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A社未払賃金請求事件

事件の分類
その他
事件名
A社未払賃金請求事件
事件番号
東京地裁八王子支部 − 昭和47年(ワ)第31号
当事者
原告 個人4名
被告 A株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1974年05月27日
判決決定区分
請求棄却(原告敗訴)
事件の概要
原告ら4名は女性であり、いずれも被告A株式会社に勤務し、機械による織布作業に従事していた。同社では、精皆勤手当の支払いについて「出勤不足日数のない場合5,000円、出勤不足日数1日の場合3,000円、同2日の場合1,000円、同3日以上の場合なし」としていた、原告らは、昭和46年10月〜11月に生理休暇を2日間取得したため、会社は同年11月期の精皆勤手当のうち4,000円をカットして、1,000円のみ支給した。本件は、これに対し原告らが、同手当の減額分について支払いを求めた事件である。
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
判決要旨
民法は雇用契約を「労務」と「報酬」との交換契約すなわち労働の給付と賃金の支払いとが対価的牽連関係にたつ双務有償契約として捉えている(民623条)が、本件の精皆勤手当も精皆勤者に対する報償とその奨励にあることは明らかであるから、労働の給付と精皆勤手当の支給とは対価関係にあり、その限りでは、「労働なければ賃金なし」の原則があてはまるといわねばならぬ。そこで、労働者の責に帰すべからざる事由による労働不能の場合は、使用者の責に帰すべき事由によるものでない限り、当事者双方の責に帰すべからざる事由による労働不能として、労働者は精皆勤手当の支給請求権を失うことになる(民536条1項)。生理休暇について労働基準法67条は、使用者は生理日の就業が著しく困難な女子、または、生理に有害な業務に従事する女子が生理休暇を請求したときは、その者を就業させてはならない旨定めているが、これは一般的には生理現象は就労の障害にはならないが、主観的に困難を感ずる者および客観的に困難をともなうと考えられる業務の従事者には要求があれば休暇を与えねばならないとして、女子労働者の保護をはかったものである。すなわち、生理休暇は雇用契約における当事者双方の責に帰すべからざる労働不能の1事例といえる。したがって、労働契約、労働協約あるいは就業規則に格別の定めがない限り、生理休暇取得者は、当然に精皆勤手当請求権を取得するいわれはない。すると右の如き格別のとり決めをしていない本件にあっては生理休暇取得日数を精皆勤手当の支給に際し、出勤日数に算入することを請求することは、できないものといわねばならない。生理休暇は就労制限なのであって、労働基準法上生理休暇を有給とする旨の規定はなく、この点は民法にゆだねられているのであり、労働協約(あるいは労働契約)に定めた内容(本件に即して言えば、精皆勤手当の支給)が、結果として生理休暇を取得した女子に給与の面において不利に作用することがあったとしても(仮に、生理休暇日に出勤した女子に特別の手当を支給する旨の労働協約−労働契約あるいは就業規則−が労働基準法67条の趣旨に反し無効である場合があるとしても、そのことから直ちに右の如き無効とされることのある協約と、生理休暇を取得した女子に結果として不利益を与えることになる本件の如き労働協約−労働契約あるいは就業規則−を同視することは本件における原告らの主張立証からは困難である。)そのことから直ちに右協約または契約の内容(生理休暇取得日数を欠勤日数に算入する旨の内容)が労働基準法第67条の趣旨に反し、または同法第91条の趣旨に反し無効であるとか、あるいは公序良俗に反して無効であるとかいうことまではいえない。憲法は、労働者に団結権を基本的人権の1つとしてこれを保障している(憲法28条)が、国家は労働基準法その他の法律によって労働条件の最低限度を示すほかは、原則として労使間の労働条件に干渉せず、労働者の団結権を通じた自主的な活動による労働条件のとり決めに任せているのである。
同様に、生理休暇を取得した女子に、結果として不利に作用するような労働協約(あるいは労働契約)の存在が、女性労働者と男子労働者との対立を生じる原因となって、労働者の団結に悪影響がある場合も予想し得ないではないけれど、これを目して労働組合第7条第1、3号の不利益取扱いまたは支配、介入行為等に該当する不当労働行為であるとは、到底認め難い。
適用法規・条文
02:民法623条,07:労働基準法91条,02:民法536条1項,07:労働基準法67条
収録文献(出典)
判例時報745号95頁、判例タイムズ319号259頁、山口浩一郎・ジュリスト585号151頁、山崎雄司・季刊労働法94号90頁、水野勝・労働判例206号11頁
その他特記事項
旧労働基準法67条は、(1985年)改正され、現行労働基準法68条となった。控訴審(No.118)、上告審(No.118)参照。