判例データベース
大阪葬儀会社事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 大阪葬儀会社事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成7年(ワ)第1949号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 個人1名
被告 A株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1996年04月26日
- 判決決定区分
- 請求一部認容(原告一部勝訴)
- 事件の概要
- 被告会社は葬祭会社であり、被告は、被告会社の会長である。
被告は採用間もない原告に対し(試用期間中)、顧客を訪問中の車中で太股をなでる、性的関係を暗示する等の行為を行った。原告は、知人を仲立ちにして、謝罪を求めたが、被告は謝罪に応じなかった。
そこで、原告は、被告から性的嫌がらせを受け、女性としての人格を傷つけられたとして、被告会社及び被告に対し、損害賠償として金330万円を連帯して支払うよう求めて、提訴した。 - 主文
- 一 被告らは、原告に対し、連帯して金88万円及びこれに対する平成7年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その1を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 職場で行われる相手方の意思に反する性的言動の全てが違法性を有し、不法行為を構成するわけではない。社会的にみて許容される範囲内の行為も自らあろう。違法性の有無を決するためには、行為の具体的態様(時間、場所、内容、程度など)当事者相互の関係、とられた対応等を総合的に吟味する必要がある。行為の態様は一見悪質でも悪ふざけの類として許される事案もあれば、行為の態様は軽微でも、被害者が置かれた状況等によっては、その人格を侵害し、重大な損害をもたらすものとして、厳しく指弾されなければならない事案もある。被告は、被告会社の会長であり、原告は、入社早々でまだ正社員にもなっておらず、会社内部の事情にも疎かったものであって、被告の機嫌を損なうと、雇用関係上、いかなる不利益を受けるか分からず、極めて不安な状況にあったうえ、被告は、原告の車に同乗してきたものであり、その言動を咎めだてする者はなく、原告において、被告の言動をさける術がなかったものであるところ、原告は、夫と離婚し、その手で二人の子供を養っていたものであって、被告会社で働く必要があり、被告の言動に逆らうことが憚れたため(被告は原告の立場を十分認識し、問題の言動に及んだものである)、被告の言動に不快感を覚えつつも耐えざるを得なかったものである。
これらの事実に鑑みると、被告の行為は、行為の態様自体はさして悪質ではないものの、偶発的なものではなく、原告に対し再発の危惧を抱かせるものであり、その人格を踏みにじるものであるから、社会的にみて許容される範囲を越え、不法行為を構成するというべきである。被告は、外形上、原告が職務を遂行中、少なくとも「被告会社の会長として、原告が早く業務に慣れてくれるようにと親切心から、アドバイスのつもりで同乗し」(答弁書)していたものであって、本件における被告の行為は会長の職務とは無縁でなく、しかも、同行為は被告会社の会長としての地位を利用して行われたものであるから、職務との密接な関連性があり、事業の執行につき行われたと認めるべきである。
なお、被告会社は、被告が名目的な会長であったことから、原告に対して有する優越的な地位を利用したものではないと主張するが、被告は被告会社にほとんど毎日出社しており、朝の朝礼にも参加するほか、社員の行儀等の教育も行っていたものであり、本件についても、被告が原告に対し、道順を教えた帰途に行われたものであるから、被告会社の主張は採り得ない。被告の行為は、一回的なもので、反復・継続的なものではなく(ただし、原告が会社を辞めない限り、同様の行為が繰り返される不安はあった)、また、原告の明示的な拒絶を無視してなされたものではなく、態様も必ずしも悪質ではないが、原告と被告はそれまで交際をしていたわけではなく、したがって、本件行為は、原告に対する余程の侮りがなければなし得なかったものであって、原告が受けた精神的苦痛は甚大であり、被告は、立場上その手を払退けることが叶わなかった原告の屈辱を余所に、男慣れしていると思ったなどと嘯き、いまだ謝罪の意思も明らかにしていないものであるから、その他本件記録から窺える一切の事情を考慮すると、原告の精神的損害に対する慰謝料は、80万円と認めるのが相当である。被告の前記不法行為と相当因果関係のある損害と認められる弁護士費用の額は、事実の難易、請求額、認容額、その他諸般の事情を斟酌すると、8万円と認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 02:民法709条,02:民法710条,02:民法715条
- 収録文献(出典)
- 判例時報1589号92頁
- その他特記事項
- なし。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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