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T社未払賃金等支払請求上告事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- T社未払賃金等支払請求上告事件
- 事件番号
- 最高裁 - 昭和55年(オ) 第379号
- 当事者
- 上告人 株式会社
被上告人 個人8名 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1983年11月25日
- 判決決定区分
- 原判決一部破棄差戻(上告人勝訴)
- 事件の概要
- 上告人T株式会社(電子計測器メーカー)は、生理休暇に関し昭和49年1月就業規則の改定を行い、従来、「女子従業員は毎月生理休暇を必要日数だけとることができる。そのうち年間24日を有給とする」と定めていたものを「女子従業員は毎月生理休暇を必要日数だけとることができる。そのうち月2日を限度とし、1日につき基本給1日分の68%を補償する」としたが、これに対し、8名の女子労働者が(1)生理休暇問題については合意が成立せず、したがって協定化されていないにも拘わらず被告は就業規則の変更を行ったものであるから、労働協約に違反してなされた本件就業規則の変更は、組合員である被上告人らには効力を及ぼさないものである、(2)また当該就業規則の変更は、被上告人ら女子従業員の既得の権利を奪い、一方的に労働条件を不利益に変更するものであるから、被上告人らに効力を生じない、として減額された生理休暇の手当についての支払いを求めたものである。東京地裁は被上告人らの請求を却下・棄却したが、その控訴審で、東京高裁は、被上告人らの主張を認め、労働者側の一部勝訴となった。これに対し、会社側が上告した。
- 主文
- 原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき本件を東京高等裁判所に差戻す。
上告人に対し、被上告人Aは金4万8129円及び内金4万1286円に対する昭和55年3月9日から、同Bは金9万2755円及び内金7万9567円に対する右同日から、同Cは金5万3763円及び内金4万6119円に対する右同日から、同Dは金5万7052円及び内金4万8941円に対する右同日から、同Eは金3万8761円及び内金3万3250円に対する右同日から、同Fは金1万6196円及び内金1万3894円に対する同月14日から、同Gは金3万2843円及び内金2万8174円に対する同月9日から、同Hは金7万3633円及び内金6万3164円に対する右同日から、各支払済みに至るまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
前項の裁判に関する費用は被上告人らの負担とする。 - 判決要旨
- 新たな就業規則の作成又は変更によって、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されないと解すべきことは、当裁判所の判例とするところであって(最高裁昭和40年(オ)第145号同43年12月25日大法廷判決・最高裁判所民事判例集22巻13号3459頁参照)、今これを変更する必要を見ない。本件就業規則の変更が合理的なものであるか否かを判断するに当っては、変更の内容及び必要性の両面からの考察が要求され、右変更により従業員の被る不利益の程度、右変更との関連の下に行われた賃金の改善状況のほか、上告人主張のように、旧規定の下において有給生理休暇の取得について濫用があり、社内規律の保持及び従業員の公平な処遇のため右変更が必要であったか否かを検討し、更には労働組合との交渉の経過、他の従業員の対応、間連会社の取扱い、我が国社会における生理休暇制度の一般的状況等の諸事情を総合勘案する必要がある。しかるに、原審が、長期的に実質賃金の低下を生ずるような就業規則の変更を一方的に行うことはそもそも許されないとの見解の下に、本件就業規則の変更が合理的なものであるか否かについて触れることなく、右変更は被上告人らに対し効力を生じないと速断したのは、就業規則に関する法令の解釈適用を誤ったものといわざるを得ず、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決中上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そして、叙上の点について審理を尽くさせる必要があるから右破棄部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。原判決中上告人の敗訴部分は破棄を免れないのであるから、原判決に付された仮執行宣言がその効力を失うことは論をまたない。したがって、右仮執行宣言に基づいて給付した金員及びその内金に対する給付の翌日から支払済みに至るまで民法所定年5分の割合による損害金の支払を求める上告人の申立ては、これを正当として認容しなければならない。
- 適用法規・条文
- 99:なし
- 収録文献(出典)
- 最高裁判所裁判集民事140号505頁、判例タイムズ515号108頁、判例時報1101号114頁、労働判例418号21頁、手塚和彰・ジュリスト808号63頁、新谷真人・季刊労働法131号159頁
- その他特記事項
- 地裁判決(No.120)、控訴審(No.121)、差し戻し審(No.123)参照。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 - 昭和49年(ワ) 第2644号 | 請求却下・請求棄却(原告敗訴) | 1976年11月12日 |
東京高裁 − 昭和51年(ネ)第2749号 | 原判決変更(控訴人一部勝訴) | 1979年12月20日 |
最高裁 - 昭和55年(オ) 第379号 | 原判決一部破棄差戻(上告人勝訴) | 1983年11月25日 |
東京高裁 − 昭和58年(ネ)第3131号 | 控訴棄却(控訴人敗訴) | 1987年02月26日 |