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N社賃金請求事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- N社賃金請求事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 昭和52年(ワ)第1168号、大阪地裁 − 昭和53年(ワ)第7122号
- 当事者
- 原告 24名
被告 N株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1981年03月30日
- 判決決定区分
- 請求一部認容(原告一部勝訴)
- 事件の概要
- N社は、医薬品の輸入・製造販売等を業とする会社であり、同社は、N社労働組合との間に昭和51年から昭和54年まで毎年稼働率80%以下の者の賃金引き上げをしない旨を含む労使協定(以下「80%条項」という。)を締結したが右稼動率の算定の基礎となる不就労時間には、欠勤、遅刻、早退によるものの外、年次有給休暇、生理休暇、慶弔休暇、産前産後の休暇、育児時間、労働災害休業、労働災害の治療のための通院、ストライキ等組合活動によるものを含めていた。
原告ら24名は、賃上げ対象者から除外されてきたため、本件80%条項は、憲法13条、25条、27条、28条、労働基準法39条、65条、66条、67条、労働組合法7条に違反し、民法90条の公序良俗に違反して無効であるとして賃金引上げが行われていれば支払われた賃金、夏季、冬季一時金、退職金と実際に支払われた賃金等との差額、慰謝料及び弁護士費用を支払うよう求めて、提訴した。 - 主文
- 一 被告は、別紙請求債権目録1記載の各原告らに対し、右各原告らに対応する右目録1の(21)の認容額欄に記載の各金員及びそのうち右各原告らに対応する右目録1の(22)欄記載の各金員に対する昭和52年3月17日から、同(23)欄に記載の各金員に対する昭和55年11月1日から右各支払済に至るまで年5分の割合による金員、並びに、昭和55年11月から毎月25日限り、右各原告らに対応する右目録1の(24)欄に記載の各金員を、それぞれ支払え。
二 被告は、別紙請求債権目録2記載の各原告らに対し、右各原告らに対応する右目録2の(15)欄の認容額欄に記載の各金員及びこれに対する原告Aの関係では昭和53年7月4日から、原告Bの関係では同54年3月1日から、原告Cの関係では同55年2月1日から、原告Dの関係では同53年8月22日から、原告Eの関係では同年1月26日から、右各支払済に至るまで年5分の割合による金員を、それぞれ支払え。
三 被告は、別紙請求債権目録8記載の各原告らに対し、右各原告らに対応する右目録8の(19)の認容額欄に記載の各金員及びそのうち右各原告らに対応する右目録8の(20)欄に記載の各金員に対する昭和53年12月6日から、同(21)欄に記載の各金員に対する昭和55年12月1日から右各支払済に至るまで年5分の割合による金員、並びに、昭和55年11月から毎月25日限り右各原告らに対応する右目録8の(22)欄に記載の各金員を、それぞれ支払え。
四 被告は、別紙請求債権目録4に記載の各原告らに対し、右各原告らに対応する右目録4の(19)の認容額欄に記載の各金員及びそのうち右各原告らに対応する右目録4の(20)欄に記載の各金員に対する昭和55年4月11日から、同(21)欄に記載の各金員に対する昭和55年11月1日から右各支払済に至るまで年5分の割合による金員を、それぞれ支払え。
五 被告は、原告F、G、Hに対し、昭和55年11月から毎月25日限り、右各原告らに対応する別紙請求債権目録4の(22)欄に記載の各金員を、それぞれ支払え。
六 原告らのその余の請求を棄却する。
七 訴訟費用はこれを3分し、その2を被告の負担とし、その余を原告らの各負担とする。
八 この判決は、第1項ないし第5項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 年次有給休暇は、単に使用者からの恩恵として与えられるものではなく、年次有給休暇の権利は、労働基準法39条1、2項の要件が充足されることによって、法律上当然に労働者に生ずる権利であって(最高裁判所昭和48年3月2日・民集27巻2号191頁)、右年次有給休暇日に就労したときは一定の金銭等を支給する旨のいわゆる年次有給休暇の買上げ契約や、その他右年次有給休暇を放棄する旨の契約は、労働基準法39条1、2項に違反して無効であると解すべきであるし、また、年次有給休暇を取得した場合には、その日数に応じて相当多額の収入減少を伴うことが予め定められている契約は、年次有給休暇の買上げと同様の効果があるから、労働基準法39条1、2項に違反するか或いは民法90条の公序良俗に違反するものとして無効と解すべきである。
従って、労働者が年次有給休暇をとったことを理由に、賃金引上げその他において不利益な取扱いをすることは、労働基準法39条1、2項に違反し、許されないものというべきである。賃金の外に、生理日に出勤した女子に超過勤務手当を支給するなど特別の手当を支給することは、生理休暇の取得を抑制することになりかねないから、労働基準法67条に違反して許されないものと解すべきである。産前産後の休暇を取得することは、法律上女子労働者に認められた権利であるから、産前産後の休暇によって休業した期間は、労働基準法39条1項の年次有給休暇に関する規定の適用については出勤とみなされるし(同条5項)、また、使用者は、産前産後の女子が右労働基準法65条の規定によって休暇をとっている期間及びその後30日間は、解雇をしてはならない法律上の義務を負っている外(労働基準法19条)、女子労働者が産前産後の休暇をとったことを理由に、賃金引上げその他において不利益な取扱いをしてはならないと解すべきである。女子労働者が右育児時間をとることも法律上認められた権利であるから、使用者は、女子労働者が右育児時間をとったことを理由に賃金引上げその他において不利益な取扱いをしてはならないというべきである。なお、育児時間中の賃金については、月給もしくは日給の場合には、原則として差引くことは許されず、ただ時間給の場合にのみ、労働契約等でこれを差引くことができるものと解すべきである。労働災害による休業及び通院による不就労についても労働基準法75条、76条、77条、19条、39条(5項)等の規定の趣旨に照らし、上記不就労を理由に不利益な取扱いをしてはならない。ストライキや団体交渉による不就労についても、憲法28条、労働組合法7条の規定により、上記不就労を理由に不利益な取扱いをしてはならない。このことは、上記不利益を受けるにつき労働者の包括的な承諾があった場合も同様に解すべきである。本件80%条項は年休等の取得を理由とした不利益な取扱いを定めたものというべきで、また労働者として爾後上記権利の行使を抑制する機能を有しており、現実の運用面においても、労働者が労働基準法等で認められている権利行使をしたため、賃金引上げにおいて不利益な取扱いを受け或いは、その権利行使を抑制する結果を招いているといえる。本件80%条項は労働基準法39条、67条、65条、66条、75条、76条、77条、19条、憲法28条、労働組合法7条等の各規定ないしはその規定の趣旨に違反しひいては、民法90条に反するものというべであるから、当然無効というべきである。 - 適用法規・条文
- 07:労働基準法39条(旧)67条,65条,66条,75条,76条,77条,19条,01:憲法28条,12:労働組合法7条,02:民法90条
- 収録文献(出典)
- 労働関係民事裁判例集34巻4号733頁(参照)、労働経済判例速報1080号3頁、判例タイムズ437号77頁、労働判例361号18頁、秋田成就・ジュリスト780号148頁、山口浩一郎・労働経済判例速報1118号20頁
- その他特記事項
- なし。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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大阪地裁 − 昭和52年(ワ)第1168号、大阪地裁 − 昭和53年(ワ)第7122号 | 請求一部認容(原告一部勝訴) | 1981年03月30日 |
大阪高裁 − 昭和56年(ネ)第719号、大阪高裁 − 昭和56年(ネ)第1886号 | 控訴棄却(控訴人敗訴) | 1983年08月31日 |