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T社地位保全仮処分申請控訴事件

事件の分類
配置転換
事件名
T社地位保全仮処分申請控訴事件
事件番号
東京高裁 − 昭和47年(ネ)第2138号
当事者
控訴人 T株式会社
被控訴人 個人1名
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1974年10月28日
判決決定区分
原判決取消(控訴人勝訴)
事件の概要
被控訴人は、昭和39年9月、控訴人に雇用され総合研究所において電話交換手として勤務していたところ、昭和42年11月1日同研究所内の受付係へ、43年4月1日同購買係へと変更された。この間被控訴人は昭和43年3月31日同研究所の研究員と職場結婚し44年3月13日出産したが、1月26日から4月24日まで出産休暇をとっている。被控訴人は更に、44年4月21日付けで本社総務部所轄の独身寮の事務職へ配転命令を受けたが、右配転命令に応じなかったため、同社から同年6月13日付で、就業規則74条1、3、11号各号に該当するものとして懲戒解雇の処分を受け、その後従業員としての扱いを拒否された。本件は、これに対し、被控訴人が解雇の意思表示は無効として、地位保全仮処分を申請した事件で、原審の横浜地裁は、本件解雇は、出産を理由とする不利益処分であり人事権の濫用により無効と判断したが、これを不服として会社側が控訴したものである。
主文
原判決を取り消す。
被控訴人の申請を却下する。
訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
判決要旨
特殊の技能技術、又は一定の資格を有することが雇用の条件となっている場合、あるいはその職場において規定もしくは慣例上それらの者を特別の職種としている場合は別として、単に特殊技能・技術を有するというだけで雇用契約上、職種が特定しているということはできない。被控訴人は、本件配転命令は被控訴人を女性なるが故に差別的取扱したものであり、憲法14条、民法90条に反すると主張するが、

・控訴会社の本社、及び総合研究所においては本件配転当時女子従業員は結婚したら退職するのが通例とされ、出産後も退職しない者は皆無であったために、控訴会社が被控訴人に対し、出産後退職することを期待していたこと、従って、依然として退職しようとしない同人に対して好ましく思っていなかったであろうことは推認するに難くないが、さればといって、それがため同人に退職を余儀なくさせようと考えていたものとまで推認するのは適当でないこと、

・労働基準法、就業規則により義務づけられている措置の実施に伴い当該女子従業員の実質労働能率の低下を予想し、さらに他の従業員と区別して取り扱うことによる職場への影響に対する対応策について考え措置することも企業運営上当然許されること、

から、本件配転命令が被控訴人の主張するが如き差別的取扱いであると考えることはできない。本件配転命令は、以下の理由により、企業運営上の客観的合理性ないし必要性はないということはできない。

・仮に被控訴人にとってその地位評価上、不利益な配転と感じるであろうことは推認できなくはないが認定事実のもとにおいては、配転を合理性のないとなすに足らない。

・本件配転に際し考慮した母性保護上の事由が1年経てば必ず解消するとは考えられない以上、控訴会社がもとの職場に復帰させる時期を予め確定していないから、本件配転は母性保護等の理由によりなされたものではないということはできない。
・本件配転命令は「嫌がらせ配転」「いびり出し配転」であって、違法な動機に基づいてなされたものであるとの被控訴人の主張は理由がない。
適用法規・条文
99:なし
収録文献(出典)
労働関係民事裁判例集25巻4・5号429頁、高木鉱一・労働判例213号30頁、大脇雅子・労働法律旬報875号28頁
その他特記事項
本訴提起後、昭和55年2月28日和解。原審(No.79)参照。