判例データベース

D県協同組合病院事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
D県協同組合病院事件
事件番号
津地裁 − 平成6年(ワ)第117号
当事者
原告 個人2名
被告 個人1名
被告 D県厚生農業共同組合連合会
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1997年11月05日
判決決定区分
請求一部認容(原告一部勝訴)
事件の概要
原告Aは、看護婦として平成4年4月から、原告Bは、准看護婦として平成5年8月から、被告であるD県厚生農業組合連合会(以下「被告連合会」という。)の経営するC厚生病院(以下「本件病院」という。)に勤務している。被告看護士は、昭和49年から被告連合会に雇用されて本件病院に勤務しており、本件当時は准看護士副主任であった。

本件病院は主に精神科を診療科目とし、原告らと被告看護士の勤務していたのは、症状の最も重い男子閉鎖病棟であった。

1病棟における深夜勤は、原則として男女1人ずつの2人1組で行われていた。

被告看護士は、平成4年5月ころから職場においてすれちがいざまに原告らの身体に触ったり、卑猥な言葉をかけたりし、また、深夜勤務の度に、拒否の意思表示をしているにもかかわらず、休憩室において休んでいる原告らの胸や大腿部等に触ったりした。
そこで、原告らは、被告看護士に対しセクシュアルハラスメントによる不法行為、その使用者である被告連合会に対しては、被告の行為が勤務遂行中の行為で業務に密接に間連して行われたものであり、また、適切な処置を怠り、被用者にとって働きやすい職場環境を保つように配慮する義務(使用者が社会通念上負う職場環境義務)を怠ったことによる使用者責任及び労働契約上の債務不履行責任により、被告ら各自に対し、原告各自に金330万円(うち30万円は弁護士費用として)及び遅延損害金の支払いを求めて、提訴した。
主文
一 被告らは各自、原告らに対し、各金55万円及びこれに対する平成6年5月31日から支払ずみまで年5分の割合による各金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを6分し、その5を原告らの負担として、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。
判決要旨
被告の前記行為は、原告らに対し、いわゆる環境型セクシュアルハラスメントに当たり、不法行為に該当すると認められる。被告は被告連合会の被用者であること、被告の本件行為が業務中に行われたことは争いがない。

原告らは、被告の不法行為は業務に密接に関連して行われたものであると主張する。しかし、本件の深夜勤務中の行為は、業務中、休憩室において行われたものとはいえ、原告らを起こしたり呼び掛けるための行為とは認められず、被告の個人的な行為であるから、業務を契機としてなされたものではなく業務との密接な関連性は認められない。また、被告の日常勤務中のひわいな言動は、やはり被告の個人的な行為と認められる上、右深夜勤務中の行為と相まって不法行為となるものであると考えられるので、右言動のみについて被告連合会の使用者責任を認めることもできない。

したがって、被用者である被告の不法行為に基づいて、被告連合会の使用者責任を認めることはできない。使用者は被用者に対し、労働契約上の付随義務として信義則上職場環境配慮義務、すなわち被用者にとって働きやすい職場環境を保つように配慮すべき義務を負っており、被告連合会も原告ら被用者に対し、同様の義務を負うものと解される。被告には従前から日常勤務中特にひわいな言動が認められたところ、被告連合会は被告に対し何も注意をしなかったこと、主任は平成5年12月の時点で原告Aから被告との深夜勤をやりたくないと聞きながら、その理由を尋ねず、何ら対応策をとらなかったこと、平成6年1月28日主任は原告Aから被告の休憩室での前記行為を聞いたにもかかわらず、直ちに婦長らに伝えようとせず、被告に注意することもしなかったこと、その結果同年2月1日深夜被告の原告Bに対する休憩室での前記行為が行われていたことが認められる。

その上、1病棟の患者の性質上、深夜勤において男女1人ずつの組合わせが必要なことは、被告連合会自身主張しているところである。さらに前記のとおり、深夜勤の勤務者は、巡視等の待機中、看護婦詰所内の狭い本件休憩室にいることが多く、しかも同室内で横になって休んだり仮眠する者が多いのが実情であった。

そうすると、被告連合会は、平成6年2月1日以降被告の行為について対応策をとったものの、それ以前には監視義務者らは何らの対応策をとらずに被告の行為をみのがして、同日早朝の被告の原告Bに対する行為を招いたと認められる。

なお、被告連合会は、婦長・主任・副主任らの責任態勢を確立し、毎月定期の院内勉強会、職員の研修会等を行うなど、職員に対する指揮監督を尽くした旨主張するが、右の次第で職場環境配慮義務を尽くしたとは認められない。
したがって、被告連合会は原告らに対する職場環境配慮義務を怠ったものと認められ、その結果被告の休憩室での前記行為を招いたといえるから、原告らに対し債務不履行責任を負う。原告らは、被告の不法行為及び被告連合会の債務不履行により、著しい精神的苦痛を被った。被告の右行為の態様・性質・回数等の諸事情を考慮すると、これに対する慰謝料としては、各50万円を相当とする。原告らは原告ら代理人に対し本訴提起を委任した。右不法行為等と相当因果関係のある弁護士費用としては、各5万円をもって相当と認める。
適用法規・条文
02:民法709条,02:民法415条
収録文献(出典)
労働判例729号54頁
その他特記事項
なし。