判例データベース
A労働組合事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- A労働組合事件
- 事件番号
- 大津地裁 − 平成5年(ワ)第620号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 A労働組合
被告 個人2名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1996年10月14日
- 判決決定区分
- 請求一部認容(原告一部勝訴)
- 事件の概要
- 原告は昭和46年3月短大卒業後、同47年8月から、D労働組合に書記として勤務していた。
被告A労働組合の前身E労働組合の発足に当たり、平成元年3月末日をもって、原告はD労働組合を退職し、同年4月1日からE労働組合の事務職として採用された。翌年、被告であるA労働組合の結成以後、原告はA労働組合の職員として勤務していた(以下被告組合という)。
原告は、被告組合は雇用における女性差別を行っていること、被告事務局長が、女性職員に対して、お茶くみ等私用を命じたり、副事務局長が職場において日常的に女性を差別する発言を繰り返していたことは環境型セクシュアルハラスメントに当たること、被告副事務局長が原告に暴力行為を働いたこと、嫌がらせにより退職に追い込まれたこと(平成4年6月25日をもって退職)、被告らを相手方として調停申立をしたところ(平成5年1月10日)、機関誌において、原告が誹謗中傷された(同年3月22日付誌上)ことを主張し、被告らに対し、各自500万円及びその遅延損害金、また、被告組合に対し、その機関誌上に謝罪広告の掲載を求めて、提訴した。 - 主文
- 一 被告Cは、原告に対し、30万円及びこれに対する平成5年11月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 被告A労働組合は、原告に対し、20万円及びこれに対する平成5年11月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
三 原告の被告C及び同A労働組合に対するその余の請求、被告Bに対する請求全部を、いずれも棄却する。
四 訴訟費用は、原告と被告C、原告と被告A労働組合との間に生じたものは、それぞれ10分し、その1を各被告の負担とし、その余は原告の負担とし、原告と被告Bとの間に生じたものは全部被告の負担とする。
五 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 被告Bは、平成4年2月28日以降、原告らに対して職務に含まれないお茶汲み等を事実上強要していたのであるが、そのことによって原告が精神的苦痛を受けたと認めることはできず、原告が主張するその余の女性差別的行為については不法行為を構成すると認めることができず、同被告が原告に退職を強要したと認めることもできないから、同被告に対する損害賠償請求は理由がない。被告Cは、原告に対して、臀部を蹴り上げるなどの暴行を加え、加療一週間を要する傷害を負わせたのであるから、これによって原告が被った損害について賠償すべき責任がある。
右暴行に至った動機は、原告が被告Cの頭部にハンドバッグを当てたことにあるが、その後の暴行は一方的に加えられたものであり、証拠によれば、右暴行のあった日以降、同被告は、原告に対し、「ごめん。痛むけ。」と声をかけたにとどまり、ギフト券を渡すについても机の引き出しの中に黙って入れて、直接手渡すことはなく、原告から誓約文を求められて「暴力行為は心から反省し、おわび申し上げます。」と記入したことが認められ、同被告の方から積極的に謝罪の意思を表わしたとは認められないこと、右傷害の部位、程度その他本件に現れた諸般の事情からすれば、右暴行によって原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料として、30万円が相当である。原告が被告Cの不法行為として主張するその余の内容については、同被告による女性差別的発言は、同被告が「古い女は出ていってもらおか。」「(2、3年後まで原告らが)まだいるの。俺達不幸やな。」といった発言が認められるものの、原告に向けて日常的に女性差別的な発言を繰り返していたものではなく、女性一般に対して不快感を与える発言がなされていたとしても、それによって法的保護を必要とするほどの精神的苦痛を原告が受けたとは認められず、退職強要行為があったとは認められないことは前記のとおりであるから、その余の主張は認められないというべきである。原告は、被告A労働組合においては女性差別・蔑視的雇用管理が行われ、原告の人格的尊厳を侵害し、平等な働く権利を侵害されたと主張する。
しかし、原告が被告A組合における不法行為と主張する内容のうち、被告Cに一部女性を侮辱した発言があったことや、就業規則作成に当たって職員の意見聴取がなかったこと、原告らに対して時間外勤務手当が支払われなかったこと、健康診断が実施されない年があったことは認められるものの、それ以外の採用や給与の支払における不当な取扱いや、代休取得の勧奨における差別、退職強要行為は認められない。
また、原告が被告A労働組合を退職したことは、専門部局表をめぐるトラブルがきっかけになったとしても、原告自身の決断によるものと認められることからすれば、原告が、被告A労働組合における勤務の過程で、働く権利を不当に侵害されたと認めることはできない。
また、原告がセクシュアルハラスメントに当たると主張する事実についても、一般的に使用者において、被用者が労務に服する過程において生命及び健康を害しないように配慮すべき注意義務を負うとともに、職場内における性的性質をもった言動が、被用者の職務遂行を妨害する目的や効果をもって行われ、脅迫的あるいは不快な労働環境が創られている場合には、これを解消するよう配慮すべき義務を負担することがあるとしても、前記認定のような、女性職員がお茶汲みや清掃を事実上分担してきたこと、一部役員が女性職員や職場外の女性に対して女性を侮蔑するような発言をすることがあったこと等の事実をもって、原告らの職務の執行を妨害する目的・効果をもっていたとは認められず、被告A労働組合においてその解消を図るべき義務違反があったと認めることはできない。原告の名誉毀損の主張については、本件囲み記事(機関誌紙上「元職員は退職以降、さまざまな手段や方法を用いてA労働組合や事務局を非難し、攻撃し、オドシとも言える行為を繰り返しており」等の記事)は、原告の名誉を公然と毀損するものということができ、右記事の内容や掲載方法(囲み記事ではあるが、機関誌裏面の最下段に掲載されていたこと)、被告A労働組合の機関紙として広く配布されたことを考慮すれば、慰謝料として20万円が相当である。被告A労働組合の被用者である同Cが、原告に対して、暴行を加えたことについて30万円の損害賠償義務が認められる。
しかし、使用者が、被用者による不法行為について、民法715条に基づく損害賠償債務を負担するのは、右不法行為が被告の営む事業及びそれに密接に間連してなされたものであることを要するところ、被告Cによる暴行は、事務局の業務終了後、会長を囲んでの懇親会が開かれ、2軒の店で飲食した後、さらにスナックへ移動する途中に起こったものであり、原告と同被告との会話がきっかけとなって発生したというその経緯や時間帯からすれば、被告Cの暴行は被告A労働組合の事業に密接に間連するものと認めることはできないから、同被告が使用者責任を負うものではない。
また、被告Bは同Cが原告に対して女性差別的行為を行ったとする主張が認められないことは前記のとおりであるから、この点をとらえた使用者責任の主張も認められない。原告の社会的地位や名誉毀損の態様、被告らの負担する損害賠償の内容からすれば、原告が本件囲み記事によって被った損害について、金銭賠償をもって回復されるものと認められ、さらに謝罪広告をを要するとの原告の主張は採用できない。 - 適用法規・条文
- 02:民法709条
- 収録文献(出典)
- 判例時報1623号118頁
- その他特記事項
- なし。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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