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東京チラシ広告会社事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
東京チラシ広告会社事件
事件番号
東京地裁 − 平成7年(ワ)第11838号
当事者
原告 個人1名
被告 A株式会社
被告 個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1997年02月28日
判決決定区分
請求一部認容(原告一部勝訴)
事件の概要
被告(昭和17年生まれ)は、被告会社の代表者であり、原告(昭和18年生まれ)は平成2年5月14日に被告会社に雇用された。被告会社は、ちらし広告会社である。

被告は、原告女性社員と事務室で二人だけになったとき、手や尻に触る、抱きつく等の行為を行った。また、生理の状況を尋ねたり、背後から羽交い締めにし、小便をさせるような格好をさせた。その後、原告が被告に対して事務的にのみ接するようになったところ、ささいなことに怒鳴るなど、仕事上の嫌がらせを行った。

その後、平成6年11月7日、被告は原告を勤務態度不良を理由に解雇した。
これに対し、原告は、被告ら各自に対し(民法44条1項)、不法行為に基づく損害賠償金として金300万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成7年3月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、被告会社に対し、解雇予告手当金27万円及びこれに対する解雇の日の翌日である平成6年11月8日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払い並びに付加金27万円の支払(労働基準法20条1項、114条)をそれぞれ求めた。
主文
一 被告らは、原告に対し、各自金100万円及びこれに対する平成7年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを3分し、その2を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。
四 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。
判決要旨
被告は、平成4年8月ころから平成5年7月ころまでの間に1ヶ月に数回にわたり、被告と原告が被告会社の事務室で二人だけになったとき、殊にビール会社のちらし等の発送作業を行う際に、原告の手や尻に触り、あるいは倒れかかったふりをして抱きつく等の行為を行った。

被告は、原告が入社してから平成6年2月7日ころまでの間、少なくとも数回にわたり、勤務中の原告に対し、生理のことに関して「まだあるのか、おかしいんじゃないか、女房はとっくに終わってるぞ。」「若い子だったら聞けないが、量は多いのか。」等と聞いた。

被告は、平成6年2月7日午後4時ころ、被告会社の事務室の中で原告を追い回し、捕まえて羽交い締めにして、「おしっこしーしー」と言いながら、母親が後ろから幼児を抱えて小便をさせるような格好をさせ、原告が泣いていると再度追いかけ回して同じことを行った。

ところで、被告は右行為を否定する供述をするが、ビールの会社のちらし等発送作業について現実には被告も一緒に行い、作業自体は席を立って行うことも多いのにかかわらず、被告は手伝うことが稀であるとか、あまり動く必要もない等の主張や供述を行っていること、被告がパートAに対して原告の悪口や私生活のことを話しているのにもかかわらず、被告は女性社員とは個人的なことや私的なことは話さない旨の供述をしていること、原告が被告と居酒屋へ行かなくなったのは平成6年2月7日以降であるのに、被告は平成6年4月ないし5月以降であると供述している等、被告の供述には全体として信用できない部分が多いことに加え、パートAも被告から肩を押さえられたり、頭を抱きかかえられたりすることがあったと認められること、平成6年2月7日の出来事については、原告の供述が認められること、平成6年2月7日の出来事については、原告の供述が極めて具体的であり、それ以降原告が被告に事務的な態度で臨んでいるとの原告の供述には合理性があるのに対し、被告は原告の態度が変わった時期について虚偽の供述をしているうえ、その理由について合理的な説明をしていないこと等に照らすと、被告の右各行為を否定する供述は採用できない。

そして、被告の右各行為は、原告の人格権を違法に侵害するもので不法行為を構成するものと認められ、これらによる慰謝料損害については、前記認定の右各不法行為が行われた状況、態様、頻度、原告と被告の普段の状況、その他一切の事情を斟酌すると50万円をもって相当と認められる。被告が原告に対して平成6年11月7日に解雇の通告を行ったことは当事者間に争いがないので、右解雇が違法なものであるか否かを判断する。証拠によれば、原告は入社時から解雇時まで、一週間に何回かは、始業時間が9時であるのにもかかわらず、9時を過ぎて出勤していたこと、平成6年9月に7日間の入院をしたのに診断書を提出しなかったこと、原告が被告と話をする際に何度か専務や部長のことを「ちゃん」付けで呼んだことが認められられる。しかしながら、被告会社は出勤時間と退勤時間をタイムカード等によって管理しているわけではなく、原告は出勤時間が遅れた場合には退勤時間を遅らせて勤務していたこと、被告会社は遅刻については数回口頭で注意をしたに過ぎないこと、原告は平成6年9月に足の手術を受けて7日間の入院をしたが、右入院について被告に報告して了解をとっていること、退院後も松葉杖を使用して出勤しなければならなかったために少なくとも退院後に出勤時間を遅らせることについて、一旦は被告が了解したことが認められ、これらを考慮すると、右解雇は普通解雇を前提としても解雇権の濫用にあたる違法なものであると認められる。

そして、原告は、被告の違法な解雇により、結果的に被告会社で勤務を続けることができなくなったのであるから、被告の右行為は不法行為を構成するものと認められ、慰謝料損害については、前記認定の解雇の理由と原告の従前の勤務態度、原告は違法な解雇であっても結果的にこれを受け入れて被告会社で勤務を続けることができなくなったこと、原告の一ヶ月分の賃金が27万円であったこと、その他一切の事情を斟酌すると50万円をもって相当と認められる。原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は100万円の範囲で理由がある。認定した判断要旨1に記述の不法行為は、勤務時間中に被告会社の事務室内で行われたものであるし、原告がこれを拒絶できなかったのは、被告が被告会社の代表者としての地位を利用して行った行為であったためと認められる。したがって、右各不法行為は、被告の代表者としての職務執行と密接な関連性が認められ、被告会社は、これについて民法44条1項により、被告と連帯して責任を負うべきものであると認められる。

(判断要旨2に記述の)不法行為は、従業員たる原告を解雇したもので、被告が被告会社の代表者としての職務執行として行ったものであるから、被告会社は、これについて民法44条1項により、被告と連帯して責任を負うべきものであると認められる。

したがって、原告の被告会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求は100万円の範囲で理由がある。
被告が原告に送付した書簡及び給与明細書には退職金を送金する旨の記載が存するものの、被告は右書簡等を送付した段階で、会計事務所と相談して労働基準法上の必要性等を考慮し、解雇に際して1ヶ月分の賃金相当額の支払のみをしようと考えていたのであり、右支払とは別に金員の支払を考えていたわけではないと認められるところ、被告会社には退職金規程も退職金支払の慣行も存しないのであるから、右送金はその名目にかかわらず解雇予定手当の支払としての効力を有するというべきである。
適用法規・条文
02:民法44条1項,02:民法709条
収録文献(出典)
なし。
その他特記事項
なし。