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H社地位保全等仮処分申請事件

事件の分類
雇止め
事件名
H社地位保全等仮処分申請事件
事件番号
大阪地裁 − 昭和62年(ヨ)第5219号
当事者
その他 個人2名
その他 H株式会社
業種
製造業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1987年09月11日
判決決定区分
申請却下(申請人敗訴)
事件の概要
被申請会社は、自動計数器、自動扉、光電センサー等の製造・販売を目的とし本社、製造工場を有する株式会社で、従業員は約280名であり、正社員、嘱託社員及びパートタイマーで構成されている。被申請会社では、昭和54年10月以前は期限の定めのないパートタイマー(長期パート)制度を採用していたが、昭和51年ころの不況時人員整理が必要だったものの雇止めができなかったことやパートタイマーの生産効率の悪さを理由に、昭和54年10月以降採用のパートタイマーから契約期間を1年とし、その後1年毎に再契約(勤務成績による)としたが、再契約にあたり雇用者選別で無用の紛争を避けるため、パートタイマーは一律に期間1年とし、必要止むを得ない場合には6ヶ月間に限って再契約するとの、いわゆる短期パート制度の導入方針を固め、昭和56年8月以降からはこれを厳格に適用してきた。

申請人らは昭和59年5月7日に短期パートタイマーとして被申請会社に雇用され、それぞれ材料係・包装係となった。申請人らは入社後、長期勤務を希望するようになり、昭和59年末ごろ組合に短期パートタイマーの継続希望者に対し1年6ヶ月以上の勤務が可能となるよう働きかけ、また、昭和60年3月には自らも組合に加入した。被申請会社は昭和60年11月7日以降雇用契約の終了を理由に、申請人らの従業員としての地位を否定し、賃金の支払いをしない。
そこで、申請人らは、被申請会社に対し、従業員としての地位保全等の仮処分申請をした。
主文
一 本件仮処分申請は、いずれもこれを却下する。
二 訴訟費用は申請人らの負担とする。
判決要旨
認定の事実によれば、申請人らと被申請会社との間の雇用契約は、第1回目が昭和59年5月7日から同60年5月6日、第2回目が同年5月7日から同年11月6日までとする期間の定めのある労働契約であり、その期間の趣旨は、いずれも文字どおり、契約の終期を定めたものであることが明らかである。

申請人らは、被申請会社のパート雇用規定第25条、就業規則第84条、第85条の規定の趣旨からして、本件雇用契約における期間の定めは、更新拒絶が必要であるとの趣旨を定めたものである旨反論し、本件疎明資料によれば、その主張のとおりの各規定の存することが、一応認められるが、右各規定の文言、その趣旨からみて、申請人ら主張のように解することは、到底できないことである。一般的に、雇用契約に期間を定めることは、その期間が1年以下である限り当事者の自由であって、民法、労働基準法その他の実定法上も、短期の期間を定めた雇用契約を締結すること自体を制約する規定はないから、このような制度を採用するか否かは、使用者側の裁量に委ねられているといわざるを得ない。したがって、1年以下の有期の雇用契約を締結するには、常に、「相当な理由」又は「社会的合理性」を必要とすると解することは困難である。右有期の雇用契約の採否が使用者側の自由裁量に委ねられるといっても、労働者保護の観点からそこには自ら限界があり、専ら労働条件を潜脱する等、反社会的な不法な意図に基づいてなされるような場合には、公序良俗違反として、無効とされる余地はある。

これらの観点から本件についてみるに、前認定の事実によれば、申請人らの担当業務が、一時的、臨時的なものではなく、被申請会社の恒常的業務の一部ということができるが、その作業内容は、単純作業であって、必ずしも特殊技能を要するものではなく、これにつき短期パート制度を採用したからといって、これが著しく不相当、不合理であるとまでいうことはできない。のみならず、前記のとおり被申請会社の短期パート制度の導入の主たる意図が、従業員の雇用調整にあるけれども、申請人ら担当のような単純作業について、前認定のような正社員、嘱託社員と異なった簡単な採用手続により、しかも、労働条件、処遇を異にする短期パートを採用することは、企業経営上の合理的必要性に基づくものとして許されるべきものと解するのが相当である。そして、被申請会社では、正社員、嘱託社員に対比して、パートタイマーの勤務状態、ことに中途退職、欠勤率において著しい差異があったが、短期パートをそのような勤務状態の労働者として処遇、対応してきたのである。

被申請会社においては、パートタイマー雇用規定で、パートタイマーの解雇、退職、定年に関して、就業規則を準用していることは当事者間に争いがなく、その意味では、被申請会社では、パートタイマーと正社員に対する右事項に関する規定の仕方を区別してないといえるが、右は、前記事項に関する規律、取扱いを定めたまでであって、そのことから、パートタイマーと正社員の雇用期間に関する事項全てが同一に取り扱われるべきものともいえないから、右規定の存在もパートタイマーの雇用期間を正社員のそれと異なる旨定めることに何ら支障をきたすものではない。短期パート契約締結に際し、労働者が真意で、有期の契約であることを承認して、契約しなければならないことは論を待たないが、労働契約も契約である以上、右をもって足り、それ以上に、それが客観的事情に基づくものであることまで必要であり、これを欠く時は無効であると解するのは相当でない。
申請人らは、本件雇用契約締結に際し、右契約の期間について、新聞の折込み広告、あるいは採用面接時における説明により、第1回目の契約期間が1年、再契約期間が6か月であり、右期間以上の雇用がなされないことを十分に知悉しており、そのうえで、特に何らの異議を留めないで、雇用に応じ、かつ、その旨の記載のある雇用契約書に署名押印しているのであるから、真実、本件雇用契約が短期のパート契約であることを承認して締結したものというべく、また、その期間についても、最大2回の契約で通算1年6か月の雇用期間に限られていることも容認していたのであるから、本件雇用契約締結当時、右期間を超えて雇用契約が継続されるであろうとの期待もなかったものと解される。
適用法規・条文
99:なし
収録文献(出典)
労働判例504号25頁
その他特記事項
なし。