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J医大病院地位確認請求控訴事件

事件の分類
配置転換
事件名
J医大病院地位確認請求控訴事件
事件番号
東京高裁 − 昭和54年(ネ)第1154号
当事者
控訴人 個人1名
被控訴人 学校法人J医大学
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1981年12月17日
判決決定区分
控訴棄却(控訴人敗訴)
事件の概要
控訴人(第1審原告)は昭和47年4月被控訴人(第1審被告)J大学附属病院看護婦に採用され、本院外科病棟勤務を経て同49年4月本院本館手術室に配転されたが、同50年3月から産前休暇をとり、同年5月を出産し、同年6月まで産後休暇をとったうえ、同年12月18日まで育児休職した後、復職したところ、被控訴人が控訴人に本院歯科外来診療室への配転命令を出したので、控訴人は、右配転命令を違法無効なものとして、被控訴人に対し、控訴人が本館手術室に勤務する権利を有することの確認を求め、提訴した。これに対し、被控訴人は、看護婦の就労場所は雇用契約の内容とはなっておらず、右契約の履行過程としての被控訴人の指揮命令によって指定されるべきであり、また、被控訴人の所属病院では、看護婦が産前休暇に入ると、その所属を総婦長室付に配転し、産前休暇、出産及び産後休暇を終了して復職する際に、総婦長が業務上の必要等を考慮して新しい勤務場所を指定する慣行があり、控訴人の場合も、右慣行に従って産前休暇に入ると同時に本院の本館手術室から総婦長室付に配置転換されたから、これにより、本館手術室に勤務する権利を失った、と主張した。第一審は、控訴人・被控訴人間には、控訴人の専属科目や勤務場所についての特約は全くなかったから、控訴人は採用の際に、各科や各勤務場所への配転につき業務上の必要等に基づくものである限りこれに応ずることを黙示に承諾していたものであり、また、被控訴人主張の慣行は客観的に合理性があるから、これに従ってなされた控訴人の総婦長室付の配転の措置も違法、不当ではない、として控訴人の請求を棄却した。これに対し、控訴人が控訴したのが本件である。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
判決要旨
控訴人が同病院の看護婦として採用された際に、原、被控訴人間の契約により、控訴人の看護婦としての専属科目や勤務場所が特定されていたことを認めるべき証拠はなく、却って、控訴人・被控訴人間には、控訴人の専属科目や勤務場所についての特約は全くなかったことが認められる。そうすると、控訴人は、右採用の際に、その後に行われるべき少なくとも本院内での各科や各勤務場所への配置転換については、それが業務上の必要等に基づくものであり、かつ、それを違法または不当とすべき特別の理由のない限り、これに応ずることを少なくとも黙示に承諾していたものと解すべきである。そして、この結論は、仮に控訴人の外科病棟への配属やその後の本館手術室への配転が控訴人の希望にそうものであったとしても、そのことのみによって何ら影響を受けるものではない。総婦長は、右の各病院における看護婦、准看護婦その他の看護職員(以下、「看護婦等」という。)の人事管理、労務管理、健康管理、教育等の業務を総括する権限と職責を有するものであって、被告によって右の各病院に配属された看護婦等の各病院における勤務場所(勤務科目をも含む。以下同じ。)の指定やその後の各病院内での配置転換を行うことも、総婦長の権限に属する。被控訴人大学の附属病院、少なくとも本院においては、従来からの慣行として、看護婦等が産前休暇に入ると、その時点から当然に、その所属を変更してそれまでの勤務場所から総婦長室付に配転し、その結果看護婦等が減員となったそれまでの勤務場所には、その後、業務の必要等に応じて可及的に他の看護婦等を補充配置し(もっとも、人員の都合でその補充配置の不可能な場合もありうる。)、産前休暇に入った看護婦等がその後出産及び産後休暇等を終了して復職する際には、総婦長がその新しい勤務場所を指定するという措置をとっていた。被控訴人大学の附属病院(少なくとも本院)における慣行は、病院の社会的使命や、総婦長の権限、職責等(判断要旨2参照)に照らして、客観的な合理性のある慣行であったというべきであり、これを違法または不当とすべき理由は見出しがたい。従ってまた、その慣行に従い原告に対してなされた、総婦長室付への配転の措置についても、これを違法または不当とすべき理由は考えられない。
適用法規・条文
99:なし
収録文献(出典)
判例時報1039号131頁、
労働経済判例速報1126号16頁
その他特記事項
原審(No.83)、上告審(No.85)参照。