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T社未払賃金等支払請求差戻事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- T社未払賃金等支払請求差戻事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 昭和58年(ネ)第3131号
- 当事者
- 被控訴人 T株式会社
控訴人 個人8名 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1987年02月26日
- 判決決定区分
- 控訴棄却(控訴人敗訴)
- 事件の概要
- 被控訴人T株式会社(電子計測器メーカー)は、生理休暇に関し昭和49年1月就業規則の改定を行い、従来、「女子従業員は毎月生理休暇を必要日数だけとることができる。そのうち年間24日を有給とする」と定めていたものを「女子従業員は毎月生理休暇を必要日数だけとることができる。そのうち月2日を限度とし、1日につき基本給1日分の68%を補償する」としたが、これに対し、8名の女子労働者が(1)生理休暇問題については合意が成立せず、したがって協定化されていないにも拘わらず被告は就業規則の変更を行ったものであるから、労働協約に違反してなされた本件就業規則の変更は、組合員である控訴人らには効力を及ぼさないものである、(2)また当該就業規則の変更は、控訴人ら女子従業員の既得の権利を奪い、一方的に労働条件を不利益に変更するものであるから、控訴人らに効力を生じない、として減額された生理休暇の手当についての支払いを求めたものである。
第1審の東京地裁(昭.51.11.12)判決では労働者敗訴、第2審の東京高裁(昭54.12.20)判決では労働者勝訴、そして、最高裁(昭.58.11.25)判決では原審が就業規則の変更が合理的なものであるか否かを検討することなく判示しているのは就業規則に関する法令の解釈適用を誤ったものであるとして、原判決を破棄し、東京高裁に差戻した。
本件は、その差戻し審である。 - 主文
- 本件控訴及び控訴人らの当審における拡張請求をいずれも棄却する。
当審及び上告審における訴訟費用はいずれも被控訴人らの負担とする。 - 判決要旨
- 新たな就業規則の作成又は変更によって、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由としてその適用を拒むことは許されないと解するのが相当である。本件就業規則の変更は、控訴人らに不利益をもたらすと認められるが、これが合理的なものであるか否かについて検討すると、
1 有給生理休暇の取得が誠実に行われる限り、年24回から月2回への規定の変更が従業員にもたらす実際上の不利益は僅少であること、
2 就業規則の改訂後に30%以上のベース・アップがあったことにより、具体的な保障額の減少は軽微に止まっていること、
3 生理休暇の取得回数の約6割が土曜及び日曜日等の休日に接続して取得されているほか、取得回数が関連会社や一般企業のそれに比して高く、有給生理休暇の濫用があったといわざるを得ないこと、
4 生理休暇に係る就業規則の改定について、労働組合とも再三にわたり交渉を行っても、なお調整が困難な状況にあったこと、
5 生理休暇の取得に際し、会社側は出勤率加給及び賞与の算定に当って欠勤、遅刻、早退とみなさないなど相当の配慮を行っていること、
6 昭和53年11月20日の労働基準法研究会報告においても「雇用機会と待遇を男女平等に確保するという観点からも本来廃止すべきである」とされていることが認められる。
以上の諸事情を総合勘案すると、本件就業規則の変更は不利益なものではあるが十分な合理性があり、控訴人らにおいて、これに同意しないことを理由としてその適用を拒むことは許されず、控訴人らに対してもその効力を及ぼすものである。 - 適用法規・条文
- 99:なし
- 収録文献(出典)
- 労働関係民事裁判例集38巻1号84頁、判例時報1224号3頁、判例タイムズ630号259頁、労働判例492号16頁、労働経済判例速報1282号7頁、野間賢季刊労働法144号199頁
- その他特記事項
- 地裁判決(No.120)、控訴審(No.121)、上告審(No.122)参照。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 - 昭和49年(ワ) 第2644号 | 請求却下・請求棄却(原告敗訴) | 1976年11月12日 |
東京高裁 − 昭和51年(ネ)第2749号 | 原判決変更(控訴人一部勝訴) | 1979年12月20日 |
最高裁 - 昭和55年(オ) 第379号 | 原判決一部破棄差戻(上告人勝訴) | 1983年11月25日 |
東京高裁 − 昭和58年(ネ)第3131号 | 控訴棄却(控訴人敗訴) | 1987年02月26日 |