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N社解雇無効地位保全請求事件

事件の分類
解雇
事件名
N社解雇無効地位保全請求事件
事件番号
横浜地裁川崎支部 − 昭和48年(ワ)第71号
当事者
原告 個人1名
被告 N株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1982年07月19日
判決決定区分
請求棄却(原告敗訴)
事件の概要
原告は、被告N株式会社に昭和21年入社し、43年からは厚生課営繕班として社宅や寮の補修業務に従事していたが、同社は47年秋に業務縮小のため周辺業務を子会社に外注委託化することとし、そのため、原告の従事していた業務がなくなることを理由に、原告に解雇通知した。本件は、これに対し原告がこの解雇は無効であるとして争ったものである。
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
右認定事実によれば、外注子会社は、被告とは人的・物的構成において極めて密接な関係があり、被告のいわゆる関連子会社というべきであるが、独立の法人格を有し、かつ、経済的にみても独立の企業体として独自の経済活動を行っており、これをいわゆる事業部制と同一視できないことは明らかであり、その法主体性が全く形式的であるということはできない。右のように使用者が変更したにもかかわらず労働者の職務内容の変更がないという現象は、例えば、営業譲渡、個人企業の法人成り等の場合にも見られる現象であり、右事情をもって、外注子会社の法的独立性を否定し、「業務縮小」に該当しないと解することは相当でない。本来業務を縮小するかどうかは企業主体たる使用者の経営責任においてなしうるところであるから、経営責任を負わない裁判所の第一次的な判断を企業主体の判断に代置するようなことは避けるべきであり、裁判所としては使用者が企業主体として業務縮小を必要と判断するに至った事情として主張するところについて、果たしてそのような事情(事実)はあったかどうかの他、経済目的からの業務縮小の判断について明らかに考慮すべきでないことを考慮に入れてはいないかどうか、当然考慮に入れるべきことを考慮からおとしてはいないかどうか、判断の過程に不自然なものはないかどうか等判断の仕方に不合理な点がないかどうかについて吟味し、これらの点の判断に不合理な点が認められない場合、企業主体としての使用者の業務縮小の必要性についての判断を相当とする審理の方式をとるべきものと解するのが相当である。

業務縮小のため「減員の必要が生じた」かどうかも、経営責任を負わない裁判所としては、まず企業主体としての使用者が「減員の必要が生じた」と判断した根拠として被告の主張しているところを前示と同様にして事情(事実)の有無および使用者の判断の仕方について不合理な点がないかということに加えて、使用者が、それまでの労働者との雇用関係から見て、労働者の解雇を避ける措置をとるための真摯な努力をしたかどうかの点を合わせて吟味し、使用者の減員の必要についての判断に不合理な点があるかどうか、その判断の相当性について審理すべきものと解するのが相当である。使用者が企業主体として業務縮小を必要と判断するに至った過程において判断の仕方に不合理な点がないかについては、業務縮小の必要が生じたとの被告会社の判断は相当であると是認できる。次に、業務縮小のため「減員の必要が生じた」といえるかどうかについては、被告会社の判断の仕方に不合理な点は認められず、ことに組合も減員の必要が生じたことを認めていることが明らかである点からみても被告会社の判断は相当なものとして是認できる。本件解雇は業務縮小による解雇であるとしたうえで、本件解雇は原告が女性であることを理由とする差別に基づくものであるとする原告の主張のもととなった合理化のための労使協定における「女子作業員の通常業務への転活用については、女子に恒常的に適合する職場を確保することが、交替勤務・有害業務等労働基準法の女子従業員保護のための規定に抵触することの多い鉄鋼業の作業実態と事業所の整員事情等から困難と判断されるので行わないものとする。」旨の規定は、周辺業務に従事する女子作業員の通常業務への転活用が、業務内容に照らし困難であるので、女子作業員の転活用を図らないことを合意確認したものであり、単に「女子であること」を理由としているものではない。被告会社は、周辺業務に従事している女子作業員の通常業務への転活用が可能か否かについて、検討を加え、その結果転活用困難と判断したものであるし、組合も右の点を認識したうえで合意確認したものである。
したがって、被告会社が労使協定に従って原告を解雇したことが、原告が女性であることを理由とする差別取扱いとして憲法14条の趣旨や労働基準法3条、4条の趣旨に反するとはいえず、公序良俗・信義誠実義務違反ないし解雇権の濫用ともいえない。
適用法規・条文
99:なし
収録文献(出典)
労働関係民事裁判例集33巻4号695頁、労働判例391号45頁、労働法律旬報1066号43頁、労働経済判例速報1126号3頁
その他特記事項
東京高裁に控訴後、昭和61年2月7日解雇を撤回し、嘱託として定年まで雇用していたことを確認し、賃金等を支払うとの和解成立。