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S社地位保全金員支払仮処分申請事件

事件の分類
解雇
事件名
S社地位保全金員支払仮処分申請事件
事件番号
大阪地裁 − 昭和62年(ヨ)第1281号
当事者
申請人 個人15名
被申請人 S株式会社
業種
製造業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1990年02月20日
判決決定区分
申請一部認容(申請人一部勝訴)
事件の概要
申請人らは、「定勤社員」として、被申請人に、雇用されていた。被申請人には、「正社員」「臨時社員」「定勤社員」の従業員区分があり、契約期間が2ヶ月のパートタイマーである「臨時社員」として2年以上継続勤務し、前年度の出勤率が92パーセント以上である者は、本人の希望により、面接や健康診断等を経たうえ、「定勤社員」として期間を1年とする労働契約を締結することができた。定勤社員は臨時社員より1日の労働時間が1時間長いが、時間給の額、残業割増率、年休、育児時間、慶弔休暇、慶弔見舞金、退職慰労金などの面で有利な扱いを受ける。

被申請人は、経営状況の悪化を理由にして、経費削減、設備投資削減、正社員の異動、生産調整、臨時社員の雇止め(身体障害者を除く全員)、定勤社員に対する全面休業の実施(昭和62年2月3日)。定勤社員の雇止め(同年2月14日付、同年3月20日限り)を行った。定勤社員の雇止めは、身体障害者、配偶者が身体障害者の者、母子家庭の者を除いて1,180名全員が対象であった。
そこで、申請人らは、被申請人の従業員としての地位保全等の仮処分申請を行った。
主文
一申請人らが、それぞれ被申請人の従業員たる地位にあることを、仮に定める。

二被申請人は、申請人らに対し、それぞれ別紙認容債権目録記載の金員を、仮に支払え。

三申請人らのその余の本件仮処分申請を、いずれも却下する。
四申請費用は、被申請人の負担とする。
判決要旨
一応認める事実によれば、定勤社員は被申請人において臨時従業員の一として位置付けられており、処遇の面でも正社員とは明確な差異があるうえ、毎年契約書を作成して契約するという手続が履践されていたのであるから、定勤社員契約は1年という期間の定めのある労働契約にほかならないというべきであり、これが当初から期間の定めのない労働契約であったとか、反復更新を繰り返すことにより期間の定めのない労働契約に転化したとかの事実を一応認めるに足りる疎明資料はない。しかしながら、他方、定勤社員は、臨時社員として2ヶ月の期間の定めのある労働契約を連続して少なくとも11回更新し、2年以上継続勤務してはじめてその資格を得られるものであること、しかも定勤社員になれば契約期間が一挙にそれまでの6倍になること、定勤社員になる際には簡易とはいえ適性検査を受けなければならないのに、その後の契約更新の際は単に書面を作成すれば足りること、申請人が勤務する住道地区の事業部において、従来定勤社員が雇止めされた事例はないこと、申請人は臨時社員として2年以上継続勤務したうえ、決して短いとはいえない期間の契約を過去1回以上更新してきた経験を有すること、申請人らの従事していた作業が単純反復作業であるとしても、商品製造という事業部本来の目的のためには直接必要不可欠のものであったことを考えると、定勤社員契約は、その実質において期間の定めのない労働契約と異ならない状態で存在していたものと認めることができ、本件雇止めの効力を判断するに当たっては、解雇に関する法理を類推すべきである。一応認めた被申請人4事業部の業績悪化の状況、その原因となる外的内的双方の事情を考えると、被申請人には事業部門の縮小あるいは人員の削減をするべきやむをえない経営上の必要があったものと認めることができる。そして、人員整理を行う場合、前記認定のように採用形態や処遇に差異のあることに照らし、まず申請人ら定勤社員を第1順位とすることにも、合理的な理由があるといえる。しかしながら、前示のように、定勤社員契約は実質的に期間の定めのない契約であり本件雇止めの効力を判断するに当たっては解雇に関する法理を類推すべきであるとの立場に立つ限り、そのような場合でも、使用者としては解雇(雇止め)回避のための努力を尽くすべきであると解されるところ、一応認められた事実によれば、被申請人は、住道4事業部の業績悪化あるいは本件雇止め当時の営業赤字の発生にもかかわらず、企業全体としてはまだまだ余力を残していたと推認することができ、そうである以上、本件においては、たとえ定勤社員の雇止めをするとしても、ただ、定勤社員であるというだけの理由で直ちに全員を雇止めの対象とすることまで正当化されるとは解し難く、まず削減すべき余剰人員を確定し、定勤社員の中で希望退職者を募集するなどの手段を尽くすべきであったというべきである。しかるところ、被申請人に、休日振替、時間休業等の手段は採用したものの、定勤社員の雇止めにあたっては、希望退職者を募集することなど全く検討せず、余剰人員確定の努力をした形跡も何ら認められないのであり、そうすると、被申請人は、前記のような経営上の必要がありさえすれば定勤社員全員の雇止めは当然許されるものと考えて本件雇止めをしたとみるしかないが、かかる処置は、前示定勤社員契約の実質に照らしても、いわゆるパートタイマーに寛容な近時の社会通念に照らしても、合理性を欠くといわなければならない。
以上のとおり、本件雇止めは十分な回避努力を欠く点において合理的理由がなく、無効である。
適用法規・条文
99:なし
収録文献(出典)
労働判例558号46頁、労働経済判例速報1385号19頁、労働法律旬報1236号48頁、小俣勝治・季刊労働法156号144頁
その他特記事項
本件とほぼ同内容の決定が、同日個人1名に対し下されたが、本件に対してのみ異議申立が申請された。(No.73)