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兵庫国立病院事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
兵庫国立病院事件
事件番号
神戸地裁 − 平成7年(ワ)第107号
当事者
原告個人1名

被告個人1名

被告国
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1997年07月29日
判決決定区分
請求一部認容(原告一部勝訴)
事件の概要
原告は国立病院(重度身体障害者を対象に療養看護を行う病院)に賃金職員として採用され、当該病院の洗濯場に勤務する女性であり、被告は洗濯場の洗濯長として勤務する原告の直属の上司である。

被告上司は原告に対し、胸を触らせるよう要求したり、無理矢理胸を触るなどの行為をした。原告がこれを拒否したところ、原告を意図的に無視し、口をきかず、仕事の指示を与えない、仕事を与えないなどの行為を行った。

また、原告は訴外病院の事務長補佐に対し、被告上司の嫌がらせ行為を改善するよう要求し、病院も事実確認等一定の措置を講じたが嫌がらせ行為は続けられた。
そこで、原告は、被告上司に対して不法行為に基づく責任、国に対して使用者責任又は債務不履行に基づく責任があると主張して、損害賠償請求(慰謝料300万円、弁護士費用40万円)をした。
主文
一被告らは、原告に対し、各自金120万円及びこれに対する平成7年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

二原告のその余の請求を棄却する。

三訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の、その余を被告らの各負担とする。
四この判決は第1項に限り、仮執行することができる。
判決要旨
被告は、原告の意思を無視して性的嫌がらせ行為を繰り返し、原告が性的嫌がらせ行為に対して明確な拒否行動をとったところ、職場の統括者である地位を利用して原告の職場環境を悪化させたものである。被告の右一連の行為は、異性の部下を性的行為の対象として扱い、職場での上下関係を利用して自分の意にそわせようとする点で原告の人格権(性的決定の自由)を著しく侵害する行為である。

そして被告の右各行為は、原告にとって精神的苦痛を与えたものであり、被告としては、右各行為により、原告に精神的苦痛を与えるものであることを予見できたといえる。
したがって、被告は、原告に対し、右性的嫌がらせ行為及び職場でのいじめ行為について、不法行為責任を負うものというべきである。被告の原告に対する性的嫌がらせ行為及び職場におけるいじめは、勤務場所において、勤務時間内に、職場の上司であるという立場から、その職務行為を契機としてされたものであるから、右一連の行為は、外形上、被告国の事業の執行につき行われたものと認められる。被告国は、従前から洗濯場において早出の場合には、男性職員と女性職員をペアにする必要があったが、女性職員から性的嫌がらせに関係した被害事実の申告等はなく、訴外病院としてこのような事態の発生を予見することは不可能であった旨主張する。確かに、性的嫌がらせ行為については、その行為の性質上密室的な場所で行われることが多く、被害者も羞恥心等から被害の申告をためらうことが少なくないなどの事情があるといえ、管理者にとってはその発生の把握及び適切な対処について困難があることは否定できない。しかしながら、訴外病院の洗濯場においては他の職場に比して男性定員内職員である洗たく長の地位の優越性が認められること、早出における乾燥室での作業等男女職員が接近し共同して作業する状況があり、職員が性的嫌がらせ行為をする機会が少なくないと考えられること、被告は従前から勤務時間中に職場の女性の体型について不適切な言動に出ることがあり、それが職場の女性間では相当程度認識されていたことなどの事情に照らすと、訴外病院として、被告の性的嫌がらせ行為を予見することが不可能であったとまではいえない。訴外病院は、平成6年3月2日に原告から被害申告を受けた後、4月11日には、被告に対し口頭で厳重注意を行い、同月13日には、事務長補佐において、同被告と面接し、反省を促し、更に6月7日には、事務長から勤務割表の公平化等の基本的提案があり、以後毎月業務連絡会を設けることとしたなど、被告の職務上の言動に対する職員の不満に基づく問題点を改善するため、一定の措置を講じてきている。しかしながら、被告が原告に対する性的嫌がらせ行為の存在を強く否定し、かつ、職員へのいじめの点についても弁明するなどしており、原告の訴えのみに基づいて懲戒処分等の強力な措置をとることが困難であったという事情は認められるとはいえ、原告ないし原告の夫が再三にわたり、性的嫌がらせ及びこれに引き続く原告個人に対するいじめの存在を訴えこれに対する処置を求めていたのに対し、性的嫌がらせについては事実の確定が困難であるとして特別の措置をとらず、いじめの問題についても原告個人に向けられた不利益として直接対処せず、むしろ、洗濯場の業務全体の改善の問題として捉えた結果、被告の原告に対する態度には顕著な変化が見られず、原告をとりまく職場環境は平成6年11月までの間特段の改善がなかったといわざるを得ない。そうすると、訴外病院が行った対応策によって、被告の原告に対するいじめ行為について、被告国が被告の選任・監督について相当の注意をしたとまでは認められない。本件事案の難易、認容額、審理の経過に照らすと、前記不法行為と相当因果関係のあるものとして被告らに賠償を求め得る弁護士費用の額は、20万円と認めるのが相当である。
適用法規・条文
02:民法709条,02:民法715条
収録文献(出典)
判例タイムズ967号179頁、労働判例726号100頁、判例時報1637号85頁
その他特記事項
なし。