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札幌自動車販売会社事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
札幌自動車販売会社事件
事件番号
札幌地裁 − 平成7年(ワ)第2626号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社A
被告 個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1996年05月16日
判決決定区分
請求一部認容(原告一部勝訴)
事件の概要
原告は、昭和49年生まれの女性である。(当時20歳)
被告会社は中古自動車販売業などを営んでおり、被告は、被告会社の代表取締役である。
原告は、平成7年5月1日に被告会社に入社し、同年6月15日に退職した。
その間、原告は、札幌市の被告会社の事務所(以下、「事務所」という。)において、洗車、一般事務、電話番などに従事していた。事務所は、被告と原告及び店長である訴訟外B(以下Bという。)の3名だけが勤務する職場であった。
本件は、原告が、被告株式会社A(平成7年8月31日の組織変更までは有限会社A。以下「被告会社」という。)に勤務していた約1ヶ月半の間に、被告から定時連絡と称して、電話で交際を迫ったり、事務所内で原告に抱きつき胸を触る、被告の自宅の掃除も命じて、隙を見て性的関係を強要する等の行為がなされ、これにより被告会社を退職せざるを得なくなり、精神的損害を被ったとして、被告及び被告会社に対し、不法行為責任に基づく損害賠償請求をした事案である。
主文
一 被告らは、原告に対し、各自金70万円及びこれに対する平成7年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを4分し、その1を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決の第1項は仮に執行することができる。
判決要旨
被告の各行為はいずれも、被告会社の代表取締役である被告が、原告がようやくかねての希望がかなって被告会社に入社できたことを知りながら、原告の勤務時間中あるいはこれに準ずる時間帯に、被告会社の事務所内や被告会社の代表取締役としての被告の管理支配の及ぶ場所において、しかも、被告会社の代表取締役としての被告の管理支配の及ぶ場所において、しかも、被告会社の代表取締役としての職務権限を用いて行われたものというべきである。そして、このことと、被告の一連の行為が原告の被告会社に在職中の約1ヶ月半の間に継続的に行われたもので全体として一個の不法行為と評すべきことを考えると、右不法行為は、被告の代表取締役としての立場と密接不可分で、その職務執行を離れては実現され得ないものであって、結局、右不法行為は、被告が職務を行うにつきなされたものというべきである。

以上によれば、原告の本訴請求は、被告両名に対して各自70万円の支払を求める限度において理由がある。被告が、原告に性交を迫ったほか、性的言動を繰り返し、あるいは抱きついたりベッドに押し倒す等の実力行使に及んだことは、原告に対し、性的羞恥心、嫌悪感を催させ、それ自体精神的苦痛を与えるものであることは言うまでもない。それのみならず、希望がかなって勤務するようになった被告会社を、その代表取締役である被告の理不尽な性的嫌がらせ行為等によって退職せざるを得なくされた原告の精神的苦痛にもまた、十分な慰謝が必要と認められる。
これらの事情や、原告が本件当時20歳の女性であったこと、原告の被告会社における在職期間や職種、被告の行為の内容、態様、その頻度、被告には自己の非を認めて謝罪する等の誠意ある態度が全く見られないことなど、諸般の事情を考慮すると、原告の精神的損害に対する慰謝料の額は、70万円とするのが相当である。
適用法規・条文
02:民法44条1項,02:民法709条
収録文献(出典)
判例タイムズ933号172頁
その他特記事項
なし。