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S銀行地位保全仮処分申請控訴事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- S銀行地位保全仮処分申請控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 昭和47年(ネ)第3029号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 株式会社S銀行 - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1979年02月27日
- 判決決定区分
- 控訴棄却(控訴人敗訴)
- 事件の概要
- 控訴人は、昭和43年11月15日被控訴人銀行にいわゆるパートタイマーとして採用され、京橋支店で為替係の仕事をしていたところ、昭和44年10月31日被控訴人銀行から「予定の期間が満了し、為替係の仕事もパートタイマーを必要としない状態になり」また「勤務状況も悪い」という理由で、雇用契約終了の通告を受け、爾来従業員として取り扱われることなく今日に及んでいる。そこで、右は、明らかに解雇の意思表示に該当するとし、該解雇の意思表示の無効を主張し、仮処分を申請したが却下された。本件はその控訴審である。
- 主文
- 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- パートタイマーとの雇用契約であっても、単に期間の定めがないということだけで、民法の一般原則に従って何時でも無条件に解雇し得るものではなく、現下の社会経済情勢の下では解雇により労働者の生活が危殆に陥ることはみやすいところであるということから、客観的に首肯し得る相当の事由がなければ解雇することは許されず、相当の事由のない解雇は、いわゆる解雇権の濫用としてその効力を否定すべきものと解するのが妥当である。もっとも、かようにパートタイマーとの雇用契約を解約するについても相当の事由の存することが必要であるといっても、前叙のごとき実態を有するパートタイマーと、終身雇用的観念の下に採用され、就業規則所定の解雇事由がない限り原則として満55歳まで身分の保障されている正行員の場合とでは、必要とする相当性の度合につき、同日に論ずることはできず、その間に軽重の差のあることはいうまでもない。認定の諸事実を総合考較すれば、本件解雇の主たる理由は、為替事務の正確な処理と能率の向上を図るため、パートタイマーの使用を廃止し、正行員をもってそれに当てんとする被控訴銀行の新たな事務運営方針が確立されたことにあるものというべきであるが、かかる方針それ自体は、一時的ないしは臨時的な仕事についてはともかく、少なくとも、為替事務のごとく社会的信用を第一とする銀行の経営的事務のあり方からみて、また、対行員との関係ないしは労働者保護という労働法の基本的理念に照らしても、首肯し得るに足りるものというべきである。しかも、控訴人は、右の新たな事務運営方針が確立されたということだけの理由で解雇されたわけではなく、為替係におけるパートタイマーの平均勤務時間が4.25ヶ月(京橋支店におけるパートタイマー全体のそれが4.0ヶ月)であることからみて、控訴人は、稟議期間の満了する昭和44年10月31日現在で、京橋支店におけるパートタイマーの平均勤務時間の約2.4倍勤務したことになること、また、控訴人の勤務状況が一般正行員のそれに比較した場合決して良好であるとはいえなかったのであるから、仮に、採用に際し、控訴人が相当長期の継続雇用を期待したとしても、前叙のごとくかかる期待には客観的合理性の認められない以上、控訴人が現実に被控訴銀行におけるパートタイマー制度の実態のすべてを知悉していたと否とにかかわらず、被控訴銀行が稟議期間の満了に際し期間延長ないしは再雇用等特別の措置をとることなく解雇の挙に出たからといって、本件解雇を目して、相当の事由を欠き、解雇権の濫用にわたるものと論難することは、当を得ないというべきである。
- 適用法規・条文
- 99:なし
- 収録文献(出典)
- 労働関係民事裁判例集30巻1号120頁、判例時報927号238頁、労働判例315号42頁、判例タイムズ386号119頁、労働経済判例速報1012号3頁、平田秀光・労働判例1324号12頁
- その他特記事項
- なお、本案訴訟提起(東京地裁昭54年5月22日)後、解雇が撤回され、和解した。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 昭和45年(ヨ)第2221号 | 申請却下(申請人敗訴) | 1972年12月20日 |
東京高裁 − 昭和47年(ネ)第3029号 | 控訴棄却(控訴人敗訴) | 1979年02月27日 |