判例データベース
旭川建設会社事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 旭川建設会社事件
- 事件番号
- 旭川地裁 − 平成4年(ワ)第296号、旭川地裁 − 平成5年(ワ)第281号
- 当事者
- 原告 個人1名(原告、反訴被告)
被告 株式会社A(被告、反訴原告)
被告 個人1名(被告、反訴原告) - 業種
- 建設業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1997年03月18日
- 判決決定区分
- 本訴請求一部認容(本訴原告一部勝訴)、反訴請求棄却(反訴原告敗訴)
- 事件の概要
- 被告会社(反訴原告)は、昭和50年7月28日に設立された土木建築工事の設計施工、不動産の売買、賃貸等を目的とする株式会社であり、札幌市、旭川市等を主な営業地域とし、その従業員数は約35名である。
被告(反訴原告)は、農業に従事するかたわら、被告会社設立時から現在に至るまで同社の代表取締役であると共に、昭和58年5月以降、市議会議員の職にあり、妻と3人の子供がいる。
原告(反訴被告、以下「原告」という。)は、夫と2人の子供からなる家庭を有しており、昭和63年2月、被告会社に雇用され、同社において一般事務及び一般事務及び営業に従事した。
原告は、平成4年10月15日、被告及び被告会社(以下両者を「被告ら」という。)各自に対し、被告の性的嫌がらせを理由として、慰謝料200万円(その後、請求が拡張され、300万円となった。)の支払を求める本訴請求事件(以下「本訴事件」という。)を提起した。
その中で、原告は、被告は原告に対し、性的要求を行ったり、自宅に誘って抱きついてきたり、営業途中で原告の身体に触ったりする等の行為を行い、さらに被告は平成4年9月17日午前8時前ころ、原告方を訪れ、翌日から原告は被告会社に出社しておらず、原告は被告会社を退職するに至ったと主張した。
これに対し、被告は原告の主張は、虚偽の事実であり、原告の提訴によって、被告及び家族は精神的打撃を受けるとともに被告及び被告会社の社会的信用が失墜したと主張して反訴を提起した。 - 主文
- 一 被告(反訴原告)らは、原告(反訴被告)に対し、連帯して金200万円及びこれに対する平成4年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告(反訴被告)の被告(反訴原告)らに対するその余の請求を棄却する。
三 被告(反訴原告)らの請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、被告(反訴原告)らの負担とする。
五 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 被告によるすべての行為が原告の意思に反するものであったと認められる。
原告に対する身体的接触を内容とする、各行為については、いずれもその態様自体に性的意味合いが認められるものであり、相手方の意思に反してこれを行うことが許容されるものではないことは明らかというべきところ、被告は、これらの行為が原告の意思に反するものであることを認識しつつこれを行い、継続したことが認められる。
また、被告は、被告会社の代表取締役として、従業員の就労環境を維持改善すべき立場にあるというべきところ、女性従業員が右のような行為を受けた場合、精神的に就労を継続すること自体が困難となる場合のあり得ることを十分予見しえたといわなけらばならない。
そして、原告供述類によれば、原告は、被告の右行為によって、羞恥、不安、嫌悪などの精神的苦痛を経験すると共に、被告会社での就労を継続して被告の右行為を甘受するか、被告会社を辞めるかのいずれかを選択せざるを得なくなり、最終的に後者を選択したことが認められる。
そうすると、被告の右各行為は、原告の、性的領域における人格の尊厳を故意に侵害する不法行為にあたると同時に、原告の雇用関係継続に対する権利をも不当に侵害する行為というべきである。
これに対し、(一)、(五)及び(七)の各行為は、原告に対する直接の身体的接触を伴わないものである。
しかし、(一)の行為は、暗に性的関係を要求する趣旨を解しうるものであり、(五)の行為は、その場の状況及びそれ以前の被告不法行為に照らし、原告に対し、自己の性的自由、身体的自由が侵害される危険を感じさせるに十分なものと解されるから、不法行為の成立を認めることができる。
また、(七)の行為は、夜、車で待ち伏せをした上、会いたかった旨を告げたというものであるが、原告がその翌日、このことをとくに常務に訴えたことが認められることからも、原告にとって重要な意味を持つものであり、原告の立場においては、右のような行為は被告と特別な関係又は親密な関係にあることを同人から強要されることにほかならず、それ以前の被告の不法行為等があった経緯に照らすと、やはり、原告の性的自由の侵害にあたるというべきであるから、不法行為の成立が認められる。各行為は、被告会社の代表取締役である被告が、その職務を行うにつきなした不法行為というべきであるから、被告会社は、商法261条3項、78条2項、民法44条1項により、右の各不法行為によって原告に生じた損害を賠償すべき義務を負う。
(九)の行為は、原告の自宅で行われたものであり、厳密には、原告が被告会社の業務に従事する過程でなされたものではない。
しかし、原告供述類によれば、原告は、(一)ないし(八)までの各行為によって精神的苦痛を経験し、最終的に、(九)の行為によって被告会社を辞める決意をしたとされるのであるから、原告において、右各行為について性質上の差異の認識のないことは明らかである。
また、原告と被告との関係は、被告会社の従業員と代表取締役であるという以外にはなく、突然原告の自宅を訪れた被告を、原告が室内に招き入れざるを得なかったのは、右の関係が前提となっていることは明らかであるから、(九)の行為のみを、(一)ないし(八)の各行為と別異に解すべき理由はない。
したがって、被告会社は、その代表者である被告の前記不法行為によって原告に生じたすべての損害について、責任を負うというべきである。原告主張(一)ないし(九)の各事実が、性的尊厳という重要な人格的権利に対する侵害であること、これらが自動車や別荘という事実上の密室内で、原告と被告とが二人だけになった状況で行われたこと、原告が、これを止めるようにとの意思を明らかにしたにもかかわらず、被告はこれを繰り返したこと、会社の代表取締役と従業員という立場が利用され、会社の業務に従事する過程で、あるいはこれに籍口してなされたため、原告としては同行等を拒みえず、被告の行為を甘受するか、被告会社を退職するかを選択せざるを得なかったこと、原告は、被告会社で特に問題なく仕事をしており、仕事を続けることを希望していたにもかかわらず、不本意な形で退職せざるを得なかったこと、本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告が、前記各不法行為によって受けた精神的苦痛を金銭に換算するならば、200万円が相当であると認められる。原告は、慰謝料の算定に、被告らの応訴態度を含めた、前記各不法行為後の事情をも考慮すべきであると主張する。
被告らが、原告の現在の雇用主や義姉を通じ、本訴事件を取り下げるよう求めたこと、証人に証言しないよう求めたこと、原告供述類の信用性にかかわる事情について、事実に反する主張立証をした部分があることなどはこれまでに認定したとおりであるが、本訴事件が、原告の性的人格権侵害に基づく損害賠償請求訴訟であることからすると、右のような事情まで、慰謝料算定の要素として考慮することは相当ではない。この点についての原告の主張は採用できない。 - 適用法規・条文
- 02:民法709条,02:民法44条1項,06:商法261条3項,06:商法78条2項
- 収録文献(出典)
- 労働判例717号52頁
- その他特記事項
- なし。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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