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静岡セクシュアルハラスメント(ホテル)損害賠償請求事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 静岡セクシュアルハラスメント(ホテル)損害賠償請求事件
- 事件番号
- 静岡地裁沼津支部 − 平成2年
- 当事者
- 被告 個人1名
原告 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1990年12月20日
- 判決決定区分
- 請求一部認容(原告一部勝訴)
- 事件の概要
- 昭和62年11月中旬の夜、被告(原告の上司)は原告を食事に誘い、原告が被告の要求を拒んだにも拘わらず、原告の腰の辺りに手を触れるなどした。そのうえ被告は、キスをさせなければモーテルに行くと原告を脅迫し、ついには原告を屈服させ、執拗にキスを繰り返した。
原告は、上記行為の為非常な打撃を受けて身体の不調をきたし、思い余って他の従業員に相日談したところ噂が広まり、被告の下で働くことに耐えられなくなり、昭和63年1月末で退職するに至った。
原告は、以上のような強制わいせつ行為により性的自由を侵害させたうえ、意に反して退職することを余儀なくされたことにより、性的自由、人格的尊厳及び働き続ける権利を侵害され、回復困難な精神的苦痛を被ったものであるとして、民法709条を根拠として500万円の慰謝料及び99万円の弁護士費用の支払いを求め、静岡地方裁判所に提訴した。 - 主文
- 一 被告は、原告に対し、金110万円及び、内金100万円に対する昭和62年11月30日から、内金10万円に対する平成2年9月20日からそれぞれ支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを6分し、その5を原告の負担とし、その1を被告の負担とする。
四 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 被告は、一方的に原告の腰の辺に手を触れるなどしたうえ、原告には被告の要求に応じる意思が全然ないのに、原告にキスをしたもので、この被告の行為は、その性質、態様、手段、方法などからいって、民法709条の不法行為にあたることが明らかである。
原告は、その意に反して被告にキスをされ、生理的不快感、被告の要求に返答のしようがなく黙っていたのにこれを承諾したものととられたくやしさ及び人格を無視された屈辱感を覚えさせられたこと、原告は、これにより精神的衝撃を受け、当日から食欲不振、不眠、口の中の不快感などの身体的変調をきたし、口の中の不快感は現在まで続いていること、本件以後の毎日生理的嫌悪を感じる被告を上司とする職場で働かなくてはならず、他の従業員にも事件を知られ、中には興味本位な言動をとる者もあり、原告にとって辛い職場環境となってしまったこと、原告は当時の勤務先を退職せざるをえなくなったこと、被告には自己の非を認めて謝罪する態度がまったく見られず、これについても原告は憤りを覚えていること以上の事実が認められるので、原告は被告の前記不法行為により少なからざる精神的損害を蒙ったということができる。原告の受けた精神的苦痛の内容、程度につき当事者間に争いのない事実、とりわけ、被告の加害行為の内容、態様、被告が職場の上司であるとの地位を利用して本件の機会を作ったこと、被告の一連の行動は、女性を単なる快楽、遊びの対象としか考えず、人格を持った人間として見ていないことのあらわれであることがうかがわれ、このことが原告にとってみれば日時が経過しても精神的苦痛、憤りが軽減されない原因となっていること並びにその他の本件にあらわれた諸般の事情を総合すれば、原告の精神的損害に対する慰謝料の額は100万円が相当と認める。弁護士費用については、事案の難易、請求額、認容額、その他の諸事情を斟酌して10万円が相当と判断し、その他の請求は棄却する。 - 適用法規・条文
- 02:民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例580号3頁、判例タイムズ745号28頁、労働法律旬報1265号58頁、労働経済判例速報1419号3頁、松本克美・ジュリスト985号122頁、新谷真人・季刊労働法159号197頁
- その他特記事項
- 本件当事者は双方とも控訴せず、本判決は確定した。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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