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S社地位保全金員支払仮処分異議事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- S社地位保全金員支払仮処分異議事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成2年(モ)第50648号
- 当事者
- 申請人 個人15名
被申請人 S株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1991年10月22日
- 判決決定区分
- 一部認可(申請人一部勝訴)
- 事件の概要
- 申請人らは、「定勤社員」として、被申請人に、雇用されていた。被申請人には、正社員、「臨時社員」「定勤社員」の従業員区分があり、契約期間が2ヶ月のパートタイマーである「臨時社員」として2年以上継続勤務し、前年度の出勤率が92パーセント以上である者は、本人の希望により、面接や健康診断等を経たうえ、「定勤社員」として期間を1年とする労働契約を締結することができた。
定勤社員は臨時社員より1日の労働時間が1時間長いが、時間給の額、残業割増率、年休、育児時間、慶弔休暇、慶弔見舞金、退職慰労金などの面で有利な扱いを受ける。
被申請人は、経営状況の悪化を理由にして、経費削減、設備投資削減、正社員の異動、生産調整、臨時社員の雇止め(身体障害者を除く全員)、定勤社員に対する全面休業の実施(昭和62年2月3日)、定勤社員の雇止め(同年2月14日付、同年3月20日限り)を行った。定勤社員の雇止めは、身体障害者、配偶者が身体障害者の者、母子家庭の者を除いて、1,180名全員が対象であった。
申請人らは、被申請人の従業員としての地位保全等の仮処分申請を行った。申請人らは、従業員たる地位及び昭和62年4月から平成2年1月までの給与及び平成2年2月から本案の第1審判決の言渡しがあるまでの各月給等の申請一部認容の決定が下された。
そこで、申請人らは、上記仮処分決定認可の判決を求め、被申請人は上記仮処分決定の取消し・申請人らの本仮処分申請の却下を求め、提訴した。 - 主文
- 一 申請人らと被申請人との間の大阪地方裁判所昭和62年(ヨ)第1281号地位保全金員支払仮処分申請事件について、同裁判所が平成2年2月20日にした仮処分決定主文第1項(申請人らが被申請人の従業員の地位にあることを仮に定めた部分)を認可する。
二
1 右決定主文第2項(金員の仮払いを命じた部分)のうち本判決別紙認容債権目録記載の金員の仮払いを命じた部分を認可する。
2 右決定主文第2項のうち右認可した金員を超えて金員の仮払いを命じた部分を取り消す。
3 右2において取り消した部分につき金員の仮払いを求める部分につき申請人らの本件仮処分申請を却下する。
三 訴訟費用は被申請人の負担とする。
四 この判決は、第2項2に限り仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 定勤社員は、臨時社員よりは契約期間が長く、一日当たりの勤務時間が長いなどの特色を有するものであるが、担当する業務は臨時社員と異なるところがなく、主要な労働条件も異なるところがなく、その一方で、正社員とは処遇の面で差異があり、定勤社員から正社員への登用の道もなく、また、定勤社員を含む臨時従業員の担当する職務は、単純反復作業であって、正社員の担当する職務とはその性質が異なるものである。そして、定勤社員の契約期間が満了する毎年3月20日頃までには、必ずその都度部門長会議により検討された上事業部長の決裁により契約の更新が決定され、この決定に基づき各事業部において契約書を作成して、新たに雇用期間を1年とする雇用契約を締結するという手続が履践され、本人の意思確認がなされているのである。
以上のような事情をみると、定勤社員契約は、1年という期間の定めのある労働契約にほかならないというべきであって、これが当初から期間の定めのない労働契約であったということができないことは明らかであるし、反復更新を繰り返したとはいえ、そのことのみによって、期間の定めのある労働契約が期間の定めのない労働契約に転化したということもできない。更に、右の諸事情とりわけ定勤社員契約の更新が必ず部門長会議による検討を経て事業部長により決定され、かつ定勤社員の個別の意思表示により右契約を締結するという手続が一応履践されていたことに照らせば、定勤社員契約が、その実質において期間の定めのない労働契約と異ならない状態で存在していたということもできないというべきである。これらの事情にかんがみると、定勤社員契約において合意された契約更新の定めは、被申請人が経営内容の悪化により操業停止に追いやられるなど従業員数の削減を行うほかやむを得ない特段の事情のない限り、契約期間満了後も継続して定勤社員として雇用することを予定しているものというべきであり、定勤社員を雇止めするについては、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結している正社員を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があることは否定できないものの、解雇に関する法理が類推され、右の趣旨の特段の事情のある場合に限って雇止めができるものというべきである。これら被申請人の住道四事業部の業績悪化の状況、その原因となった外的内的要因を考えると、被申請人には事業部門の縮小あるいはこれに伴う人員の削減をすべきやむを得ない経営上の必要があったものと一応いうことができる。そして、人員整理を行う場合、前記のように採用形態や処遇に差異のあることに照らし、正社員に対する整理解雇ないし希望退職者の募集をするに先立ち、まず臨時社員や申請人らを含む定勤社員を第一に何らかの方法で人員整理の対象とすることも、あながち不合理ではないといえる。しかしながら、定勤社員契約は期間の定めのある労働契約であるとはいえ、当事者双方において相当程度の雇用契約関係の継続が期待されていたものであって、本件雇止めの適否を判断するに当たり解雇に関する法理を類推すべきであることは前記説示のとおりであるから、本件のように、事業部門の縮小あるいはこれに伴う人員の削減をすべきやむを得ない経営上の必要があると一応いえる場合であっても、使用者としては人員整理の方法及び程度につき慎重な考慮をすべきであり、雇止めを回避すべき相当の努力を尽くさず、ただ定勤社員であるというだけの理由で、直ちに定勤社員全員の雇止めをするようなことは許されないというべきである。これらの事情を総合して考慮すれば、各事業部における操業が、規模を縮小するものがあるとしてもなお継続する状況の下において、被申請人が、定勤社員だけについて、そのほぼ全員を対象として同時かつ一挙に定勤社員契約を解消させるような本件雇止めを行わなければならないほどの真にやむを得ない理由があったとはいいがたい。そうすると、被申請人としては当時まず定勤社員の中で希望退職者を募り、または各定勤社員の個別的事情を考慮するなどして、雇止めの対象を定勤社員の一部にとどめる措置を講じるのが相当であったといえるところ、本件においては、申請人らをこのように限定された態様での雇止めの対象とすることを相当とするような事情があったかどうかがなお問題として残されることとなる。しかし、疎明を総合しても、申請人らと本件雇止めの対象となった他の定勤社員らとの比較において、申請人をとくに雇止めの対象とすることを相当とするような事情を認めることはできないから、少なくとも現段階においてその判断をすることはできない。
したがって、本件雇止めは、十分な回避努力を欠く点において合理的理由のない労使間の信義則に反する措置というべきであって、雇止めを正当化しうる前記趣旨での特段の事情があったとは認めがたいから、後記保全の必要性が肯定される限り仮処分命令により、申請人らと被申請人との間に雇用関係があることを仮に定め、かつ、同日以降の未払賃金相当額の金員を仮に支払うよう命ずるのが相当であるというべきである。 - 適用法規・条文
- 02:民法90条
- 収録文献(出典)
- 労働判例595号9頁、労働法律旬報1286号64頁、労働経済判例速報1443号3頁、中窪裕也・ジュリスト1034号146頁
- その他特記事項
- 原審(No.73)参照。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
大阪地裁 − 昭和62年(ヨ)第1281号 | 申請一部認容(申請人一部勝訴) | 1990年02月20日 |
大阪地裁 − 平成2年(モ)第50648号 | 一部認可(申請人一部勝訴) | 1991年10月22日 |