判例データベース
京都呉服販売会社事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 京都呉服販売会社事件
- 事件番号
- 京都地裁 - 平成8年(ワ) 第992号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 個人2名
被告 株式会社 - 業種
- 卸売・小売業・飲食店
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1997年04月17日
- 判決決定区分
- 請求一部認容(原告一部勝訴)
- 事件の概要
- 被告会社は、呉服の販売等を業をする株式会社であり、平成7年12月4日現在社員数は、正社員26名、準社員7名であった。
原告は、平成3年2月21日から平成7年12月5日に退職するまで正社員として被告会社で勤務した。
被告Cは被告会社の代表取締役で、被告Bは被告会社の取締役(専務)である。
男性社員が女性更衣室の様子を密かにビデオ撮影しており、被告会社は平成7年6月ころこれに気付いたが、当初十分な措置を取らなかったため再び同様の撮影が続けられた。最終的に会社はビデオカメラを撤去し、この男性社員を懲戒解雇処分とした。
この件以来、原告は会社の雰囲気が悪くなったと感じていたところから、朝礼において会社を好きになれないと発言をした。この発言に対し、翌日の朝礼において、被告会社代表取締役Cは、辞めてもらってよい旨の発言をし、また、被告会社取締役(専務)Bは、原告と男性社員が男女関係にあるかのような発言(以下、「本件B発言」という)及び原告は被告会社で勤務を続けるか否か1日考えてきてよい、又、本日はすぐ帰ってよい旨の発言を行った(同年11月1日)ことから、原告は職場にいづらくなり、会社も何の措置もとらなかったため、原告は退職した。
これに対し、原告は、(1)被告B及び被告Cに対し、不法行為(民法709条、719条)に基づく損害の賠償として被告らに各自金557万3879円及び遅延損害金(過失利益・慰謝料・弁護士費用として)、(2)被告A会社に対し、(イ)債務不履行ないし不法行為(民法44条1項、709条、715条、717条)に基づく損害の賠償を、(ロ)不当利得に基づき預託金20万円の返還を、(ハ)雇用契約に基づき残退職金44万5000円の支払いを、それぞれ求めて提訴した。 - 主文
- 一 被告Bは、原告に対し、金139万5945円及びこれに対する平成7年12月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 被告A株式会社は、原告に対し、金214万5945円及び内金194万5945円に対する平成7年12月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
三 原告の被告B及び被告A株式会社に対するその余の各請求並びに被告Cに対する請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、原告に生じた分の3分の1及び被告Bに生じた分は、これを5分し、その4を原告の、その余を被告Bの負担とし、原告に生じた分の3分の1及び被告A株式会社に生じた分は、これを3分し、その2を原告の、その余を被告A株式会社の負担とし、原告に生じた分の3分の1及び被告Cに生じた分は原告の負担とする。
五 この判決の第1項及び第2項は、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 被告Bは、本件B発言をして原告の名誉を毀損しているから、被告Bは、これによって生じた原告の損害を賠償する責任を負う。被告Bは被告会社の取締役であって、代表取締役である被告Cの親族でもあり、その発言は社員に大きな影響を与えるから、被告Bは、不用意な発言を差し控える義務があるというべきである。また、不用意な発言をした場合には、その発言を撤回し、謝罪するなどの措置を取る義務があるというべきである。それにもかかわらず、被告Bは、朝礼において、本件B発言に引き続いて原告は被告会社で勤務を続けるか否か考えてくること、今日は今すぐ帰っても良い旨発言して、原告に対して退職を示唆するような発言をしたうえ、そのため社員が原告との関わり合いを避けるような態度を取るようになり、人間関係がぎくしゃくするようになったことから、原告にとって被告会社に居づらい環境になっていたのに、何の措置も取らなかったため、原告は退職しているから、被告Bは、原告の退職による損害を賠償する責任を負う。被告Cがビデオ撮影に関わったことや原告と契約関係があることを認めるに足りる証拠はないから、被告Cが個人としてビデオ撮影を防止するまでの義務を負うということはできない。また、Dによるビデオ撮影は「事業の執行に付き」なされたものとはいえないから、被告Cは、Dの行為について責任を負わない。被告Cが原告を退職させる意思を持っていたことを認めるに足りる証拠はなく、また、被告Cが原告と契約関係があることを認めるに足りる証拠はないから、被告Cが個人として職場の環境を整えるまでの義務を負うということはできない。被告会社は、雇用契約に付随して、原告のプライバシーが侵害されることがないように職場の環境を整える義務があるというべきである。そして、被告会社は、被告会社の女子更衣室でビデオ撮影されていることに気付いたのであるから、被告会社は、何人がビデオ撮影したかなどの真相を解明する努力をして、再び同じようなことがないようにする義務があったというべきである。それにもかかわらず、被告会社は、ビデオカメラの向きを逆さにしただけで、ビデオカメラが撤去されると、その後何の措置も取らなかったため、再び女性更衣室でビデオ撮影される事態になったのであるから、被告会社は、債務不履行により、平成7年6月ころに気付いた以降のビデオ撮影によって生じた原告の損害を賠償する責任を負う。
なお、平成7年6月ころ以前に女性更衣室の壁に穴が開いていたことを認めるに足りる証拠はないから、被告会社は、同月ころに気付く以前のビデオ撮影については、責任を負わない(穴のあいたダンボール箱が置いてあるだけでは民法717条の責任を負わない。)。被告会社の取締役である被告Bが、朝礼において、本件B発言をしているから、被告会社は、民法715条により、本件B発言によって生じた原告の損害を賠償する責任を負う。被告会社は、雇用契約に付随して、原告がその意に反して退職することがないように職場の環境を整える義務があるというべきである。そして、本件B発言によって、社員が原告との関わり合いを避けるような態度を取るようになり、人間関係がぎくしゃくするようになったので、原告が被告会社に居づらい環境になっていたのであるから、被告会社は、原告が退職以外に選択の余地のない状況に追い込まれることがないように本件B発言に対する謝罪や原告は被告会社で勤務を続けるか否か考えてくること、今日は今すぐ帰っても良い旨の原告に対して退職を示唆するような発言を撤回させるなどの措置をとるべき義務があったというべきである。それにもかかわらず、被告会社が何の措置も取らなかったため、原告は被告会社に居づらくなって退職しているから、被告会社は、原告の退職による損害を賠償する責任を負う。相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、金15万円(被告Bに対する関係では金10万円)と認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 02:民法715条
- 収録文献(出典)
- 労働判例716号49頁、労働経済判例速報1640号3頁
- その他特記事項
- なし。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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