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A航空会社地位保全仮処分申請事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- A航空会社地位保全仮処分申請事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 昭和49年(ヨ)第2282号
- 当事者
- その他 個人1名
その他 A航空会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1974年08月07日
- 判決決定区分
- 申請認容(申請人勝訴)
- 事件の概要
- 申請人は、被申請人A航空会社に日本人スチュワーデスとして昭和42年8月雇用された。被申請人会社では日本人スチュワーデスの定年制について「定年は35歳とする。本人は35歳の誕生日の少なくとも6ヶ月前に要求を出して、1年毎の延長を申し入れることができ、この場合には40歳まで黙示的に更新される。しかし、本社乗務員本部が当人の全般的能力について不十分であると判断したときは会社は更新を拒絶することができる。」旨の定めが就業規則にある。
申請人は、昭和12年6月17日に生まれたものであり、2度にわたり1年毎の定年延長を受け、40歳に至るまで雇用を黙示的に更新される地位にあった。
被申請人会社は昭和49年5月13日、申請人に対し書面を交付し、同年6月17日付けをもってする同年度の更新はこれを拒絶する旨の意思表示をした。
申請人は地位保全仮処分を申請した。 - 主文
- 1 申請人が被申請人に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
2 訴訟費用は被申請人の負担とする。 - 判決要旨
- 被申請人は日本人スチュワーデスの定年制について「定年は35歳とする。本人は35歳の誕生日のすくなくとも6ヶ月前に要求を出して一年毎の延長を申し入れることができ、この場合には、40歳まで黙示的に更新される。しかし、本社乗務員本部が当人の全般的能力について不十分であると判断したときは、被申請人は更新を拒否することができる。」と定めた(就業規則第2部第11章)。申請人は昭和12年6月17日に生まれたものであり、本件雇用関係につき二度にわたり1年毎の定年延長を受け、40歳にいたるまで雇用を黙示的に更新される地位にあったものである。被申請人は、前記認定のとおり、日本人スチュワーデスの定年延長の雇用更新に際して、本社乗務員本部が当該スチュワーデスの全般的能力について不十分であると判断したときは、その更新を拒絶することができるのであるが、このような更新拒絶権を行使するにあたっては、解雇の場合に準じて、苟も恣意に流れ濫用に陥入ってはならないのであって、固より客観的に合理的理由が存することを要するものと解するのが相当である。本件更新拒絶の理由として被申請人の主張する申請人の容姿及び勤務成績上の難点なるものは、その理由としていずれも是認するに足りないものであることが明らかである。被申請人が本社でスチュワーデスを募集する場合においては、その応募条件の一として、スチュワーデスの制服を着こなすすらりとした体型のものであること、そのために身長と体重の相関関係を一定の数値で示す基準を設定(例えば、身長165に対し体重は49から57まで、あるいは体重53から60までに対し身長は170など。)して、この基準を充たすものとしていることを認めることができる。しかし、右本社基準はあくまで本社の募集及び採用にかぎり採用されるものであり、その体位、体型において明確な格差がある日本人スチュワーデスの場合においては適用する余地のないことが弁論の全趣旨により明らかである。しかし被申請人のいわゆる「A航空会社のスチュワーデスのイメージ」なるものがどのようなものであるかについて疎明はない。申請人が身長159に対し体重57を維持するかぎり、申請人は同年令層の日本人女子の痩せ型、肥満型のいずれでもない標準型に属するとみることができる。そして申請人は、その身長及び体重の数値上そうであるばかりでなく、当裁判所が見たところによっても、肥り過ぎも痩せ過ぎもしないいわゆる中肉中背であるということができる。申請人が肥り過ぎだという被申請人の主張は理由がない。問題は申請人の容姿の逐年の衰えが35歳から40歳までの年令階級相応のものを超えてもはやスチュワーデスの勤務に適合しない程度の著しいものに至っているかどうかであるところ、当裁判所において見分するかぎり、申請人の顔立ち、体付きはその年令に相応するものであるとみる。被申請人の右主張も採用しがたい。因に、申請人は、すでに昭和47年及び48年にそのつど1年毎に雇用更新により定年を延長されてきたことは当事者間に争いがなく、当時体重60辺をマークし、とくに昭和48年2月におこなわれた勤務評定では容姿について「シルウェット、歩容、動作が重苦しく、この職業には相容れない。」などとかなり手きびしい評価を受け、そのために一再ならず上司の助言を煩わし、ついに同年5月には薬の服用を奨められ、「容姿の点がますます重大な否定的要素になっている。」状態にあって体重の減量が当面の重要課題であったにもかかわらず、同年6月に当然のことのように雇用更新を経ていることが前記認定により明らかであるから、被申請人が申請人の従前の雇用更新に際して右のような容姿上の難点を理由にその更新を拒絶するようなことは勿論無かったわけである。ところが、昭和49年度の本件雇用更新に際しては、右のような容姿上の難点のその更新拒絶の理由に構え、しかも体重が60から57に減量されているのになお容姿上の難点があるとするのは、いかにも唐突、豹変の機相を呈する仕業であると申請人ら日本人スチュワーデスに請け取られているのも無理からぬところといわなければならない。
以上述べた理由により、本件更新拒絶は、被申請人が申請人に対してその更新拒絶権を濫用したものとして、もとより法律上の効力を生じないものと解すべきである。申請人の搭乗勤務について、乗務検査員が昭和47年8月に30項目につき4段階(優、良、可、不可)評価方式採点をおこなった結果、優11、良16、に対し可は3だけ(微笑、社交性、フランス語の三項目)であり、また昭和48年2月に行われた勤務成績定期評定の総合的概評においては、前記項目別評価にもかかわらず、「職務遂行の点」では問題がなく、ただ申請人の「年功を考えると、もっと良くなっていてもよいはずである。」としながらも、「全般的な結果は満足すべきもの」と評定され、しかも本件更新拒絶の意思表示を通告する書面のなかにおいてすら、被申請人の自認することがらとして、申請人が「ある種の親切な資質を持っている」こと、申請人の勤務成績に関するかぎり、スチュワーデスとしての「職務遂行上不都合があるわけではない」ことが認められる。そうすると、申請人は、その勤務成績についても、本件定年延長の雇用更新上間然するところがないといわなければならない。 - 適用法規・条文
- 99:なし
- 収録文献(出典)
- 判例時報750号26頁、労働経済判例速報858号10頁、労働判例207号34頁
- その他特記事項
- 本件の被申請人A航空会社の別事件として、日本人スチュワーデス33名のパリ移籍に関して、解雇の意思表示の効力停止を求める仮処分・(東京地判S.48.12.22、東京高判S.49.8.28)・本案請求(東京地判S.50.2.28)があり、いずれも労働者側が勝訴している。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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