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J学園雇用関係存続確認等請求事件

事件の分類
雇止め
事件名
J学園雇用関係存続確認等請求事件
事件番号
東京地裁 − 昭和45年(ワ)第7703号
当事者
原告 個人1名
被告 学校法人J学園
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1972年07月04日
判決決定区分
請求棄却(原告敗訴)
事件の概要
被告は女子中学校、女子高等学校を設置、経営する学校法人であり、原告は昭和42年4月1日理科教諭(ただし昭和43年4月1日から理科専任講師となった。)として被告に雇用された。
被告は、就業規則に該当するとして原告に解雇の意思表示をし、同時に解雇予告手当の支払いを準備し、受領を催告した(昭和44年12月1日)。
これに対し、原告は、本件解雇は権利濫用により無効、と主張して、提訴した。
被告は解雇事由として、(1)被告学園の基本方針を批判したこと、(2)生徒を政治集会等に参加させたこと、(3)五段階評価によらない成績評価をしたこと、(4)整理整頓に関する生徒指導を怠ったこと、(5)生徒総会を混乱させたこと、(6)校外生活に関する生徒指導を怠ったこと、(7)始業時間に関する指示を無視したこと、(8)清掃に関する生徒指導を阻害したこと、(9)下校に関する生徒指導を怠ったこと、(10)許可なく物品を購入したこと、(11)授業を怠ったこと、(12)無断で会食に参加したこと、(13)勤務成績が不良であることとの13項目を裁判の中で主張した。
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
もし教師が同校が採用しているコース制に反対であるならば、まず同校内部で、例えば職員会議等に議題としてこれを提案して、真剣に検討を加えるべき性質のものである。このような努力をしないで、一教師が個人的な意見であっても、授業中に公然とコース制を批難することは、明らかに被告学園の教育方針に反旗を翻すことであって、言論の自由の枠内のものとして保障されるものではない。

したがって、原告の右行為は、就業規則第33条にいう「職務上の義務に背反したとき」に該当する。しかも、教師が生徒の面前で、このように学校の基本方針に反対するときは、その方針に則って教科を学習している生徒をして、学校の教育方針に懐疑的ならしめ、ひいては教育の効果を阻害する虞れもなしとはしない。そうすると、原告の発言は、被告学園の教師として、極めて適切を欠いた、不用意な発言であるともいわなければならないから、これを非難されてもやむを得ないものである。被告学園が5段階評価法を採用している以上、被告学園に勤務する教師としては、これによって成績評価を行うべき職務上の義務を有することは当然である。しかるに、原告は、故意に5段階評価法を採用せず、3ないし5の三段階または2ないし5の四段階で成績評価を行っているのであるから、これが職務上の義務に違反することは明らかである。原告がいかなる教育観を有しようとも自由であるが、いやしくも被告に雇用されて被告学園の教師として勤務する以上、被告の職務規律に服さなければならないのは自明である。したがって、原告の右行為は、就業規則第33条に規定する「職務上の義務に背反したとき」に該当する。生徒指導教師でない者が生徒総会の場等で生徒会の指導を行うことには、原則として越権の行為といわなければならないから、もしこれを行う緊急の必要があるときは生徒指導教師を通じるなり、これと相談するなどしたうえ、指導に統一を欠くことがないように配慮すべきものといわなければならない。しかるに、原告は、生徒指導教師でもないのに、そのような措置をもとらないで、生徒指導教師である教諭の発言中やその発言後においてわきから口を出して、これを否定するような発言をしている。

その発言内容は、生徒をして教諭の助言に従わないように扇動するものであって、その結果一時的にせよ生徒会に混乱を生ぜしめたのである。したがって、原告の右行為は就業規則第33条の「職務上の義務に背反したとき」に該当するのである。しかも、原告の言動は、多感なる生徒に学校の不統一を強烈に印象づけ、かつ教師に対するぬぐうべからざる不信感を植え付ける異端のものといわなければならない。被告学園が生徒に対し、始業のチャイムが鳴ったときは直ちに教室に入って教師の入室を待つよう指示していることは、当事者間に争いない。そうだとすれば、教師である原告としては右の指示にそうよう生徒を指導すべき職務上の義務があるものといわなければならない。それなのに、原告は、その指導を怠ったばかりでなく、2度にわたって注意を受けながらこれに従おうともしなかったのであるから、その行為は就業規則第33条の「職務上の義務に背反したとき」に該当する。以上のとおり、本件解雇の理由中生徒を政治的集会等に参加させたこと、整理整頓に関する生徒指導を怠ったこと、校外生活に関する生徒指導を怠ったこと、および無断で会食に参加したことについては、これを解雇の正当な理由として認めることはできないが、その余の解雇理由は、いずれも被告学園の教師としての職務上の義務に違反するものと認めることができる。被告学園の職務分掌規定に物品購入に関し被告主張のとおりの定めがあることは、当事者間に争いがない。そうすると原告は右職務分掌規定に違反して工業用濃硫酸を購入したものといわなければならない。生徒心得諸規定に掃除について被告主張のとおりの定めがあり、被告学園では、生徒のうちに掃除当番を置いて清掃にあたらせ、掃除当番は掃除が終了したらその旨を必ず担任に報告し、その点検、指示を受けてから解散することとされていたことは、当事者間に争いない。

そうだとすれば、教師である原告は右のような定めに従って生徒を指導しなければならないし、また他の教師がその点について指導をしているときは、これを妨害してはならない立場にある。それなのに、原告は、他の教師が右のような定めに反した生徒を注意しているのを、逆に阻害するような行為におよんでいるのであって、これは教師として職務に違反する行為である。授業中のある程度の脱線が講義の潤滑油として必要なことを認めるのにやぶさかではないが、長時間しかも本来の課目とは無関係な問題について討論または話をして、貴重な時間を消費するのは本務を著しく怠ったものといわなければならない。そうすると、このことと授業の遅れとの間には、因果関係を認めざるを得ないのであるから、原告の前記認定の行為は、授業を怠ったものとして、教師の職務に違反するものといわなければならない。なお、原告は、勤務を休んだ14日のうちその主張の8日は生理休暇をとったものであるとし、欠勤の事由にゆうじょすべき事由があると主張するようである。そして弁論の全趣旨により成立を認める証拠(略)には、医師の診断として、原告は昭和44年1月17日から昭和45年10月9日まで月経困難症のため通院加療していた旨の記載があり、原告本人の供述中には右主張にそう部分がある。しかし、前掲証拠(略)の記載のみでは原告が月経困難症のために勤務を休んだものと認めるには足りない。原告が生理休暇をとったものであると主張する日は、必ずしも各月の一定した日ころでないばかりでなく、いずれも日曜日か祭日の前後の日であることからすると、月経困難症のために勤務を休んだものであるとの原告本人の供述部分は直ちに信用できない。もっとも、これら一つ一つを個別に取り上げてみれば、これを解雇の理由とするには乏しいものともいえようが、これらを総合してみれば、そこに原告が被告学園の諸規則および教育方針を敵視し、これを無視する態度を顕著にみることができるのであり、また原告の勤務状況も極めて不良である。
これによって、原告の被告学園の教師としての不適格性は遺憾なく暴露されたものであるから、原告は被告から排除されても止むを得ないといわなければならない。
適用法規・条文
99:なし
収録文献(出典)
労働判例159号18頁、労働経済判例速報787号3頁
その他特記事項
控訴審(No.76)参照。