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A社賃金請求事件

事件の分類
その他
事件名
A社賃金請求事件
事件番号
名古屋地裁 − 昭和43年(ワ)第2848号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社A
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1971年02月24日
判決決定区分
請求認容(原告勝訴)
事件の概要
原告は、被告である株式会社Aの従業員であり、A社労働組合員である。

原告は、1生理周期ごとに1日、生理休暇をとったところ、被告会社では有給生理休暇は1賃金計算期間につき1日であり、被控訴人の生理休暇取得はこれを越えるものである、として、3日分の賃金をカットした。

被告会社の就業規則には、女子が生理日の就業を著しく困難とするとき、1日の有給休暇を与える、とあり、A労働組合との新しい労働協約にも同じ趣旨の規程があった。
そこで、原告は、就業規則及び労働協約中の、生理日の1日の有給休暇は1生理期間につき附与されるものだと主張して、被告会社に対しカットした賃金分の金5,900円及び遅延損害金の支払を求めて、訴えを提起した。
主文
一 被告は原告に対し金5,900円及び内金1,785円に対する昭和43年6月26日から、内金1,931円に対する昭和44年8月26日から、内金2,184円に対する昭和45年9月26日から、いずれもその支払のすむまで年5分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。
判決要旨
就業規則は、通常労働契約の内容となって労働者の労働条件を統一的かつ画一的に規律する作用を営むものである。就業規則の右のような機能にかんがみると、その条項の解釈は、何よりも先ず表示された条項の文言に従ってその意味内容を合理的に把握し、かつ労使特にその条項の利用が予定されている労働者一般の合理的意思に適合するように解釈すべきである。

しかし、もし労使間に右条項の解釈について、明示若しくは黙示の合意(被告主張の統一的解釈)が定立されていると認められる事情が存するときは、労使の具体的意思の合致あるものとして、これを尊重して解釈をなすべきである。有給生理休暇の規定は、原告の主張のとおり慶弔、罹災、隔離、産前産後の各休暇と並列して同一条文に特別休暇の一種として規定されていることが認められる。右慶弔、罹災等の各休暇は、その性質上、一賃金計算期間を計算単位とすることになじまないことは明らかであり、有給生理休暇がこれらの休暇と並列して同一条文に規定されていることから考えると、就業規則の文言上は1生理周期を単位として1生理期ごとに1日を与える趣旨に解するのが相当である。労働協約57条には、産前産後の休暇と並列して就業規則所定の文言と全く同一の文言で有給生理休暇が規定され、第58条には慶弔、罹災、隔離の各休暇が規定されていることが認められる。

従って、右協約第57条も、その文言上からすれば、1生理周期を単位として1生理期ごとに1日を与える趣旨に解するのが相当である。女子の生理周期は、必ずしも1賃金計算単位である1ヶ月に符合していないことは明白である。

従って、右のような婦人労働者の生理の実態に即して考えると、前記就業規則条項は、一生理周期を単位として1生理期ごとに1日の趣旨を規定したものと解すべきである。

これを要するに、右就業規則条項の計算単位は、1生理周期であると解するのが、文理解釈上も、婦人労働者の生理の特質上も妥当であり、ひいて労使特に婦人労働者一般の合理的意思に適合するものというべきである。被告と原告の所属する旧組合ないしその前身労組との間に、就業規則ないし労働協約の前記各条項にいう有給生理休暇1日とは1賃金計算期間を単位とする旨の労使の統一的解釈が明示的に存在したと認めることは困難である。被告勤務の女子労働者が1賃金期間中2回生理期を迎えても1日をこえる生理休暇請求をするのを差し控えていたこと、また当時無給の生理休暇さえ取りにくかったことが認定できるので、生理休暇を1賃金期間中に2回、請求した事例が最近において殆んど存しないということから、直に労使慣行の成立を即断するわけにはいけない。

してみると、被告主張のような1賃金期間中の生理休暇1回という労使慣行が、労使間に定立していたと認めるわけにはいかないから、就業規則の前記条項に関する労使間の統一的解釈が黙示的に定立していたとも、認めるに由ないことになる。被告と新組合との間の労働協約には、原告主張の労働協約第57条と同様の条項が存し(右事実については当事者間に争いがない。)、昭和45年11月9日右条項は「有給生理休暇、生理日の就業が著しく困難なとき、1賃金計算期間内に1日、生理に際し有給生理休暇の日数越えて休養を要するときは、無給生理休暇を追加して与える。」旨改訂されたことが認められる。
しかしながら、右協約改訂の事実だけから、従前被告と新旧両組合間に被告主張のような慣行が存したと即断するわけにはいかない。
適用法規・条文
99:なし
収録文献(出典)
労働関係民事裁判例集22巻1号71頁
その他特記事項
控訴審(No.116)参照。