従業員に登用し不合格となった者も直ちに雇止めにされることなく、希望すれば引継ぎ臨時従業員として就労でき、年1、2度行われる右登用選考を何回でも受けられる建前であったことなどの事実が認められる。

以上のような、これらの実情等に照らせば、原告の雇用関係は、期間を2ヶ月とする臨時従業員であったに拘わらず、右期間の定めは極めて形式的で、実質は正規従業員と殆ど区別のつかないものであったといいえるのでありかつ、生産規模を縮小しなければならない客観情勢が認められるとか、本人が特に2ヶ月の有期契約を希望したなどの特段の事情も認められないから、少なくとも会社が従業員としての適格性を判定し得る一定期、本件では正規従業員への登用選考を受ける資格を取得する1年の期間を経過する頃には、原、被告間の雇用契約は期間の定めのない契約として存続するに至ったと認めるの相当である。労働契約書によれば、昭和41年11月28日締結の契約は、それまでに繰り返し締結してきたものとは異なり、期間を昭和42年6月末日までの約7ヶ月間と定め、その上契約書第六項には、右期間をこえては新たに労働契約を締結することはない旨が特記されているところ、原告は昭和41年11月24日、突然、上司の課長より、昭和39年に前記の如く臨時従業員の登用制度が改定され、登用選考が1回限りとなったところ、原告は同年4月に行われた選考に不合格となったから、翌年度に入社する新規学卒者が社内事情や仕事に慣れる昭和42年6月末日までをもって原告との雇用契約を終了したいとの申入れを受けかつその旨を記載した被告の申入書を手交されたこと、しかし、原告は熟考の末、昭和41年11月27日頃、上司の組長を通じて右申入を拒絶し、引続き勤務したい希望を述べたところ、同組長より、引続き働くなら契約書が必要だから契約してほしいといわれ、前記の如く第6項の特記事項を含む同月28日付の契約書に署名押印を求められたこと、原告は右第6項は納得できなかったが、引続き就労するには従来と同様、契約書に署名する外ないものと考え、第6項部分は自己の真意でないのに署名押印し、同組長に渡したこと、その際原告は重ねて同組長に対し、やめる意思はなく、ずっと働きたい旨を述べたことなどが認められるから、被告は同組長を通じ、右第6項は原告の真意でないことを知っていたことが推測できる。
右契約条項第6項部分は、原告主張のとおり、民法第93条により無効であるといわなければならない。右第6項部分が無効である以上、その他の部分については、従来繰り返してきた契約と同様形式的なものに過ぎないものというべく、これに記載した期間の定めは、前記のように、すでに期間の定めのない契約と認められるに至った本件労働契約の実質を変更する効力はないものといわなければならない。本件労働契約が期間の定めのないものであり、昭和41年11月28日の契約も、期間の定めあるものとしての効力を持ち得ない以上、他の争点の判断を待つまでもなく、同契約に定めた昭和42年6月末日限りで雇用契約が終了したとする被告の主張はこれを認めることができない。被告会社の前記昭和41年11月24日の被告に対する申入れ、同月28日の契約の際の意思表示等が、期間の定めのない契約における解雇の意思表示と認められるとしても、前記臨時従業員の登用制度が改定実施された後の登用選考に原告が不合格になった事実は、右制度改定の事情、目的が前記(判断要旨1参照)に記載のとおりであり、被告会社において当時生産規模を縮小する必要が生じたなど業務上の支障が存在したことも認められない本件では、解雇の正当理由と認めることはできないし、その他解雇理由について何ら主張、立証がないから、右意思表示には解雇としての効力がないものといわなければならない。
適用法規・条文
02:民法93条
収録文献(出典)
労働経済判例速報724号3頁、

労働判例113号35頁、
労働法律旬報113号35頁
その他特記事項
本件は控訴された(No.58)。