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C銀行配転命令効力停止仮処分申請事件

事件の分類
配置転換
事件名
C銀行配転命令効力停止仮処分申請事件
事件番号
大阪地裁 − 平成2年(ヨ)第2698号
当事者
その他 個人9名
その他 C銀行
業種
金融・保険業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1991年04月12日
判決決定区分
申請却下(申請人敗訴)
事件の概要
アメリカの大手銀行の大阪支店で現地採用された、申請人ら9名(8名女性、1名男性、うち既婚女性4名)は、東京に配転する旨の命令がなされた。
これに対し申請人らは、勤務地は大阪に限定されており、労働契約違反である、東京への家族帯同が困難であり、単身赴任を余儀なくされ、また配転命令には業務上の理由がないので、権利濫用である、配転対象者は労働組合に所属する者で、本件配転は不当労働行為である、等主張して、配転命令の効力停止の仮処分申請を行った。
主文
一 本件各申請をいずれも却下する。
二 申請費用は申請人らの負担とする。
判決要旨
大阪支店に「現地採用」されたとはいっても、その内容は、その採用手続が大阪支店の担当者によりとられたというにすぎず、かかる従業員も、他の形態で採用された従業員と同様、その採用行為及びその後の処遇等についてはすべて中央人事部の承認、管理のもとに行われ、採用形態如何によってその後の担当職務、昇給等の労働条件は異なっていたわけでもない。したがって、大阪支店の担当者が採用手続をとった従業員のみについて、他の従業員と異なり勤務場所を大阪支店に限定する旨の労働契約を締結したというのは不合理であり、仮に申請人Aが当時の担当者から転勤はない旨の説明を受けていたとしても、これをもって被申請人が同申請人につき就業規則の配転条項の適用を特に除外し、勤務場所を大阪支店に限定する趣旨の条件契約を締結したとみることはできない。申請人らと被申請人との労働契約は、いずれもその勤務場所を大阪支店に限定する趣旨の合意が含まれているものではないというべきであり、このほか、申請人らの入行前の経歴、担当職務歴及び東京支店において予定されている申請人らの職種等前記認定の諸事実にかんがみても、本件配転命令が申請人らと被申請人との間の労働契約に違反し無効であるということはできない。被申請人は、就業規則中の配転条項につき、一般的に申請人ら従業員に対し配転命令を行う権限を有するものであるが、もとよりこの権限の行使は無制限に許容されるものではなく、具体的事案において配転の業務上の必要性の程度とその配転によって労働者が被る不利益の程度とを比較衝量し、その他諸般の事情を考慮した上、業務上の必要性に比べて労働者の被る不利益ないし損害が著しく大きい場合には、当該配転命令は権利の濫用として無効になる場合があるというべきである。

この点に関し、被申請人は、組合は本件配転命令に至るまで、被申請人が申請人らに個別的に接触してその事情を聴取することを禁じ、申請人らも東京支店への配転に関する件については一切を組合に任せてあり個別に話合いには応じない旨を被申請人に通告していたから、配転を行うに際し考慮すべき各人の生活状況で、申請人らが本件仮処分で初めて明らかにした事情は、申請人らが自発的に申告しない限り被申請人には知り得ないことであるから、かかる事情を考慮せずに本件配転命令が行われたとしても、その効力が否定されるべきいわれはなく、ひいて申請人らが予めかかる事情の申告を拒否していた本件においては、かかる申告拒否による不利益は各人が負担すべきであって、本件配転命令の効力の判断に当たっては右個別的事情を考慮すべきでない旨を主張する。
たしかに、申請人らがこれら個別的事情を本件配転命令に被申請人に申告することを拒んだという事実自体は、本件配転命令が権利を濫用したものか否かを判断する上で申請人らに不利に働く事情となり得る。しかし、それだけの理由で申請人らが本件仮処分手続で主張、疎明した個別的事情を判断資料から一切排除する根拠がないことも明らかであるから、この点に関する被申請人の主張は失当である。本件配転命令は、申請人らに対しいずれも相当の不利益を及ぼすものであることは否定できないものの、被申請人が本件配転命令をするに至った業務上の必要性も前記のとおり、十分にこれを認めることができ、申請人らが被る右不利益は、いずれも右業務上の必要性を上回るまでには至っていないというべきである。本件配転命令は、前記(配転権の濫用について、判断要旨3参照)の項において詳細に認定、説示したとおり、高度の業務上の必要に基づく措置であって、その人選基準も不合理なところがなく、本件配転命令を受けた者がすべて組合員となったのは、当時の大阪支店の従業員数、これに占める組合員の割合及び配転の規模から結果的にそのようなことになったものというほかない。そのほか、本件配転命令が組合員たる申請人らの正当な組合活動を理由に、申請人らに対する不利益取扱を意図してされたもの、あるいは組合組織の極小化ないし壊滅をねらってされたものであると一応認めるに足りる疎明もない。
適用法規・条文
99:なし
収録文献(出典)
判例タイムズ768号128頁、労働経済判例速報1427号17頁、労働判例588号6頁、名古道功・民商法雑誌108巻3号451頁
その他特記事項
なし。