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T社未払い賃金等支払請求控訴事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- T社未払い賃金等支払請求控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 昭和51年(ネ)第2749号
- 当事者
- 控訴人 個人8名
被控訴人 T株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1979年12月20日
- 判決決定区分
- 原判決変更(控訴人一部勝訴)
- 事件の概要
- 被控訴人T株式会社(電子計測器メーカー)は、生理休暇に関し昭和49年1月就業規則の改定を行い、従来、「女子従業員は毎月生理休暇を必要日数だけとることができる。そのうち年間24日を有給とする」と定めていたものを「女子従業員は毎月生理休暇を必要日数だけとることができる。そのうち月2日を限度とし、1日につき基本給1日分の68%を補償する」としたが、これに対し、8名の女子労働者が(1)生理休暇問題については合意が成立せず、したがって協定化されていないにも拘わらず会社は就業規則の変更を行ったものであるから、労働協約に違反してなされた本件就業規則の変更は、組合員である控訴人らには効力を及ぼさないものである、(2)また当該就業規則の変更は、控訴人ら女子従業員の既得の権利を奪い、一方的に労働条件を不利益に変更するものであるから、控訴人らに効力を生じない、として減額された生理休暇の手当についての支払を求めたものである。東京地裁は請求を却下・棄却し、これに対し控訴人らが控訴した。
- 主文
- 原判決第1項に対する控訴を棄却する。
原判決第2、3項を次のとおり変更する。
被控訴人は、控訴人Aに対し金4万1286円、同Bに対し金7万9567円、同Cに対し金4万6119円、同Dに対し金4万8941円、同Eに対し金3万3250円、同Fに対し金1万3894円、同Gに対し金2万8174円、同Hに対し金6万3164円及び右各金員に対する昭和51年11月13日から支払ずみまで年5分の割合による金員を各支払え。
訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
この判決は第3項に限り仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 就業規則は使用者が一方的に変更しうるものではあるが、労働者またはその所属する労働組合の同意がないのに、使用者が就業規則の一方的変更によって労働者に不利益な労働条件を課することは、原則として許されないと解すべきである。
もっとも、労働条件の統一的かつ画一的な処理のため、たとえば、賃金締切期日が1ヶ月2回であったのを1回とするような、賃金計算方法の変更などは、それが労使関係においては合理的なものである限り許される余地もあろう。しかし、賃金計算方法の変更であっても、継続的契約関係としての労働契約関係上、長期的に実質賃金の低下を生ずるような賃金計算方法の変更は、労働条件のうちでも労使の利害が真向から対立する賃金額を左右するものであるから、たとえ、それが使用者にとって合理的にみえても、原則に立ち返って考え、許されないと解すべきである(東京高裁昭和50年10月28日判決、高等裁判所民事判例集28巻4号320頁参照)。本件の就業規則変更が控訴人ら女子従業員について、生理休暇手当の減額を受けることにより、長期的に実質賃金の低下を生ずるものであるから、この変更は労働者に不利益な労働条件を一方的に課するものとして、許されないというべきである。被控訴人は、この変更は、生理休暇制度の濫用、賃金総額の大幅上昇の点からみて合理性を有するものであるから、許されるべきであると主張するけれども、たとえ、使用者にとって合理的にみえても、本件のように実質賃金の低下を生ずるような就業規則の一方的変更によって労働者に不利益な労働条件を課することは許されないのであり、かりに生理休暇制度の濫用があるとしても、その抑制には別途の方策を構ずべきもので、これを理由に生理休暇手当の額を就業規則の一方的変更により減額することは許されるものではなく、また、賃金総額が大幅に上昇したからといって直ちに生理休暇手当の額を一方的に減額することが許されることにはならないから、本件規則変更の効力が生じないことは明らかである。控訴人らが被控訴人に対し、原判決別紙未払賃金一覧表合計金額欄記載の額の未払賃金請求権を有することを認めることができる。
よって右未払賃金及びこれに対する弁済期後である昭和51年11月13日から支払ずみまで商事法定利率年6分の範囲内の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める控訴人らの本訴給付請求は理由があるから認容すべきものである。 - 適用法規・条文
- 99:なし
- 収録文献(出典)
- 労働関係民事裁判例集30巻6号1248頁、判例タイムズ404号48頁、判例時報954号3頁、労働判例332号16頁、労働経済判例速報1035号3頁、島田信義・労働判例336号4頁、野川忍・ジュリスト727号150頁
- その他特記事項
- 原審(No.120)、上告審(No.122)、差し戻し審(No.123)参照。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 - 昭和49年(ワ) 第2644号 | 請求却下・請求棄却(原告敗訴) | 1976年11月12日 |
東京高裁 − 昭和51年(ネ)第2749号 | 原判決変更(控訴人一部勝訴) | 1979年12月20日 |
最高裁 - 昭和55年(オ) 第379号 | 原判決一部破棄差戻(上告人勝訴) | 1983年11月25日 |
東京高裁 − 昭和58年(ネ)第3131号 | 控訴棄却(控訴人敗訴) | 1987年02月26日 |